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最後の3日間〜灰の下の真実  作者: 祐貴


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一日目

全4話です。

四話目に災害に関する描写があります。

アウグスティナには両親がいない。彼女が五つの時に亡くなった。アウグスティナは長子で、母にはその時アウグスティナの弟か妹がいたが、この世に生まれ出ずいなくなった。


家族を亡くしたアウグスティナには叔父がいる。

家父たる父が亡くなったとき、父とは年が離れていたもののすでに成人となっていた叔父がアウグスティナの後見となった。


アウグスティナの叔父には商才がある。

家には朝から日雇いの仕事を求める者、以前の仕事の礼に来た者、様々な人であふれるのが日常だ。朝早くからアトリウムはそんな人たちの出入りでにぎやかだ。


館の入口には『猛犬!注意』のモザイク画がかけられているが、出入りする者は誰も気にもとめない。実際にアトリウムをウロウロしているのは、人の良さそうな黒犬なのである。初めて来る者は入り口でさすがに少し足を止めるものの、朝から通う者は皆、ここの黒犬が単なる人好きな犬であるのをよく知っているのだ。注意をするとすれば、懐かれすぎないようにすることか。うっかり鳥の骨でも与えた日には、1日つきまとわれることになる。


今日の黒犬の獲物は久しぶりに仕事に来た痩せた男だ。

「もう落ち着いたのか?」

顔見知りが男に声をかけた。

「ああ。何とかな」

「まだ、7つだったんだろう。気落ちするだろうが、お前まで倒れたら亡くなった息子も気が気でないだろう。さっき買ったペルナだ、これでもしっかり食べろ」

差し出されたペルナは、鼻息とともに黒犬がかすめていった。

「カルペ・ディエム。今この瞬間が命だな」



「ケルベロス!」

アウグスティナが声を張り上げると、黒犬は尻尾を振って駆け寄ってきた。黒犬にはアウグスティナが手ずから施した、上手いか上手くないかというと、はっきり言って下手な刺繍の赤い首輪をつけてある。歪んだ文字はおそらくは『ケルベロス』と書いてある、と思われる。


「ねえ聞いて、今日もまた叔父様と喧嘩しちゃった」

中庭に腰を掛け、アウグスティナはケルベロスに抱きついた。犬は舌でアウグスティナを舐め回す。

「ちょっと!しゃべれないじゃないの」

しゃがんで犬を抱きしめると、ちょうど二人の高さは同じくらい。親友に話すかのようにアウグスティナは犬に話しかけた。

「叔父様ったら、軍人と結婚しろっていうのよ。軍人なんてワインを水で割らずにそのまま飲むような野蛮人じゃない。信じられない!そんなにさっさと私を追い出したいのかしら」

犬はアウグスティナの話をもちろん否定しない。肯定もしないが。つぶらな瞳は自分に同意している、ということにしてアウグスティナは話し続けた。


「だから私言ってやったの。『クロエリア様は自ら人を率い、勇猛にもテーヴァの河を渡ったのです。どうして私自身がテーヴァよりはるかに浅いこの家を率いれない

ことがありましょう!』なのに叔父様ったら…!『御高説はいい。とにかく明日ルキウス将軍がお見えだ。支度をしておくように』ですって。ほんとやんなっちゃう」


犬はハフハフ言っている。きっとアウグスティナの気持ちをわかってくれたのだ。

「私たち二人で、これからもずっとこの家を守っていきましょうね」


叔父は結婚をしていない。子もいない。もしかしたらいずれ妻を迎え甥が生まれるのかもしれないが、少なくともそれまでは誰かが家を支えねばならない。もしこのままであれば、いずれは自分が婿を迎えてこの家をもり立てるのだ、とアウグスティナは心に誓っていた。


そのためには学ばなくては。いろんなことを。自分たちの家で働く人たちのことを。


アウグスティナは、召使が迎えに来るまでずっと犬を撫で続けていた。






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