DAY:12/5 変化:篠崎 大和
柚葉と連れ立って教室に入った後、お互いの席の別れ道で一旦立ち止まる。
「じゃあ大ちゃん…………また、帰りにね」
「あー、っと。りょーかい」
照れがちの上目遣い。
何度か見た気がするそれは、俺の中での意識が変わったせいか、少しだけ気恥ずかしい。
とはいえ、断ることではないので、頭を掻きながら適当に返事をする。
「ふふっ。ありがと」
「どういたしまして」
会話の終わりに生まれた束の間の沈黙と、自然な流れで外されていく視線。
しかし、柚葉は一瞬だけその動きを止めると、何も言わないままでこちらの目を見つめ続けてきた。
「…………どうした?」
「ううん。なんでもない」
「いや、だけど…………あー、そっか」
「うん」
それでも、上機嫌に笑ったまま、向けられ続ける視線。
今までなら首を捻るだけで終わっていただろうそれに、今ではこちらの方が調子を崩されてしまう。
(…………ほんと、慣れないよな)
もちろん。止める気はないし、止める権利もない。
もし、それをするならば、俺の答えを出してから――二人の関係をはっきりさせてからでないと筋が通らないだろう。
「じゃあ、な」
「うん。また、ね」
そう言って、今度こそ別れると、自分の席へと向かう。
そして、一度頭をすっきりさせるためにも机に突っ伏しておくかと、そんなことを考えていた時。
どうしてか、こんな早い時間に登校してきている凛が、ジッとこちらを見ていることに気がついた。
「あれ?どうしたんだ、こんな時間に」
「……それは、こっちの台詞だと思うけど」
「ははっ。そりゃ、そうだ」
順番的には、凛、俺、雄介というのが基本で、三者の間にもある程度時間の開きがある。
言われて見れば確かに、俺が感じている違和感以上に、凛がそう思っていてもおかしくはない。
「まぁ、俺の場合はちょっと早く起きたってだけだ」
「………………ほんとに?」
「ん?」
予想していなかった返事に一瞬空白になる思考と、不意にこちらに伸ばされる手。
気づくと、凛のひんやりとした指が目の下あたりにそっと触れられていた。
「っ!なんだよっ?」
「…………隈、できてる」
「あ、ああ。そういうことか」
「……テスト勉強?それとも、眠れなかったの?」
心配げに揺れる瞳。
普段が釣り目がちなこともあって、余計にそう思わされる。
「あー、まぁ。ちょっと考え事だ」
「………………私で、助けられること?」
「いや。俺が、一人で考えるべきことだよ」
「……そっか」
ほんのりと、寂しげに持ち上がる口元。
儚げなとも言えるようなその笑顔に、なんとなく居心地の悪さを感じる。
(……前より、思ったことを言えるってことなんだろうけど。なかなか心臓に悪いな)
本音を言い合うゲームのおかげで、その固く締められた蛇口が少しは開くようになったのだろうか。
今までと違う凛の距離感に、翻弄されてしまう。
「……ちなみに、凛はどうして早く来たんだ?」
「私?私は…………大和に、早く会いたいって思ったからかな」
そして、そのまま追撃とばかりに放たれるあまりに真っ直ぐな言葉。
揶揄われているのだろうかと思いかけるも、その混じりけのない楽しそうな顔に、どう返せばいいのかを悩まされてしまった。
「…………遠足感覚かよ」
「ふふっ。そうかもね」
柚葉といい、凛といい、今日は調子を狂わされっぱなしだ。
挙句の果てに出ていった苦し紛れの返事に、自分で苦笑する他なかった。
(……今まで、こんなことなかったのにな)
それこそ、時間が巻き戻る前にはそれなりに女性経験は積んできたつもりだ。
もっと、駆け引き染みた、揺さぶりをかけてこようとする相手とも。
でも、大抵の場合は俺の心はいつも自分の手の中に収まっていて、不思議なほどに冷静なままでいられたのだ。
「毎日それじゃ、大変だぜ?」
「そうかもね…………だけど、さ。前よりはいいよ。ずっと」
「っ……そっか」
だから、その違いはきっと。
失礼なことに、俺は本気ではなかったということなのだろう。
本気なつもりで、結局は自分が一番大事なままだった。
(……何度も何度も、似たような理由で振られるわけだ)
『私のこと、好きじゃないんでしょ?』
冤罪染みた言い方をされたこともあったけれど、どこか言い返せなかった別れの数々。
その意味に、今更ながらはっきりと理解をすることができる。
「…………ほんと、ありがとね」
「……いや。こっちこそ、ありがとな」
「え?なんで?」
「なんとなくだよ」
「……変な大和」
「俺はいつも変だ」
「あははっ。言えてる」
そして、もしこれが本気ということなのだというならば、やっぱり俺はちゃんと考えなくてはいけない。
「…………これからも、よろしくな」
「……なに、突然?」
「これも、なんとなくだよ」
「…………………ふふっ。うん。よろしくね、大和」
いつも側にいた柚葉と、いつも心の中にいた凛。
二人のことを、ちゃんと。
大事だからこそ、出すべき答えを。
正統派の幼馴染って描くの難しいですね。
もしかしたら、自分がクーデレの方が好きだからなのかもしれませんけど(笑)




