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027 ラグナスの目的

 ラグナスの登場に、その場にいる全員が驚いた。

 ペンネは手帳とペンを落とし、リリナは口をポカンと開けている。


「ラグナス、どうしてここに? 王都から気軽に来られる距離ではないはずですが」


 私は座ったままラグナスを見た。

 前に会ったのは、王都で私に追放宣言をしたときだ。

 あのときに比べて、全体的にやつれている。

 フィオナほどではないが、彼も苦しんでいるようだ。


「まずは昔話でも……と言いたいが、筋肉は無駄話を好まないだろう」


「はい」


「なので、単刀直入に言おう。ミレイユ――」


「ミレイユ団長は〈筋肉応援団〉として活動しているんです! フィオナさんを苦しめているパーティーになんか、絶対に戻りません!」


 ラグナスの言葉を遮り、リリナが怒鳴った。


「安心しろ。パーティーへの復帰を頼むつもりはない」


 ラグナスが「ふっ」と笑う。


 その反応は、私にとって意外なものだった。

 かつてのラグナスなら「俺の言葉を遮るな」と怒っていたはずだ。

 ところが、今回は嫌な顔をすることすらなかった。

 それだけ追い詰められているのだろう。


「では、どういうご用件でしょうか?」


「お前の筋肉魔法を俺にかけてほしい。魔力を大量に消費して、一ヶ月程度、効果が持続するようにしてほしい。謝礼は支払う」


 ラグナスはこちらに近づくと、懐から革袋を取り出し、それをデスクに置いた。

 中に大量の金貨が入っていることは、確かめるまでもなくわかった。


「ちょっ! どういうこと? 筋肉魔法に頼るなら、パーティーへの復帰を求めるのが普通なんじゃないの?」


 ペンネが尋ねる。

 いつの間にか手帳とペンを拾い終えていた。


「ミレイユの言い方をするなら、お前は『頭の筋肉が足りていない』な」


「なっ……!」


「俺がなぜ筋肉魔法だけを求めているか、ミレイユは理解しているぞ」


「そうなの?」


「察しはつきます。私をパーティーに呼び戻すということは、すなわち私の追放が誤りだったと認めること。それは、聖務庁や光環正教との関係悪化に繋がります」


「そういうことだ」


「つまり、ラグナスはミレイユ団長の筋肉理論を認めながらも、自分の判断は誤りではないってことにしたいわけね!」


「間違ってはいないが、補足しておく。筋肉を鍛えるより、魔法を鍛えるほうが効率的だという考えに変わりはない」


 私は「やれやれ」とため息をついた。


「ミレイユ、別に悪い話じゃないだろ。俺は筋肉魔法をかけてくれと頼んでいるだけだ。それだけで、この大金が手に入るんだぞ」


 たしかに破格の条件だ。

 幸いにも今日は魔力が有り余っており、ラグナスの要望に応えられる。

 消費した魔力も、特製の筋肉ジュースを飲んで一眠りすれば回復するだろう。

 実質的にノーリスクで大金が手に入るわけだ。

 しかし――。


「お断りします」


「なぜだ!?」


 ラグナスが声を荒げた。

 リリナとペンネも「嘘でしょ」と言いたげな顔をしている。


「ミレイユ、お前は昔から実利を重んじる女だ。追放の件を根に持っているわけでもあるまい」


「おっしゃるとおりです」


 私は〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉を追放された件について、何も感じていない。

 追放が決定するよりも前から、私自身、そうなるであろうことを予測していたからだ。

 ペンネはウキウキしながら彼らの凋落を教えてくれるが、本音を言えばどうでもよかった。


「では、どうして拒む!? 何が気に食わないんだ!?」


「気に食わないのは、ラグナス、あなたの目的です」


「俺の目的だと……?」


「あなたが筋肉魔法を求めているのは、全盛期の強さを取り戻して、依頼を快適にこなしたいからでしょう?」


「そうだ。その記事にもあるように、俺のパーティーは危機に瀕している。状況を打破するには強くならねばならない。筋肉魔法が必要なんだ!」


「たしかに筋肉魔法を使えば、あなたたちは立て直すことができるでしょう。しかし、それは一時的なものにすぎません」


「なに?」


「魔法の効果が切れると、また不調に……いえ、本来の実力に落ち着きます」


「そうなれば、また筋肉魔法で……」


「その考え方が気に食わないと私は言っているのです。あなたのパーティーは、筋肉には頼らない王都のスタイルによって成り立っています。なのに、裏では筋肉に頼っていた……というのは、筋肉を悪用した詐欺です」


 ラグナスがハッとする。


「ご理解いただけたようですが、それでも明言させていただきます。私の筋肉魔法は、詐欺には加担しません」


「ぐっ…………」


 ラグナスが押し黙る。

 反論しようと口を動かすが、言葉は出ない。


「私の筋肉魔法を受けたければ、〈筋肉応援団〉との関係を公に認めることです」


「それはどういう……」


「勇者パーティーは主に王国政府の依頼をこなしていますが、冒険者としてギルドの依頼をこなすこともあります。実際、〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉も、複数の冒険者ギルドと提携関係にありますよね?」


 ラグナスが「ああ」とうなずく。


「その提携関係に〈筋肉応援団〉を含めるというのであれば、筋肉魔法をかけてあげます……と、私は言っているのです」


「……!」


「ちょっと待った! 提携関係になることで何か変化があるの!?」


 ペンネが口を挟んだ。


「大きく変わります。どの冒険者がどのギルドと提携しているかは書類に明記されています。したがって、提携関係になれば、〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉が筋肉に頼っていることが明白になります」


「だが、それはできない相談だ。そんなことをすれば、聖務庁が聖女の派遣を中止しかねない。筋肉魔法があったとしても、聖女の回復がなければ依頼をこなせない。ミレイユ、お前とは違うんだ」


 ラグナスが淡々とした口調で言った。


「待ってください。『お前とは違う』って、どういうことですか?」


 今度はリリナが口を挟んだ。


「言葉のままですよ。〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉で最も強かったのが私だったということです」


「えええええ! 団長って聖女ですよね!? 聖女なのに最強だったんですか!?」


「私が最前線で敵の大半を一人で捌き、私を避けた小賢しい敵をラグナスたちが捌いていました」


「それなのにミレイユ団長を追放したの!? ラグナスって、もしかして馬鹿!?」


 ペンネの「馬鹿」発言はさすがに許せなかったようで、ラグナスの目に怒気がこもる。

 しかし、彼はペンネを睨むだけで、怒鳴ることはなかった。


「たしかに俺たちは筋肉や筋肉魔法を軽視していたが、ミレイユの強さ自体は軽んじていない。むしろ、他の誰よりも高く評価している」


「なら、どうして追放したのさ?」

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