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切ないベクトル



「…」

屋上で黄昏る真琴。


バレーボール、バトミントンの両部の主張はこうだった。

新学期に入りバスケ部の朝練参加者がバレー、バド両部の参加人数の半分以下どころか三分の一程の状態で、同じコート面積を使用するのはおかしい。練習状況も覇気が無いものでやってもやらなくても同じ様に見える。

ならばバスケ部の朝練は日数を減らすか、今のコートの半分は譲るべき。こっちはコート練習したくても溢れて出来ない者も居て困ってる。

との事だった。


そしてこの案件は次の体育会の定例会で提出するとも告げられた。



ー …どうしよう。


フェンスから雲ひとつ無い空を真琴は見続ける。


正直今のバスケ部に朝練は必要無いし、バトミントンやバレー部がコートの主張するのも当然だと納得はしていた。

おそらく両部の主張は次の定例会で通るとも思う。

通ればコートと共に部費の割り当ても削減されるのは目に見えている。


ただ真琴にとって朝練が減るとは、バスケ部の運営とは別に特別な思いがあった。


湊との練習である。


真琴にとって湊と一緒に練習が出来る、1対1の勝負が出来る朝練はただ単に自分のレベルの向上だけではなかった。


真琴は密かに湊へ想いを寄せていた。


湊が晶に想いを寄せていた事も知っている。

湊が晶に告白し、それが叶わなかった事も知っている。

それはホッとした、よりも何故か辛く、自分も胸が痛くなった。

だからこそなのか真琴は晶への思いも今までより一層深くなった。

どうすれば自分は晶の代わりになれるのだろうか?晶に成れれば湊は自分を見てくれるのだろうか?自分が晶に、自分が晶に…そんな思いから髪をショートカットに変えて、晶のプレイを徹底的に追求し、気付けばガード(※)というポジションにおいて真琴は晶に迫る実力を身に付けていた。


これは真琴にとって嬉しい事でもあった。


真琴にとって晶は入学前からの憧れの選手だったからこそ、彼女のスタイルを身に付けたのは最高のステータスであり、晶がバスケ部から戦線離脱しても部が戦力ダウンしなかったのは真琴の功績でもあったからだ。

ただし、湊が真琴に振り向く事はなかった。

真琴が晶に近付けば近付く程、湊への想いが強くなる程、湊の心が何故か遠くに感じてそれはとかく、悲しい追いかけっこをしてる様な感覚だった。

だけど真琴はそれでも現状に満足はしていた。


朝練で触れ合える唯一の時間。


今朝は参加人数の少なさに憂鬱を唱えはしたが、彼女にとってかえって都合は良かった。

晶を真似することで、晶への想いを湊と共有することが出来る唯一の時間が朝練の1on1であり、それが彼女には湊とデートをしてる様な気分でもあった。


コートの面積を失うと、自由な時間も減る。

それは同時に1on1を楽しめる機会も減ることになる。


どうしよう…どうにかしないと。

部に相談持ちかけたとこで答えは知れてる。じゃ誰に…ミハル先輩…いや、和久井君がいい。

多分彼なら何か答えてくれる。


言ってみれば女子バスケ部だけの問題ではない、男子バスケ部にもとっても問題なのだ。キャプテン同士先ずは自分らが策を練ろう。


真琴は心を入れ替えて教室に戻ろうとした。


その時、屋上の入り口から聞いた声が届いてくる。


「まったくダメだねぇ、アハハっ」


笑い声と共に現れたのは珠代だった。


ー ナベ?そうだ、ナベも一緒に居ればもっといい感じで和久井君とも相談出来るかも。


「ナ…」



ナベ、丁度いいとこに来てくれた、和久井君に相談あるからナベも乗ってくれる?

と、言いたかったのだが、真琴はとっさに身を翻しそそくさと給水塔の影に身を隠してしまった。

幸いにも昼休みだった為屋上は他の生徒もくつろいでいて、真琴の行動は目立たなかった。


真琴はそっと影から珠代を見る。

珠代は湊と一緒だった。


ナベと和久井君…?

なんだろ、随分親密そうな感じ…


真琴から見た二人は少し距離があり会話までは聞こえかったが、良い雰囲気には感じた。

察するにバスケ絡みだろう。今朝のバレー、バドの両部が訴えた時その場に珠代も居たから、勢い余って珠代が湊に相談を持ちかけた。珠代は冗談含めて湊をいじってる…

始めはそんな空気だったが、どうやら会話の内容はそうでもなさそうだった。


ヤバっ、こっち来る!


最初は珠代が笑いながら湊の肩をバシバシ叩いて、湊がそれに半怒りとよく見た光景。

でもいつしか二人ともフェンスの外を見ながら物思いに耽けている。


そして二人は何かポツポツ話しながら真琴の給水塔へ歩み寄って来た。


真琴は慌てて更に影の奥へ隠れるが距離は何mも無い位置なので、何を言ってるのかが、はっきり聞こえだした。


「ー ってゆうか、そもそもなんで郷内な訳?」


郷内君?

今朝の事でも話してるのかしら?


「うん…まぁ」

普段は歯切れも良い珠代だがこれには苦笑いを浮かべてる。


「今朝のあいつからしても正直お前の気持ちが理解出来ないってゆうか…」


やっぱり朝練の事だわ。

ナベのとった行動が何?甘やかしてるとかかな?


「確かに奴は上手いよ。でも俺はあいつ無理だわ、試合組んでも息合わないしプレイ自体も自分勝手だしな…言っとくけど俺があいつに1on1で負けたからとかが理由じゃねぇぞ?」

「分かってる。確かに郷ちゃんは自由奔放だし、あたしなんかに興味無い事くらい…分かるよ」


「⁉︎」

え?え⁉︎

ナベが郷内君に?どうゆうことだ?


「郷ちゃんの色々良くない噂だって知ってる…でもね、彼だってすごくいいとこあるんだよ」

「…」

無言の湊。彼の中には郷内の良さがまだひとつも浮かんでいなかった。

そんな湊を見て珠代はポツリと言う。

「…助けてもらったの、前に一度だけ」

「何だそりゃ」

珠代は少し躊躇うもハァと息を漏らしてその顛末を語る。

「…練習サボって友達…ってゆうかひかると…カラオケしてストレス発散してたんだけど、帰りに不良に絡まれて…あっちはナンパ目的だけど適当にあしらって切り抜けようとしたら、すごくキレ出してヤバかった」

練習をサボってしまった事を思わぬ形で吐露してしまった珠代。しかも友達であり女子バスケ部マネージャーのひかるの名前も出して少し申し訳ない気持ちになった。

「つまり…その場に郷内も居合わせたと」

「郷ちゃんは別で、彼のグループがたまたま通りかかったのよ。それであっという間にヤンキーを蹴散らしてくれて…まぁ結局うちらは郷ちゃんのグループとそこから仕切り直しでまた遊びに行ったんだけどね。なんていうか、ウチらお互いサボって遊んでるけど内緒ねみたいな?なんか、そんな秘密の共有出来た事が…ちょっと嬉しくてさ、練習の愚痴とか聞いてくれたし…」


「…(ナベ…)」

複雑な気持ちは真琴もそうで湊と同じ表情を浮かべる。


「そんなとこだよ、ウケるっしょ」

「笑うかよ。お前の気持ち聞いて笑うって頭イかれてるだろ」

「…ありがと」

「つうかお前、サボってんじゃねぇよ。犬飼や三原先輩が聞いたら立場ねぇぞ」

「ギャーっ!勘弁してったら、先輩はともかくわんこにだけは…」


「…(既にここに居るけど)」


「言わねぇって。安心しろ。とはいえ郷内、郷内かぁ…まぁ奴の良いとこってのは分かったよ。ただ今朝も見ただろ、犬飼にちょっかいを出して、なんか女を選んでるっつうか」


「…(おっ、和久井君、私を心配してくれてる…?)」


「まぁね」

「知ってるだろ?あいつの趣味っつうかなんつうか、女を取っ替え引っ替え。しかも自分に興味無い奴程燃えるっていうか。正直犬飼の事もちょっと心配だしな」


「!(和久井君…私の事…というか、郷内君は思った通りの最低だ、改めて嫌いになった)」

自分に少しは気がある…そんな欠片に触れた瞬間、真琴は耳疑った。


「嘘ばっか。和久井君が心配なのはわんこより晶ちゃんなクセに」


「!?」

え⁉︎


真琴は一瞬本当に身を乗り出して駆け寄って行きそうになった。


「だからあたしが提案したコートを守る秘策に晶ちゃんを朝練の臨時コーチに据えるって案を蹴ったんでしょ」


⁉︎

ミハル先輩を臨時コーチに…それより和久井君が私より先輩が心配って…郷内君が先輩がまだこの学校に残ってるを知ってる訳?


「晶ちゃんが選手じゃなくてもバスケ部に復帰すれば、間違いなく郷ちゃんは先輩に目を付ける!そうでしょ?だって塩対応のわんこにさえあれだけしつこいんだもん」

「…お前はどうなんだよ」

「そりゃ良くはないよ…でもさ、あたしだってあんたの相談に乗ってる。そしてこういう事こそ晶ちゃんに堂々と和久井君から話せる要件なんじゃないの?現にうちの部は弱くなったのは事実だし」


「…」

和久井君…やっぱりまだ先輩のこと…


「確かに朝練続投については先輩に相談したいって思ってる。お前が俺に乗ってくれてんのも感謝してるよ。お前の言う通り先輩が心配だよ。勿論先輩があんな奴相手にもしないだろうけど。ただ俺がそれ持ちかけて仮に先輩が部活復帰してくれたとしても、郷内なんかの為に迷惑掛けたらって思うと…あいつのおかげで女バスの部員何人減ったか、マネージャーだって…」


「やめてよ‼︎ そんな事言うの‼︎」


「鍋崎」


「証拠あるの?郷ちゃんが原因で部員減ったとか」

「…」

「噂でしょ、それは。郷ちゃんの良くない噂」

「…」

「郷ちゃんはバスケが上手い、それは認める。でも素行態度が良くない、悪い噂もある、だからあたしは郷ちゃんを諦めろって事を言いたいんだよね?和久井君は」

「…」

「おかしくない?それ。あたしは晶ちゃんの悪い噂があるから諦めろなんて言ってないよね?晶ちゃんとカトちゃんのデート写真出たから諦めろなんて言ってないよね?」

「…」

「何のための同盟だよ、お互い頑張ろうって言ったじゃん!」

「…すまん」

「噂だけで郷ちゃんを決めるのやめて」

「そうだな。それは悪かった」

「…」

「…とりあえず俺、教室行くわ。朝練続投の提案サンキューな、考え直す」

「…うん」


「…」

ナベは郷内君が…

和久井君は先輩が…

私の知らないところで二人は手を結んでたんだ。私の気持ちの裏で二人は…とは言っても私も和久井君への気持ちを誰にも喋ってはいない訳だから、それは仕方のない事…でも…


真琴は胸の内が痒くて痒くて仕方なくなる。皮膚が痒いならともかくその内の内で、もやもやしたものがドロドロと溶かされていく気持ち悪いものを覚えた。


珠代がまたフェンスに向かうのを見て真琴は気配を消して近づき、タイミングを見計らって、


「わっ!」


と、脇腹をムニュッと鷲掴み。


「うぐひゃぁらぁ!」


慣れない箇所を不意打ちで掴まれた珠代は奇声を上げて飛び上がった。


「おぉ、すごいジャンプ力。これを試合で活かせば…」

「わんこか!びっくりしたわ!何してくれんの」

「ナベが珍しく屋上でひとりだから」

「おい。あたしだってたまには」

「あれ、でも今さっき和久井君ともすれ違ったけど、和久井君も一緒だったの?」


「え⁉︎ あれ、和久井の旦那…うーん?居たのかな、気付かなかった」


真琴は珠代の嘘に少しだけ目つきが変わる。

でもすぐにその目をやめた。


「…そっか。ナベと和久井君が一緒だったらバスケ部の相談してるかなって思ったから」

「相談ってなんの」

「ん?ほら、朝練でコートを譲るかどうかの…ナベならなんかいいアイデア閃きそうな気がしてさ」

「え⁉︎ あたしが⁉︎ う、うーむ…放課後まで考えるよ」

「そう…じゃあキャプテン同士和久井君を頼ってみる、ちょっと探してみるよ和久井君を」

「きっと教室か部室でしょ」

「そだね。あ…やっぱナベも一緒に探してくれる?」

「へ?あたしも?うん、いいけど」

「ありがと、良かった…いざ二人で話すってなると、なんか恥ずかしいから」


「え?わんこが?なんで」


「…」

「…わんこ?」


「秘密…にしてくれる?」


「…」

最初は真琴は何が恥ずかしいのか珠代も良く理解はしていなかった。

しかし真琴の表情と声が変わった時、それが充分伝わった。出来る事なら思い違いでと祈ったが珠代の予感は命中する。


「好きなの。彼の事…和久井君の事」

「わんこ…」


「秘密にして欲しいけど、応援もして欲しいな…」

「…」

固唾を呑んだ珠代。その場で真琴を二つ返事で応援するとは言えなかった。


何と無くの雰囲気で流す様に取り繕う珠代。とりあえず湊を二人で追うが真琴に気付かれないように素早くメールを打ち込んで湊へ送信した。


『〜緊張案件〜今わんこと二人であんたを探してる。会ったらとにかくあたしに話し合わせろ、朝練コーチの件お前の案にしろ〜』



〜…


2.


放課後の教室。

真琴、珠代、湊の三人は晶へ臨時コーチの案件を頼み込んでいた。


しかし


「…無理」


晶はそっぽを向いて流し気味で言い放つ。


「!」

晶の反応は三人が予想してないものだった。


「そんな事言わないで下さいよぉ、バスケ部の危機なんすよ」

「…」

食い下がる珠代だが晶は耳を貸す素振りは見せない。

真琴も珠代に続く。

「特に女子は戦力が大幅に減りまして…技術もそうだけど気持ちで負けてるっていうか、だから先輩がちょっと顔見せてくれるだけでも…」

しかし何気ない言葉で晶の態度が変わった。

「ちょっと?ちょっとって…?」

「あ、いや、その」

「わんこ、私はちょっとで済む便利な存在だと」

「いやいやいやいや晶ちゃん、それはですね…」

「…」

笑って流そうとした珠代に対し晶が睨むと背筋が伸びる程固まった。

「…」

ヤバイ、あの目…地雷踏んだかも…

珠代の中に晶の現役時代が蘇る。

「先輩、すいません、軽はずみな事言って。俺からも謝ります。でもこいつら責めないで下さい。俺らで話し合いはしたんすが先輩の意見も聞きたいっていうか」

「和久井君…」

湊のフォローが胸に染みる真琴。だが晶は湊にも二人と同じ反応を見せる。

「だったら私より男バス顧問の南海みなみ先生や女子は加藤先生に聞くべきでしょ?迷惑なんだけど」

「勿論この後南海さんにも相談するし部の奴らにも言います。ただ…先輩が同じクラスである以上、俺らは先輩に意見聞くのもダメなんすか?毎日来てくれなんて言いません。一ヶ月に一度でもいい、体の調子が悪くない時だけ、ほんの数分見てくれるだけとかでも…」

「…」

珠代は視線で “グッジョブ” と湊に送った。

おぉ、和久井君、なんだかんだでバスケになると熱い。初めてポイント稼いだかも。

しかし珠代の考えとは裏腹に晶は表情を変えずに席を立った。

「和久井君。今日はもう学級委員の仕事は無いよね?帰ってもいい?」

「先輩!」

「…今日も病院に行かないといけないんだけど」

「…すんません」

病院と言われれば引き止める訳にいかない三人。


「また明日」

晶は心に響かない言葉を残し去って行った。


「…」

三人は無言になった。

無言の中、思いはそれぞれだが改めて共通するのは、三原晶という人間を心のどこかで見くびっていたのかもしれない、だった。


強引に拝み倒せば、“晶ちゃん” や “学級委員” の様にきっと引き受けてくれる。だって晶はバスケに熱い人間なんだから、と。


だがバスケ部の話しをした途端、晶の瞳の濁り、それはサイボーグと呼ばれた時の雰囲気そのもので、もう自分達は明日から一生近づく事も出来なくなる、あの感覚に近いものが生まれてしまった。


何が晶を不機嫌にさせたか分からない。

おそらく自分らの発言が地雷を踏んだのだろうが…


「納得いかないっ!」

真琴は席を立ち上がる。

「わんこ?」

「私、先輩にもう一度掛け合ってくる」

「ちょっと待てって。気持ちは分かるが今はマズイんじゃねぇか?」

「何がマズイの?私達何か変な事言った?おかしいのは先輩の方じゃない!ナベ、先輩の病院ってあそこでしょ?まだ変わってないよね?」

「わんこ行くの?」

「今ならまだ追いつくから…今日部活遅れるってナベ、フォロー入れといてっ」

「わんこ?え、ちょっと、マジ⁉︎」


学校から決して逃がすまいと駆け出す真琴。


とその時。


「お⁉︎」

「ゴメン!」

教室出た直後に男子生徒とぶつかる真琴。

どちらも怪我も無く倒れる事も無かったので真琴は一言だけ添えて廊下を走り去って行く、男子生徒が誰かも気付かない位急いでいた。


「…」

そんな真琴の後ろ姿を何と無く見ていた男子生徒は郷内だった。


「…」

あの冷静沈着な風紀委員長ちゃんがなんか知んねぇけどエラい慌てようじゃないの。

ちょっとからかいに来たつもりなのに…こりゃなんか宝でも掘り当てそうな予感してきた。


特に慌てる様子を見せない郷内は真琴の走り去った方へ歩いて行く。


〜…


3.


「先輩!」


全速力で追尾した結果、真琴は晶に玄関前で追いつくことが出来た。


「何?」


両膝がガクンと落ちて肩で息をする真琴に晶は特に気遣う事もない。


「言ったよね、病院行くって…」

「その前に!」

真琴は声のトーンを張る。

「!」

ビクっとなる晶。怯んだ彼女へ追加する。どうしても逃がしたくなかった。

「もう少しだけお時間いただけませんか?お願いします、さっきの事、謝ります、すいませんでした!でもどうしても納得いかなくて…お願いします、もう少しだけ」

「…」

「お願いします!」

「…」

困った顔をする晶。

真琴は何度も頭を下げた。

「お願いします!」

「…」

何か異常な光景に周囲の生徒らも注目を集め始めている。

「…」

少し考えた後、晶は携帯に何やらメールを打ち込む。

「分かったから顔上げて。それ、迷惑」

横目で視線を逸らし晶は嫌味な溜息を吐く。

「は、はい」

「今みたいに絶対に大きな声出さないで、変なアクションしないで。それ守ってくれるなら少しだけ付き合う」

目立ちたくない晶は上履きに履き直した。

「はい。ありがとうございます」

何はともあれひとまず晶の捕獲に成功した真琴も胸を撫で下ろす。


〜…


晶と真琴は食堂に来た。

桜杏高校の食堂はとても広々としていて昼休み以降は閉門まで解放している。

生徒によって使い方も様々で雑談を楽しんだり、放課後の自習に使ったり、体育会系の部員は部活動の後に食事したり憩いの場になっていた。


晶はイライラする心を落ち着かせる為に自販機でお茶を買って席に着いた。

「で、話しって?」

ペットボトルの蓋を開けたが口は付けず頬杖を突く。

「さっきはすいませんでした。うちらが何か先輩の気に触れてしまって」

「…」

晶は無言でペットボトルの蓋を開けたり閉じたりしている。

「ただ私や和久井君は先輩をすごく尊敬してます、勿論ナベもですよ?尊敬してる先輩に自分達を見てもらいたいっていうのは、いけない事なんですか?」

「…」

「それとも学校から何か言われてるとか…その、ツイートの件、とかで…」

変わらない態度の晶に真琴は少し踏み込んだ。

顧問の加藤とのツイートに触れた時晶の動きが止まる。

晶はペットボトルの蓋を最後閉めると真琴を一度見て、ドンとテーブルを叩いた。

「…」

「…」

「…」

緊張の走るテーブル。

晶はその間ずっとボトルを握り締めていたが、無言の時間の後に手をそっと離す。

そして静かに答えた。

「…そうだよ」

「え」

「ツイートのおかげで学校からカトちゃんに近づくなって言われれてるから私は部活に行かない。これでいい?」

「でも朝練は…朝練なら顧問は関係ないですよね?だったら…」

「わんこ。何か勘違いしてるね」

「え」

「この際だからはっきり言う。私があんた達の案に乗らない理由を」

「…」

「その1、私はバスケ部をとっくに引退してるから今は大学の受験勉強が優先。その2、学校から変な噂を避ける為バスケ部に近づくなと忠告されてる。その3、体調が芳しくはない。その4、部の問題にはそもそも興味が無い…」

「…」

晶は淡々と自分がバスケ部に関わりたくない理由を述べていく。

真琴は一切横槍を入れる事が出来ずに、晶の理由は最後の10にまで届いていた。


「その10、私が見なきゃいけないくらい弱くなったバスケ部の原因は、あんた達でしょ?仮に私が部員なら引退した古い人間にガタガタ言われる事程嫌な事はないけどね」

「…」

「分かった?理由が。そもそも朝練を部がやりたいかやりたくないかの事でしょ?そんなの私に振らないでよ」

「…すいません」

「じゃ、またね」


晶は席から立つ。真琴には、すいませんを言うのが精一杯でこれ以上引き止めるのは無理な話だった。

ただ真琴の前から去る晶の表情は先ほどの様な無表情では無く、何かとても心苦しい様な…それでいて薄くではあるがほんのり涙を滲ませてる様にも見えた。

だから余計その後ろ姿にしつこく食い下がる真似は出来なかった。



その様子を距離は離れていたが観察していた郷内。二人の会話は理解できないものの、揉めていたのは明らかだった。


「…」


へぇ…

どっかで見たと思ったらサイボーグ先輩じゃん。ダブったって噂は聞いたが制服姿からして噂はホントだったんだな。

てっきり卒業して加藤の嫁になったんかと思ったけど 笑。

ふーん…なるほどね、相変わらず美味そうな顔してるよな…“晶ちゃん”

こりゃ良い予感しか湧かないぜ、俺的にさ…





巻末(※)解説

ガード

ポジションのひとつ。ゲームメイクを担当しボール運びやアシストが主な役割。

バスケのポジションはざっくり分けると三つ。アシスト担当のガード、シュート担当のフォワード、ゴール下担当のセンターがある。



次回

『コートを自在に泳ぐ魚』


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