025 薬草採取とガールズトーク
「温かいスープをお願いします。具だくさんの、脂が乗った肉入りのやつを大量に」
「へ……? ス、スープか?」
「はい。先ほどの爆発的な熱産生と運動で、私たちのカロリーは枯渇寸前です。補給が遅れれば、筋肉が共食いを始めてしまいます」
「僕も団長に賛成です!」
「ワシは何もしとらんから任せるぞ」
「お礼にスープか……」
そう呟くと、ウルガは腹を抱えて豪快に笑い出した。
「ガハハハ! わかった! 恩人が腹ペコじゃあ、部族の恥だ! 極上の干し肉と脂身を用意してやるよ!」
こうして北の大地にも、筋肉の万能性が伝わるのだった。
◇
すっかりグレンデルの顔となった〈筋肉応援団〉。
最近では遠方からの依頼も多く、予約も遥か先まで埋まっていた。
そんな中、私はある依頼を引き受けた。
依頼内容は冒険者の定番である護衛で、通常なら他所のギルドに回すものだ。
ただ、今回は依頼者が特別だった。
依頼者の名は――エリク・サーヴェル。
薬師連盟に所属している青年だ。
彼とはかつて、一緒にグレンデルの医療パニックを戦い抜いた。
あの夜は私の人生でも百二十八番目に過酷だったので、今でもよく覚えている。
そんなわけで、今回は特別に引き受けた。
ギルドメンバーが出払っているので、私が直々に担当する。
「まさかミレイユ団長に護衛していただけるとは……! 嬉しいような、申し訳ないような……! しかもギルドメンバーの方も一緒だなんて……!」
エリクが後頭部を掻きながら笑う。
「違います、エリクさん。彼はギルドメンバーではなく、ストーカーです」
私は隣を歩く男を見た。
当たり前のような顔をして同行しているのは、騎士のレオンだ。
レオンは私を「師」と崇め、隙あらば任務に同行してくる。
いや、任務どころか、最近ではプライベートでも隣にいることが多い。
しばしば恋人と間違われることもある。
「ええ! ギルドメンバーではないのですか!?」
「はい。そうですよね? レオン」
「うむ。私はミレイユ殿のギルドには所属していない。貴殿と私の関係は師弟である」
「いや、師弟でもありません。それはあなたが勝手に決めたことです」
「あはは! ちょっと不気味ですが、すごく頼もしいです!」
こうして話している間も、私は周囲の警戒を怠らない。
薬草採取なので当然ではあるが、辺りは木々に覆われている。
「それにしても、まさかエリクさんがラトゥーラ樹海で薬草を採取したいと言い出すとは思いませんでしたよ。こう言ってはなんですが、見た目に反して豪気ですね」
私たちがいるラトゥーラ樹海は、「緑の魔境」とも呼ばれる危険地帯だ。
頭上を覆う巨大樹の枝葉が太陽光を遮断し、昼間でも薄暗い。
地面からは腐葉土の甘ったるい匂いが漂い、苛立ちを誘う不快な深い霧が立ち込めている。
湿度一〇〇パーセントに近い蒸し暑さは、呼吸するだけで肺に重い水が溜まっていくような息苦しさをもたらしていた。
「ここでしか採れない〈ラトゥーラ草〉を使ってみたいと思ったんです。やっぱり僕も薬師の端くれですし……。あと、なぜか最近、グレンデルではラトゥーラ草が慢性的な品薄状態で……」
「なるほど。ラトゥーラ草に目をつけたのは正解ですね。ちなみに、ラトゥーラ草はグレンデルだけでなく、王国の全域で品薄ですよ」
「そうなんですか!? 一体なぜ……」
「私が買い占めているからです」
「え?」
「ラトゥーラ草を含む複数の生薬を配合して特製の筋肉ジュースを作っています。これが美味しくて筋肉にもいいのです」
ラトゥーラ草は、ギルドを立ち上げる前から頻繁に買い付けていた。
ギルドの拡大に伴って購入量も増え、今ではセルマに頼んで全国から仕入れてもらっている。
「そうでしたか……。ミレイユ団長が買い占めているのであれば仕方ありませんが、ちょっぴり不満に思っちゃいますね……」
エリクが「すみません」と笑いながら頭を下げる。
その仕草が可愛らしくて、私も笑みを浮かべていた。
「貴様、口を慎め。師に対して失礼だぞ」
「慎むのはあなたですよ」
「これは失礼」
その後も、エリクと喋りながら森の中を歩き回った。
ラトゥーラ草はそこら中に生えているため、魔物さえ対処できれば採り放題だ。
肝心の魔物については、私がいるので問題にはならなかった。
筋肉魔法の〈マッスル・ボルテージ〉で威嚇すると逃げていったのだ。
――というわけで、今回も平穏無事に任務をこなすのだった。
◇
私たちが〈筋肉応援団〉の本部に戻ったのは、夜遅くのことだった。
「ミレイユ団長、今日はありがとうございました! 団長のおかげで凄まじい量のラトゥーラ草を調達できました!」
「お役に立てて何よりです。もし不要になったら、ぜひとも私に譲ってください。筋肉ジュースに使いますので」
「わかりました!」
閑散としたギルド内にエリクの声が響く。
彼は何度も礼を言ったあと、ギルドを後にした。
「団長ー、デートはどうでした? 手とか繋いじゃいました?」
エリクが消えるなり、リリナがニヤニヤしながら話しかけてきた。
左右の手には、それぞれマグカップを持っている。
匂いから察するに、中身はコーヒーだろう。
「いえ、デートではありません。レオンがいました」
私は自分の席に座りながら答える。
ストーカーのレオンは、いつの間にかいなくなっていた。
いつも勝手に現れ、勝手に消えている。
「あー、レオンさんも……。あの人、団長に対する執念がすごいですよね」
リリナは私の前にマグカップを置くと、自分の席に座った。
「顔の良さと騎士としての知名度がなければ、完全に犯罪者ですからね」
レオンは多くの女性が二度見する程度にはイケメンだ。
そのうえ、セルマ曰く、騎士界隈では結構な実績があるらしい。
おそらく一つのものに熱中すると加減ができなくなるのだろう。
そして、その熱中対象が私というわけだ。
「でも、レオンさんって紳士なんですよ。この前、買い物をしていて鉢合わせたのですが、荷物を持ってくれたんです!」
「そういえば、私も以前、老婆を担いでいるレオンを目撃しました。やはり私に執着している以外は立派ですね。筋肉量も日に日に増えていますし」
「もしかして団長、レオンさん……アリなんじゃ?」
リリナがニヤニヤしながら私を見る。
対する私は「ふっ」と鼻で笑った。
「リリナ、あなたは他人の色恋沙汰を妄想するのが好きみたいですが、残念ながら私は恋愛に興味がありませんよ」
「またまたー! 大人っぽいですけど、団長だってまだ二十二歳ですよ! 恋に恋する年頃じゃないですか!」
かくいうリリナは十九歳だ。
「やれやれ、自分がかろうじて十代だからといって、私に年齢を意識させるとは困った人ですね。上司のガルンさんにクレームを入れますか」
「ダメ! それはダメです! ごめんなさい団長!」
リリナが慌てて謝る。
「冗談ですよ、クレームなんか入れません。ですが、度が過ぎると筋肉的解決を実行しますからね?」
「ひぃぃぃ!」
リリナが大袈裟なリアクションをとり、私が頬を緩める。
そんなときだった。
「大ニューーーーーーーーーーーース!!!!!!」
凄まじい勢いで扉が蹴破られた。
そうして入ってきたのは、新聞記者のペンネだ。
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