●43
「本当に合格するとは」
屋敷にやって来たキリアンが、あたしのことをしげしげと眺めている。
あたしはそんなに認定試験に合格するか怪しかったのだろうか。
失礼な。
「キリアンさんはあたしが合格しないと思ってたのですか」
「合格したらいいな、とは思っていました」
「……どういう意味ですか」
「魔法もどきしか使えないあなたが、出世して偉くなったら面白いではないですか」
認定が下りた今になっても、キリアンはあたしの手品を魔法ではなく「魔法もどき」と表現している。
その通りではあるけれど、他の認定員が魔法と認めたのだから、足並みを揃えてキリアンも魔法と呼んでくれればいいのに。
「キリアンさんは相変わらずあたしの魔法を信じてはくれないのですね」
「だってあなたが使っているのは魔法ではありませんから」
キリアンは確固たる自信のある目であたしのことを見つめている。
焦るな、ポーカーフェイスだ。
キリアンはあたしの魔法が魔法ではないことは見破っているけれど、手品のタネまでは見破れていない。
タネさえ隠し通せれば、キリアンにあたしの手品を再現することは出来ないのだから、脅威ではないのだ。
「い、一度出した認定は、取り消せませんよ!?」
脅威ではないと思っていたはずなのに、声が裏返ってしまった。
動揺丸出しだ。
「別に認定を取り消そうなんて思っていませんよ。あなたには偉くなってほしいですから」
「偉くなってほしい?」
「あなたは偉くなって、世界を変えるんでしょう?」
キリアンがまっすぐあたしの目を見つめてきた。
これに目を逸らさずに答える。
「ええ、そのつもりです」
あたしは、持たざる者も幸せに暮らせる世界を作る。
まずは魔法至上主義の愚かさを伝えるのが良いかもしれない。
魔法が使えるかどうかなんて、足が速いとか目が良いとか大食いだとか、その程度のものだって大声で叫ぼう。
そういった特徴が無くても、人は生きているだけで素晴らしいのだと、そう伝えよう。
そしてこの世界を、パラレルワールドのどこにも無かった優しくて素晴らしい世界にしていこう。
「あなたの言う、持たざる者も幸せに暮らせる世界。そんな世界になるなら、ぜひ俺も見てみたいです。せいぜい頑張ってくださいね」
「せいぜい頑張ってって……キリアンさんは、あたしに世界は変えられないと思ってるのですか!? そりゃあ今のあたしはただの小娘ですけれど……」
あたしの言葉に、キリアンは首を横に振った。
「いいえ。俺は、あなたが世界を変えていく様子を、隣で見てみたいと思ったんです」
「なっ!?」
キリアンは何でもないことのように言ったけれど、なんて罪深い言葉だろう。
夢見がちな少女なら、目をハートマークにしながらキリアンを慕ってしまうかもしれない。
「あなたは世界を変える大変さを、あまり理解していないようなので」
「はい!?」
ときめかせてきたと思ったら、これだ。
まったくキリアンという男はタチが悪い。
「優しい世界にするためには、優しくないすべての物事と戦わなければならないのです。たった一人でそんなものを相手にするのは心細いでしょう?」
「……キリアンさんが手伝ってくれるのですか」
「いいえ。俺は隣で見ているだけです。だってその夢は、マリッサ嬢、あなたが叶えるべきものですから」
なんだこの男は。
今のは「隣で支えてあげる」の一言でも言うべき場面だろうに。
どこまでも厳しい男だ。
「……あたしのことを、気安く『マリッサ嬢』と呼ばないで下さい。隣で見てるだけのつもりなら」
「見ているだけでも、隣に誰かがいたら心強いとは思いませんか?」
「見てるだけの役立たずなんていりません」
「これは手厳しい」
どっちがだ。
キリアンに隣で見られていると思ったら、心強いどころか、一切の手を抜けないじゃない!
「俺に見せてください。あなたの思い描く世界を」
「……最後に一つだけ聞きます。あたしは、バヴィエール伯爵令嬢? それともマリッサ嬢?」
「さあ。どちらでしょう」
この男は本当に。
過去のあたしはどうしてこんな男に惚れていたのだろう。
タチが悪いったらありゃしない。
あたしは大きく深呼吸をすると、射抜く気持ちでキリアンの目を見つめた。
「分かりました。あなたがあたしのことをバヴィエール伯爵令嬢と呼ぼうとも、マリッサ嬢と呼ぼうとも、世界を変えてみせます。だから。あたしの変えた世界を、特等席から見ててください!」
了




