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私が精霊術と師匠のチート具合に驚いていると、彼は話は終わったとばかりに近くに用意されていた持ち運び可能な簡易の机と椅子を組み立て始めた。私も慌ててお手伝いをする。その後向かい合うように座ったあと、彼は腰にくくりつけていた本を取り出した。


「今日は授業と言っても君に基本的なことを教える程度にしておこうか。君は魔術についてはどれくらいの知識がある?」

「魔術ですか?そうですね…現在は火水土風の属性の魔術があり、術式を唱えることによって術が発動します。また先ほどの四つの属性以外で光属性である結界術と治癒術があると認識しています。」

「ふむ、それだけか?」

「えっと…生まれ持った属性以外の術を使用することは出来ず、魔力保留量が少なければ例え適正のある属性の術だったとしても発動はできません。後、光属性を持つものは少なく貴重である…あっていますか?」


私は今ある知識を思い出しながら師匠に言う。師匠は関心したように頷き私をみた。


「ああ、その認識で間違っていない。基礎知識は知っているのだな。」

「はい。本を読んだり剣術の先生にたまに教えていただいていたので…後は魔道具のことも基本的なものなら…」


 ―――魔道具は己の魔力を「物」におくり、術式をかくことによって魔術が使えない者やその属性がない者でも扱えることができる。また、魔道具を使うことによって魔力の温存もできる。

現在、魔道具は台所、洗濯、部屋を灯す灯りなど生活をする上で必要不可欠なものとなっている。


師匠に「あっていますか?」と問えば頷いて肯定してくれた。

師匠は手に顎をやり思案するように呟く。


「なるほどな…報告されてたように勤勉であるようだな…君は、国とのことを知らされているか?」

「国…ですか?」

「知らないか…君になら言っておいても大丈夫そうだし教えておこうか。」

「ある程度の国のことでしたら先生にならっていますが…」


――我が国、キュクロ王国は大国というわけではないが優れた魔術師と騎士が多く存在しており国の大きさの割にに発言権がある。そして、ここ百数十年は戦争をしておらず近隣の国々と友好的な関係を築けている。現国王は穏やかな方で今後も国は安定するだろうと聞いている。



そう言うと、彼は頭を左右にふり私と見つめる。


「そのようなことではない。私が君に教えるのは、国の今後の対応についてだ。」

「対応?国に保護されてる形で公爵家の養子となって、いざという時の国のカードとして保有される以外に何か?」


他にも何かあるのだろうか。


私が不思議そうに師匠をみれば、彼は目を見開いて私をみていた。

そして、

「ほう…『保護された』だけという認識だと思っていたが、理解しているのか」


右手で顎を撫でながらそれはそれは嫌な笑みをうかべ楽しそうにした。…まるで新しい玩具を手に入れたかのようだ。

そこには『理想の魔道士様』の姿など一切なかった。

私は肩を震わせ青ざめた。何か嫌な予感がひしひしとする。

師匠は嫌な笑みをうかべたまま話の続きをしだす。


「基本的には君が思っている通りのことだけだ。だが、ただ養子にして終わりというわけではない。」

「そうなのですか?」

「ああ、まずは時期がくればトラウィス学園に入学させられる。」

「それが何か?」


別に入学するのはいいのでは…ゲームの舞台である学園に近づきたくないが、剣術や魔術を学ぶ上であの学園ほど設備などが行き届いたものもないので致し方ない。


「入学する時の試験で優秀だった者たちは忠誠を誓う儀式が行われる。他国のものにならないようにな。」

「…私が優秀でなかったらいいのでは?」

「たとえそうだとしても名が上がるだろう。それに、私が師となり教えるのに優秀でないなどありえないことだ。」


師匠が腕をくみ私の言い分を否定する。

私は苦笑いをしつつゲームの内容を思い出そうとしていた。

(……確かに…入学優秀者は城に呼ばれ王と面会できるイベントがあったような…でも儀式なんてあったような…なかったような…?)


自分はもっとあのゲームを熱心にすればよかったともう何度目かの後悔をにじませる。ただでさえ自分には関係ないと必死になって思い出そうとしなっかたのに、元々の知識がないのでは意味がない。

アリィ様と出会った時の感覚から、主要人物と出会えばその人の基本情報は思い出しそうだが、細かい所までは思い出せそうにない。


私が自分の不甲斐なさにうなだれていると声がかかった。


「おい、そんなに凹むことか?君は『保護される』ことを正しく理解していただろう?」

「…それは納得してます。ただちょっと違うことに凹んでいただけですわ。」


私が渇いた笑いを漏らすと、師匠は若干引いていたがスルーして話を続けた。


「まぁ、学園のことは当分先だから、忠誠を誓わせられるということだけ頭に入れておきなさい。あとは、公爵家の跡取りか王族と婚姻させられる。それくらいだな。」

「…はい?」


凹んでいたことなど忘れるくらいの爆弾を師匠は投げてきた。

私が唖然としているのに師匠は不思議そうしていた。


「なんだ?政略結婚など当たり前だろう?民間の生まれならともかく君は元々伯爵家の人間だと聞いている。そんな驚くことでもないだろう?」

「いえ、てっきり結婚せずその家にずっと匿われるのかと思っていたので…師匠だって婚約者いないですし…」


てっきり結婚しないのかと思っていた。結婚しなくていいのならアリィ様の側にずっといられると思っていたのに…


「精霊術師は貴重だ。精霊術師の子ならその子も精霊術師となる確率が高いと思っているのだろう。結婚させ子供を産ませたいそうだ。」


肩を竦め何てことないように言う。

…その国の気持ちもわかるが…私は戸惑うように師匠をみる。


「ですが、精霊術師はそんな簡単にできるものではないのでは?稀に生まれると言われても、現在は私と師匠の2人しかいないのでしょう?」


精霊術師の子は精霊に愛されるはずなんて、そんな簡単にいくなら精霊術が廃れるなんてことなかったはずた。しかも、師匠も私も養子…つまり公爵家や王族には精霊術師は生まれていない。


「わずかな可能性にかけたいのだろう。ちなみに、私は婚約者がいるぞ?念のためごく一部の者にしか知らされていないだけだ。」

「え!?いるのですか!?」

「ああ、一応な…」

「そうなのですか!一体どなたなのですか!?」


まさか師匠に婚約者がいたとは!!私はウキウキしながら師匠に聞いた。


そして、ふと先程の師匠の言葉を思い出した。

『公爵家の跡取りか王族と婚姻させられる。それくらいだな。』


私がその言葉を思い出した瞬間師匠は衝撃的なことを言った。


「相手は我が国の第三王女様だ。今年で9歳になられたな。」


私はその言葉を聞いた瞬間素早く椅子からおり師匠から距離をとった。

そして、顔を青ざめ叫んだ。



「師匠まさか…幼女すk「違う!!!」」



私が全て言う前に師匠に否定された。










 精霊術の秘密を守りつつ国に取り込むには公爵家時期当主か王族でなくてはならない。これは数十代前の王が決めたことらしい。つまるところ、精霊に愛される者の血を混ぜたい、保有したいという上の方々の思惑だとのこと…しかもできる限り王族と血が交わるようにしたかった王が反発を防ぐのも含め公爵跡取りならいいが令嬢はダメだという取り決めをした。公爵家の者も跡取りならいいということと秘密保持のこともあり仕方なく納得し現在もこれが適用されている。


 師匠は男なので必然的に王族との縁組になったが、第二王女までは他国に嫁ぐことが決まっており、師匠自身もすぐには結婚したくないので第三王女と婚約することになった。


というのを、威圧感バリバリな師匠から説明された。

よほど特殊性癖疑惑が嫌だったらしい。


「そうなのですか…よかったです。もし師匠が特殊な性癖をお持ちならばアリィ様に危険が及ぶ可能性がありました。」


私がほっとしたように言えば師匠は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「まだいうか…!」

「誤解でよかったと思ったのです。師匠、誤解してすいませんでした。」


さすがに幼女趣味なんて誤解するのは拙い。私は頭を下げた。

そんな私と態度に師匠は一つ息を吐き頭をかかえた。


「いやいい。誤解が解けたなら…アリィとは、アディンゼル公爵令嬢のアリアーヌ嬢のことか?」


師匠は話題を変えようとアリィ様のことを聞いたのだろう。アリィ様のことを聞かれて私は目を輝かせた。


「はい!アリアーヌ様のことです。アリィ様は本当に可愛らしい方で輝かんばかりの黄金の髪に宝石さえ霞む美しい赤い瞳ーーーー」


私は語った。アリィ様の魅力を少しでも師匠に伝わるようにこの溢れんばかりの想いを語った。


そして、語りおわると師匠は諦めたような顔をして頭をかかえていた。なぜだ。アリィ様の魅力は私ごときでは伝わらなかったのだろうか。


「はぁ…わかった。」

「わかっていただけましたかアリィ様の素晴らしさが!」

「違う。わかったのは君のことだ。」


呆れたように言う師匠に私は顔を傾ける。

私の様子にもう一度ため息をはくと私の目を見据える。


「とりあえず。君もいつかは婚約者が選ばれ、おそらく私と一緒で婚約していることを隠されるだろう、いいな?」

「はい。わかりました。」


私が頷くと師匠もこの話はこれで終わりだというように持っていた本を開き私のほうに向けた。


「やっと精霊術のことについて話せるな…」


 師匠の声は疲れ切っていた…

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