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DAY:12/5 その枝葉は、どこまでも広がって


「おはよーっ!柚葉ちゃん」


「あっ、おはよう。美鈴ちゃん」


 

 以前は部活や交友関係、登校時間の違い、その他諸々の理由もあって、柚葉と一緒に登校することなんて、滅多にあることではなかった。

 それこそ、俺はギリギリまで寝ることに何故かポリシーを持っていたくらいなので、こんな普通の学生が歩いているような時間に隣にいること自体がそもそも初めてのことかもしれない。


(………………顔が広いってのも、面倒くさいもんだよな)


 人の好き嫌いの激しい俺とは違い、柚葉はどんな相手でも優しく接するし、笑顔を絶やさない。

 だからだろう。ただ登校しているだけだというのに、これほどの人に声を掛けられるのは。

 


「すごいな。人気者じゃんか」


「もうっ!揶揄わないでよ」


  

 その睨みつけているような顔は、若干上気した頬の色もあって、少しも怖くない。

 というよりも、そういう反応をされると、余計に揶揄いたくなってしまうのは、男の性なのだろうか。


(しっかりしてるのに、なんか抜けてるんだよな)

 

 放っておけないとでもいうのだろうか。

 恐らく、そんなことをいえばそっくりそのまま言葉を返されてしまうだろうけれど。



「ふふっ。けど、大ちゃんいるから、後輩の子達は怖がってるみたい」


「ん?そうなのか?」


「気づいてなかった?」


「ぜんぜん」


「あははっ。大ちゃんらしいね」



 特に面識はなかったはずだが、問題児という噂が影響しているのだろうか。

 それとも、同級生の中でも一、二を争うくらいデカい身長のせいだろうか。

 どちらにしろ、関係はないのだが。



「まぁ、例のクソ野郎のことしか気にしてないしな」


「…………山崎先輩のこと?」


「名前は知らないし、覚える気もない。でも、たぶんそのクソ野郎だ」



 言い寄って来ている相手の名前は、山崎というらしい。

 正直なところ、ぶん殴った後の顔しか知らないので、記憶も曖昧だ。

 でも、恐らく見れば一度でわかる。きっと俺は、また殴りたくなるだろうから。


(……一応、今回は穏便に行くつもりだが、相手がその気なら別に停学くらいなんてことはない)


 正直、死ななきゃセーフだろ程度の考えだ。

 嫌がる女を押し倒そうとするような相手には、それくらいでちょうどいい。



「大ちゃん、ちょっと口が悪過ぎるんじゃない?」


「知らん。俺ん家は、柚葉の家と違ってお上品に育てられてないしな」


「ふふっ。そっか……じゃあ、仕方ないね」


「ああ。クソ野郎は、クソ野郎だ」



 柚葉とは相談の上、とりあえずのところ、『彼氏ができたので他の男の人と連絡するのは最低限にしたい』とだけメッセージは送って貰っている。

 相手からはそれでもポツポツと連絡がきているようだが、先輩という立場を盾にしたり、簡単に人の来ない空間を確保したりしとくような面倒くさい男のことだ。

 恐らく諦め悪くそのまま続く可能性もあるだろう。



「………………でも、必要なこと以外ではもう返さないようにしてるし、さすがに諦めるんじゃないかな?」


「かもしれない。けど、部活始まってからも絶対一人では暗い道歩くなよ?」


「ふふっ。どうしてもって時は、大ちゃんが迎えに来てくれるの?」


「ああ」



 友達の多い柚葉が一人で下校するなんてことは、知っている限りほとんどない。

 しかし、それでも毎日来てほしいというならそうするつもりだし、引き受けた手前それが筋だとも思っている。


(もし遠慮して一人で帰ろうとするなら、無理やり待ってる予定だったしな)


 実際問題、過去には未遂とはいえ事は起きているのだ。

 後になって後悔するくらいなら、手間を惜しまずやれることはやっといたほうがいい。



「え?…………本当に?部活終わると、かなり遅いよ?」


「関係ない。一人の日は、遠慮せずに呼べ。むしろ、遠慮し始めたら毎日来る」


「……………………そっか。じゃあ、その時は遠慮せずに呼ぶね?」


「ああ。まぁ、わかったら早めに言ってくれ。ちょっと、距離あるし」


「わかった」



 そう言って強く頷いた柚葉に、こちらも頷き返す。



「………………でも、それなら私も早めに決着をつけられるように頑張るよ。大ちゃんは、このことがなくてもちゃんと私のことを考えてくれるみたいだし」


「まぁ、それとこれとは別問題だしな。でも、どうするんだ?」


「…………先輩に、はっきり言う。もう、こういうことはやめて欲しいって」


「言えるのか?苦手だろ、そういうの」


「言うよ、ちゃんと」



 いつも優しく垂れているその目には、らしくないほどの余裕と、頼もしさが宿っていて驚かされる。

 

(……柚葉のこんな顔、初めて見た)


 俺の前で見せる機会がなかっただけなのだろうか。実際のところ、それはわからない。

 けど、こういうのも悪くないなと、そう思った。

 


「いい顔だな、今の」


「え?…………もうっ!馬鹿にしてるでしょ?」


「いや?本当に、そう思っただけだ」


「……ほんとかなー?なんか、半分笑ってるけど」


「よし、くらえっ!アルカイックスマイルっ!!」


「あははっ。それ、テストの出題範囲にあったやつだ」



 ずっと一緒にいたから、全部知ったような気になっていた。

 でも、理解できることなんて、ほんの僅かでしか無くて、これから先もそれが埋まることはない。

 

(…………だけど、前よりは進めてるよな?)


 二週目の人生。少しも成長していなさそうな俺も、ちょっとは成長しているのだ。

 だったら、それでいい。

 少なくとも、柚葉との可能性は、前よりもっと広がった気がするから。

 

  





 






しばらく、体調不良で死んでました。

とりあえず、だいぶ良くなってきたので、投稿します。

毎度時間が開いてすいません。

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