9話 フィリア見参
更新遅くなってしまい、申し訳ありません。これからも細々と続けたいと思っております。よろしければお付き合いください。m(_ _)m
「魔法とは、生まれた時から共にある特別な力のことである。人それぞれで違う魔法を一つ持って生まれる。しかし、魔法が使えるようになるには個人差がある。一般的に子供から大人になる時、自然と使えるようになると言われているが、何を基準に使えるようになるのかは、まだ分かっていない。」
魔法学の研究者であり、カークリード学園で先生もしているヘンリーが教壇に立ち、教科書を読んでいる。
「『魔法とは、家族であり、友であり、恋人でもありながら、まぎれもない自分自身である。』これは、かの有名な魔法学者ストウィードが残した言葉だ。この中に魔法が使える者はどれくらいいる?」
ヘンリーが教室にいる生徒達に聴くと、だいたい教室の3分の1の生徒が手を挙げた。その中にはイーサンやアンドレアの姿もある。
「今年は例年に比べて多いな…。下ろしていいぞ。まだ魔法が使うことができない者も心配することはない。君たちはこの学園で過ごす日々で決して少なくない刺激を受けることになるだろう。そこで様々な経験をし成長することができれば、使えるようになる。」
ヘンリー先生はそう言うとニヤリと笑って、「成長できればの話だかな。」と言った。ヴィオラは何回もループを繰り返しているが、まだ魔法を使えるようにはなっていない。
ーー魔法学って、まだ使えない人からしたらなにも面白くないのよね…。討論に入るのは最後のほうだし。
それでも今日は3日ぶりに学校に来れた日であったため、ヴィオラはため息を押し殺し、授業に参加する。今日はヴィオラが自殺しようとした日から3日経っていた。あの後、ヴィオラは無茶なことをするなと両親に叱られることになった。そのことに、今まで叱られたことのなかったヴィオラはとても驚いた。ヴィオラは両親と仲が良いわけではない。それはなにもヴィオラだけではなく、多くの貴族は両親と疎遠になるものだ。領地を任されている貴族は仕事や夜会で忙しく、子供の世話を他人に任せることが多くなってしまうからである。だから、ヴィオラは今回のことで両親になにか言われるなど考えもしなかった。
ヴィオラには従姉妹が存在しており、ヴィオラがいなくなったらなったで、婚約者が変わるだけでサングリア家にはなにも影響しない。自分の身を案じて怒られるということに慣れていないヴィオラは、気づいた時には言われるがままに部屋に閉じこめられていた。王宮の騎士や医療魔法の使い手を派遣する手続きが整うまで、何をするかわからないと考えられたからだった。もちろん見張りである侍女のヘレンを含めた多くの召使いと共に。
そのおかげでヴィオラはまだこのループにいる。
さらに、予想外のことがもう一つ…。
「ヴィオラ嬢はまだ魔法が使えないんだな。」
「殿下、その言い方は失礼ですよ。ラルクもまだ使えませんし。」
「そーなのか?どうせいつかは使えるようになるんだ。気にする必要はないだろう。」
「しかし、言われるのは嫌なもんです。少なくとも自分は、魔法で威張るやつは全員剣でねじふせます。」
「…ラルクは冷静でいることを少しは覚えましょうね。そんなことでは魔法を使えるようになりませんよ。」
ヴィオラの右隣にはアンドレア、左隣にはラルク、そして後ろの席にはイーサンが座っている。3人はヴィオラを挟んで会話していた。
ーーどう考えても私の位置がおかしい!!
授業が終わると意を決して、ヴィオラはアンドレアに話しかける。
「…あの、殿下。一つよろしいでしょうか。」
「どうした?」
「私と席を入れ替えた方がよろしいと思うのです!おかしくないですか!?この席順!!」
そう言うとアンドレアはにっこり笑った。
「それはできない相談だな。」
「どうしてですか!?」
「ヴィオラ嬢は私が目を離したらすぐ死ぬだろう?」
「当たり前じゃないですか!」
その実情を知らないものからしてみれば、砂を吐きたくなるほど甘ったるいカップルの会話だった。まさか本当に死のうとしてるとは思うわけがない。学園では、ヴィオラがとじこめられていた3日間で、“次期皇妃は殿下の愛を試すために死のうとした”という噂が広がっていた。あの時、ヴィオラが首を切る瞬間をみたのは殿下達だけではない。そこには、ヴィオラの因縁の相手であるフィリアも一緒にいた。普通の少女が目の前で血が吹き出る様子を見て平気なわけもなく、フィリアの尋常じゃない叫び声に人が集まり、より目撃者が増えてしまっていた。さらに次の日になってもヴィオラは学校に来なかっため、だれも噂のことを疑いはしなかった。やっとヴィオラが学校に来たと思ったら、アンドレアとイチャイチャする光景に、痴話喧嘩に学園や国を巻き込むのはやめてほしいと全員が思った。
そんなクラスメイトの様子に気づかないヴィオラはなかなか死ねない状況にイライラしていた。
ーーまぁ殿下が目を離したところで、“影”が目を離してくれないんですけど!!
当初、ヴィオラには騎士が着く予定だったが、“影”の方がなにかと都合が良いと考えた王の判断で“影”がつけられていた。“影”とは王宮が抱える、隠密部隊のことである。ここに属する人間は裏の世界で使いやすい魔法も持っている者たちだ。
そんな時、こちらへ近づいてくる少女にヴィオラが一番早く気が付いた。
「…フィリアさん?」
その少女とは、ヴィオラの一番のライバルであり、不幸にも今回の事件で血が噴き出すところをまともに見てしまった被害者でもある、フィリアだった。ヴィオラの呼びかける声で、アンドレア達3人も近づいてきていたのがフィリアということに気づいた。フィリアはヴィオラと目が合ったことを確認すると覚悟を決めたようだった。
「…あ、あの…。」
ーーあら、よく見たら顔が真っ青だわ…。気分でも悪いのかしら?
今にも倒れそうなフィリアの様子にヴィオラは心配になり、声をかけようとする。しかし、その声はフィリアの声にかき消されることになった。
「も、申し訳ございまぜんでしだぁぁぁあああああああ。」
「ふぃ、フィリアさん!?」
目の前でいきなり跳んだと思ったら、フィリアはヴィオラの前で土下座していた。フィリアは見るものが思わず引いてしまうほど、号泣していた。突然聞こえてきた大声にクラスにいる誰もがフィリア達に視線を集める。とりあえずヴィオラは頭をあげさせようとするが、フィリアの言葉にまたもやかき消されてしまう。
「わ、わわわ私ごときがぁああ殿下と仲を深めようなどと考えたことは一度もありまぜぇんっ!本当に本当です!どうか、信じてください!」
「わ、分かったからとりあえず、落ち着きましょ?ね?」
「私が道に迷ったばかりにっ!ヴィオラ様をあんな目に合わせてしまうなんてっ!!なんとお詫びすれば良いかっ!」
「とりあえず頭をあげましょう?大丈夫だから!」
「うわぁあああ!すびませんすびません!またヴィオラ様にご迷惑をおかけしてしまったぁあ!」
淑女とは思えないフィリアの様子にクラスメイトはドン引きだった。そこにはアンドレア達も含まれている。
「な、なんというか…強烈だな…。」
「フィリア嬢のご実家は代々有名な騎士を出している名家ですからね。熱い人物が多いそうですよ…。」
「…うちの妹にそっくりです。」
イーサンが遠い目をしながら殿下に説明する。ラルクはフィリアから連想される実家にいる妹が自分の母や父に迷惑をかけていないか心配になった。
ヴィオラは今までのループでフィリアと友人になった時のことを思い出して、遠い目になる。
ーーま、まさかまた土下座をやられるとは…。人前でするものではないとあれだけ言ったのに…。
最初は何事かと見ていたクラスメイトもただフィリアが謝っているだけだと分かると次の授業の教室に移動し始める。そんな中、ある男子生徒が教室を出ようと、筆箱に筆記用具をしまっていると、あることに気づいた。
「あれ?俺の消しゴムがないや。」
「あ?どっかに落としたんだろ。」
「えー買ったばっかだったのに…。」
その会話が偶然ヴィオラの耳に入った。
ーーあぁ、そうだわ。そろそろあれがくるわね。まぁ、それまでにはこのループにはいないから関係ないわ。
ヴィオラはこの後起きる事件に気づきながらも考えることを放棄した。というか今は目の前のことで手一杯だった。
「申し訳ございません〜〜〜!!」
「わかったからっ!!もういいからっ!!顔をあげてぇぇぇぇ!」




