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魔王  作者: sin_crow
3/3

吸血鬼と罪悪感

イルザーク視点です。

新しい魔王あるじはどうにも奇妙である、とイルザークは思った。


あの時、突如膨れ上がった黒ずんだ闇の魔力を追えば、そこにいたのはまだ幼い、子供といえる年の人間だった。


驚きこそしたが、人間が魔王になった例が無いわけでもなかった。

それに、最初その瞳を見たとき、大河もまた人間に強い恨みを持っているのだろうと確信した。それほどに荒んだ瞳だったのだ。


……だが、実際に話してみれば、その言動には、戦を知らぬ子供のような無邪気さと純粋さが見え隠れしていた。


これまでの魔王とはまるで違う、のである。

真名のことも知らぬ、そしてそれを隠そうとしないあたり、弱さを見せることにも抵抗が無いようだった。


それでいて、


「よくぞいらっしゃいました、我らが王よ」

「ああ、今来た。我が部下よ」


彼は確かに、王なのである。

どう接していいか分からない、というのが、イルザークの本音だった。


その彼を魔王のための部屋へと案内すべく、イルザークと大河は、魔王城の長い廊下を歩いていた。


「あまり、驚かれないのですね」

「何がだ?」

「いえ、魔王陛下は別の世界にいらっしゃったということですので、てっきり、我らのような魔族の姿には驚かれるのではと、そう思ったのですが……」

「ああ」


そう言われると不思議だな、と大河は呟く様に言った。


「まぁ、心が今はかなり麻痺しているようだから、それもあるんだろうな」

「心が、麻痺、ですか」


神経を麻痺させる魔法というのは聞いたことがあるが心をとは……とイルザークが真剣に考え始めたので、大河は思わず苦笑した。


「別に、魔法のせいじゃない。ただ……裏切られて、心の針みたいなのがどっかにぶっ飛んだんだろうな」

「裏切られて」

「ああ。人間に——この言い方は随分奇妙な気がするが——裏切られたんだよ、俺は。

特に、同じ世界から来た唯一の人間にな」

「なっ」

「あんまり怒ったことはなかったが……というか、怒ったことがなかったせいか。多分怒りの神経を焼き切ってしまったに違いない」

「……」


イルザークは言葉に詰まった。

それは、自分たちが召喚に失敗したことが原因でもあるのだ。

責める言葉も覚悟したが、大河の口から出たのは、むしろ真逆の言葉だった。


「だからこそ、お前の言った、魔族は王を裏切らないというのは何より嬉しかった。怯えなかったのだって、大きな理由はそちらかもしれないな」

「あ、有り難きお言葉!」


イルザークが勢い良く頭を下げれば、大河は大袈裟だと笑った。


これだ、とイルザークは思う。

この無邪気な笑いこそが、最も自分がやりづらいと思うものだと。


「いいから、頭をあげろよ」

「はい」


言われるままに、ゆっくりと頭を上げれば、そこがほぼちょうど、魔王の部屋の前だった。


「あの、魔王陛下」

「ん?」

「こちらの部屋でございます」

「ああ、ここか」


イルザークが扉をあければ、少し薄暗いものの、いい家具を集め綺麗に整えた部屋だった。


大河の表情を伺うイルザークだったが、彼はどこかボンヤリと部屋を見回していた。


挙句に、


「なぁ、魔族と人間って、かなり生活レベル……生活水準が違うのか?」


なんて質問をしてくるのだった。イルザークの、


「いえ、そんなことはございませんが」


という答えにも、そうか、とただ返すばかりだった。

それから、しばらく部屋の様子を眺めていた大河だが、ふと、


「……休みたい。一人にしてくれないか」


と言った。


先ほどの質問の意味を尋ねたい気持ちはあったが、無理やりに聞くわけにもいかず、イルザークは失礼します、と一礼して部屋を出たのだった。





深夜。

吸血鬼らしく庭を歩いていたイルザークだが、突然、上から声をかけられた。


(にゃに)眉寄せてんのさ」

猫又ケットシー

「そ、可愛い子猫ちゃんこと、ネルンちゃんだにゃ」


ストンと、猫の耳と尻尾を揺らした勝気そうな少女が木の上から降りてきた。

猫というだけあって、その身のこなしはずいぶんと軽やかである。


「で、どうだったの、新しい魔王サマ」

「……何とも形容しがたいですね」

「へぇ?」


尻尾の影がユラユラと動く。


「あの方は、何というか、今までの魔王とは違いすぎるのですよ」

「それはいい意味? 悪い意味?」

「……恐らく、良い意味かと思います」

「それは(にゃん)で?」


何故と聞かれると、どうも困るのだが、とイルザークは内心で呟く。


「人間でありながら、幼き王でありながら、あの王は魔族をきっと導く王になるような、そんな予感がするのです。そう、先々代のような——」

「ふぅん」


ネルンは愉快そうに笑った。


「先々代どころか、先代の様になら(にゃ)いって言う保証も(にゃ)いけどにゃ?」

「その話は……」

「蒸し返すなって言いたいのかにゃ? でも、魔王サマには話さない方がいいかもしれ(にゃ)いがにゃ」

「……ええ」


裏切らない、とは言った。

しかし、嘘を付かないとも隠し事をしないとも言っていないのだ。


そう自分を正当化して、仄暗く揺れる罪悪感を、イルザークは無視した。

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