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巻き戻った時の中で、もう一度  作者: A


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35/43

DAY:12/5 変化:篠崎 大和


 柚葉と連れ立って教室に入った後、お互いの席の別れ道で一旦立ち止まる。



「じゃあ大ちゃん…………また、帰りにね」


「あー、っと。りょーかい」



 照れがちの上目遣い。

 何度か見た気がするそれは、俺の中での意識が変わったせいか、少しだけ気恥ずかしい。

 とはいえ、断ることではないので、頭を掻きながら適当に返事をする。

 


「ふふっ。ありがと」


「どういたしまして」



 会話の終わりに生まれた束の間の沈黙と、自然な流れで外されていく視線。

 しかし、柚葉は一瞬だけその動きを止めると、何も言わないままでこちらの目を見つめ続けてきた。



「…………どうした?」


「ううん。なんでもない」


「いや、だけど…………あー、そっか」


「うん」



 それでも、上機嫌に笑ったまま、向けられ続ける視線。

 今までなら首を捻るだけで終わっていただろうそれに、今ではこちらの方が調子を崩されてしまう。


(…………ほんと、慣れないよな)


 もちろん。止める気はないし、止める権利もない。 

 もし、それをするならば、俺の答えを出してから――二人の関係をはっきりさせてからでないと筋が通らないだろう。



「じゃあ、な」


「うん。また、ね」


 

 そう言って、今度こそ別れると、自分の席へと向かう。

 そして、一度頭をすっきりさせるためにも机に突っ伏しておくかと、そんなことを考えていた時。

 どうしてか、こんな早い時間に登校してきている凛が、ジッとこちらを見ていることに気がついた。



「あれ?どうしたんだ、こんな時間に」


「……それは、こっちの台詞だと思うけど」


「ははっ。そりゃ、そうだ」 



 順番的には、凛、俺、雄介というのが基本で、三者の間にもある程度時間の開きがある。

 言われて見れば確かに、俺が感じている違和感以上に、凛がそう思っていてもおかしくはない。



「まぁ、俺の場合はちょっと早く起きたってだけだ」


「………………ほんとに?」


「ん?」



 予想していなかった返事に一瞬空白になる思考と、不意にこちらに伸ばされる手。

 気づくと、凛のひんやりとした指が目の下あたりにそっと触れられていた。



「っ!なんだよっ?」


「…………隈、できてる」


「あ、ああ。そういうことか」


「……テスト勉強?それとも、眠れなかったの?」 

 

 

 心配げに揺れる瞳。

 普段が釣り目がちなこともあって、余計にそう思わされる。



「あー、まぁ。ちょっと考え事だ」


「………………私で、助けられること?」


「いや。俺が、一人で考えるべきことだよ」


「……そっか」



 ほんのりと、寂しげに持ち上がる口元。

 儚げなとも言えるようなその笑顔に、なんとなく居心地の悪さを感じる。


(……前より、思ったことを言えるってことなんだろうけど。なかなか心臓に悪いな)


 本音を言い合うゲームのおかげで、その固く締められた蛇口が少しは開くようになったのだろうか。

 今までと違う凛の距離感に、翻弄されてしまう。



「……ちなみに、凛はどうして早く来たんだ?」


「私?私は…………大和に、早く会いたいって思ったからかな」



 そして、そのまま追撃とばかりに放たれるあまりに真っ直ぐな言葉。

 揶揄われているのだろうかと思いかけるも、その混じりけのない楽しそうな顔に、どう返せばいいのかを悩まされてしまった。



「…………遠足感覚かよ」


「ふふっ。そうかもね」



 柚葉といい、凛といい、今日は調子を狂わされっぱなしだ。

 挙句の果てに出ていった苦し紛れの返事に、自分で苦笑する他なかった。

  

(……今まで、こんなことなかったのにな) 

 

 それこそ、時間が巻き戻る前にはそれなりに女性経験は積んできたつもりだ。

 もっと、駆け引き染みた、揺さぶりをかけてこようとする相手とも。

 でも、大抵の場合は俺の心はいつも自分の手の中に収まっていて、不思議なほどに冷静なままでいられたのだ。



「毎日それじゃ、大変だぜ?」


「そうかもね…………だけど、さ。前よりはいいよ。ずっと」


「っ……そっか」



 だから、その違いはきっと。

 失礼なことに、俺は本気ではなかったということなのだろう。

 本気なつもりで、結局は自分が一番大事なままだった。

 

(……何度も何度も、似たような理由で振られるわけだ)


 『私のこと、好きじゃないんでしょ?』

 冤罪染みた言い方をされたこともあったけれど、どこか言い返せなかった別れの数々。

 その意味に、今更ながらはっきりと理解をすることができる。



「…………ほんと、ありがとね」


「……いや。こっちこそ、ありがとな」


「え?なんで?」


「なんとなくだよ」


「……変な大和」


「俺はいつも変だ」


「あははっ。言えてる」



 そして、もしこれが本気ということなのだというならば、やっぱり俺はちゃんと考えなくてはいけない。



「…………これからも、よろしくな」


「……なに、突然?」


「これも、なんとなくだよ」


「…………………ふふっ。うん。よろしくね、大和」



 いつも側にいた柚葉と、いつも心の中にいた凛。

 二人のことを、ちゃんと。

 大事だからこそ、出すべき答えを。




 

 

正統派の幼馴染って描くの難しいですね。

もしかしたら、自分がクーデレの方が好きだからなのかもしれませんけど(笑)

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