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第9塔の研究者  作者: 奏多かな
第一章『騒動と火種』
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第9話 ー確かな差ー

「皆様!ここまでの入札!身を削る熱い競争!大変お疲れ様でした!目当ての物を手にした方、そして敗れた方……ですが、ここから更に素晴らしい品々が登場します!この街の実質的領主である9つの塔の管理者様方!23回もの開催数を経て、遂にその全ての方々にご出品頂く事が叶いました!便利な物から、不思議な物……そして、皆様の生活が大きく変わってしまう、そんな逸品まで……ですが、全てこの街に更なる発展をもたらす事は間違いありません!」


大層な口上である。

私のに至ってはただの本でしかない以上、そこまで期待されるようなものでは無いというのに。


いや、自信を持て私。

全くの初心者でも魔道具の作成が出来るようになるというのはかなりの価値が……あ。

……オークションで競り落とせる程金のある人物に、そんな物不要じゃないか?

うわ、それを予想出来ないなんてなんだか急に恥ずかしく……

ま、まぁ既に一角の魔道技師であれば先代から教わった事や私の発見なんかに興味を持ってくれるんじゃないか?


しかし、やけに盛り上がっているな。毎年こんなノリなのだろうか……もし来年参加するならば人数分の耳栓と常用できる遠距離通信(テレパシー)の魔道具でも用意するとしよう。


「まずは第1塔管理者メルク・カーディナル様より!毎年恒例!有事の際メルク様本人が弁護人としてお立ち頂けるその権利となります!最低額指定はございません!」


……はぁ?メルクってば、そんなものを売っていたのか?

見渡してみればメルクとその他で反応が綺麗に別れ、本人は自信満々、他は身内の恥を見せられているような……いや、分からないでもないが。


「はぁ、またですか。」


「毎年毎年やめて欲しいって言ってるのに……なんでなんだ……追加で言えばこんなのが人気なのも理解できない……というより、したくないよ……」


目を閉じたままのルナが言うように、その額は跳ね上がり、特に貴賓席の者に人気であった。


「いやいやいや!だってボク忙しくてこれくらいしか準備できないし!それに大抵悪どい商売をしているやつが買うから後々目もつけやすいし!情報も手に入るからね!」


何やら考え無しというわけではないらしい……が、あれは……その、無いだろう?


「それでは落札!112万エールで落札です!」


「……随分、その……ボロい商売をしてるようじゃないか。」


「レムリア!?君までそんな、酷いよ!」


酷いのはどっちなんだ?


「続いて第2塔管理者べヌス・ガードナー様より!一見ただの細長い板に見えますこちら!対象に叩きつけると即座に巻き付き脱力の魔法を付与する魔道具になります!暴漢を捕らえるもよし!獲物を生け捕りにするもよし!最低額指定はなく、今回は上位5名が落札者となります!」


同一物の複数出品か、稼げそうな方法である。

しかもなかなか使い勝手が良さそうな代物で私も欲しいところではあるが、今回は見物に徹するとしよう。


「それでは落札!15万エール、12万2千エール、12万エール、11万エール、10万6千エールで落札です!」


合計60万8千エールか。

かなり安く納まったが、今後もオークションに参加する可能性はあるし、この出品手法を覚えて損は無さそうだ。


「続いて第3塔管理者ルナ・プロスペリア様より!我々プロスペリア商会が誇る一点物!隠れ宿(レストハウス)の魔道具です!こちら手のひらサイズの箱ではありますが、投げてみせればこの通り!この小屋は第4層程度の魔物には認識されず、圧縮状態であってもかなりの耐久性がございます!冒険者の方に是非オススメしたい逸品、最低額100万エールから!」


なんだあれは!?

先程見せた超圧縮技術や、認識阻害能力といい、商人以外で生粋の技術者でも囲ったか?

別に咎められる事では無い。だが研究こそ第9塔の役割、負けていては名折れというもの。


「あれ!私も欲しいぞっ!作ってくれっ!です!」


そりゃそうだ、私だって研究のために欲しい。

他の皆も興味深そうにルナを見る。


「無理なんだ……使い方を解析しただけで迷宮(ダンジョン)産の魔道具だから作れないよ……」


あぁ、そもそも一点物と言っていた以上それしかないか、そうなると入手は難しそうだ。

若干ホッとしたような、残念なような複雑な気分になる。

しかし、未知を未知のままにしているのは勿体ないな、解析していたということは多分第9塔(うち)の下部施設で調査しただろうし、いくつか記録も残っているはず、後で確認してみよう。


迷宮(ダンジョン)とは一体なんなんだろう。

古くからこの世界に存在する上、富と知識と死を振りまくものとして神のイタズラだとも、悪魔の王が人の欲を元に作ったとも言われているが、魔道具の質といい現段階では人智の及ばぬ話であるに間違いないな。


「それでは落札!なんと342万エール!342万エールでの落札です!」


おお、恐ろしいほど高い値が付いたな、アドラが落とした鏡は異例だったがこの品に至っては順当な金額とまで言えるだろう。

あれさえあれば迷宮(ダンジョン)で元を取るのも簡単だろうし……壊れなければ、だが。


「よし……冒険者パーティを雇った甲斐があったんだ……」


そんなことをしていたのか。

私も研究素材を集めさせる役割として適当なパーティでも雇おうか悩むな……まぁ、後で決めよう。


「続いて第4塔管理者マルス・アケディア様より!こちらも毎年恒例!5回まで使える冒険者ギルドの買取手数料免除券になります!最低額の指定はございません!」


なるほど?確かに冒険者ギルドでの買取は解体料も含め手数料として一律売却額の10%程取られてしまう。

上位の冒険者ほどその影響は大きいだろうし良い出品物だと思う。

私が想像するような商品ではなかったが。


「ねぇ!毎年言ってるけどなんでそれは良くてボクはダメなの!?」


「……わからないメルクが悪いと思うぞ!です!」


ウランにさえも詰められ、納得いかないといった面持ちでメルクは怒りを露わにする……が、本気ではないだろう。

皆彼を無視しつつ入札の様子を見守る。


「それでは落札!124万エールで落札です!」


おお、上手く使えば充分元は取れそうな額である。

これは簡単に用意できるし参考にするのもありかもしれないな……例えば持ち込んだ魔道具の研究解析無料券とかか?

……あまり有用性は感じないな。


「続いて第5塔管理者アドラ・プロスペリア様より!呼吸(ブリージング)の首輪になります!効果は読んで字の如く!水中等呼吸を行えない場所、有害な空気が流れる場所においてその影響を無視し通常どおりに呼吸ができる優れ物!こちら最低額70万エールから!」


待てよ?確か呼吸(ブリージング)の付与はあくまで呼吸の出来ない箇所で使える物で、毒気の浄化などは出来なかったはずだ。

そう考えると少なくとも総数2、それぞれ効果の強化を行っているならば総数4にも達している可能性が高い。


「どうです?レムリア。これは正真正銘私自ら作り上げた逸品です。貴方の出品物とどちらが上でしょうね。」


嫌味な事を言うが、まぁ誇りたい気持ちは分からなくもない。性能の有用さで言えば迷宮(ダンジョン)産にも充分匹敵するな。


「さぁ?私は出品物の方向性が違うからね、一概に比べることなどできないだろうさ。それに……まだガラテアの出品物がある。」


そう、恐らく私やアドラよりも第8塔管理者であるガラテアの方が優れた物を出しているだろう。

そもそもアドラや私はどちらも作る事が専門ではない、それぞれ生活の一端で作れるようになっているだけだ。

にも関わらず本職たる彼を除いて争うのは滑稽だろう。


「それでは落札!139万エールで落札です!」


おお、予想より値がついたな……

彼にとっても予想外だったのか満足気な様子。


「続いて第6塔管理者テティス様より!迷宮(ダンジョン)第6層までの正確な地図です!ここまで精度の高い地図は現在冒険者組合とオドビス大図書館にしか保管されていません。もし個人で所有するならば書き写すか探索しつつ作るのみ!さらにこの地図は同期シンクロの魔法がかけてあるため時折様相が大きく変わる迷宮(ダンジョン)の変化を見逃さず、常に最新の情報になります!最低額指定はございません!」


おお、私は植生の調査や魔物の研究等を行う時ぐらいしか迷宮に足を運ばないが、使う機会は充分あるかもしれない。

……後で頼んでみるか。


「それでは落札!160万エールで落札です!」


「続いて第7塔管理者ウラン様より!迷宮(ダンジョン)第7層北西部に出没する角牛(エクスホーン)の肉になります!きちんと血抜き等の処理と魔道具による冷凍が行われているため鮮度もよく、焼いてよし煮てよし加工してよしの最上級肉になります!最低額指定はありません!」


「私のお気に入りだ!美味しいんだぞっ!です!」


「ボクも前に食べたけど、確かに美味しかったなぁ……」


魔物の肉か、ウラン達がそこまでオススメするなら興味はあるが……

気が向いた時に頼むとしよう、少なくとも最近私の中では肉より野菜の方がマストだ。


「それでは落札!11万エールで落札です!」


値段にインパクトはないが食材にしては高すぎるくらいだ。

ウランは金額に興味が無いだろうし今の様子を見ても問題ないだろう。


「続いて第8塔管理者ガラテア・クレアーレ様より!こちら刀身の細い青鍔黒色意匠の片手剣です!なんと込められた魔法は不変!聞いたこともない効果ですが、話によればどんな扱いをしても欠けることもなく、血脂で錆びず、手入れも不要だとか!最低額は220万エールから!」


……やはり、とんでもない物を作り上げていたな。

デメリットとしては魔法の付与や切れ味をあげる全ての手段を受け付けないぐらいか?だが、それを取って有り余る性能だ。

流石に他の魔道具と同じように、込められた魔力が無くなれば効果も消えるだろうが……


「私も剣を今頼んでいるんだ!これは楽しみだぞっ!です!」


「ね?これで争うのがどれだけ馬鹿らしいかアドラも分かっただろう?」


「え、えぇ……そうですね……不変?どう書いたらそうなる……気になるな……」


そう言えばウランの持つ大剣もネプタリアの作品だったか。

長い間使い続けていたし替え時になったのだろう。

ガラテア本人は技術を隠す質ではないし、書いた魔法陣は何れこちらにも回してくれるだろう。

気になって仕方がないが、それを待つしかない。


「それでは落札!346万エールで落札です!」


あの家型魔道具を4万の差で上回ったか……系統は違うが迷宮(ダンジョン)産を超えたと考えると凄まじい。

私も負けてられないな、今回に関しては勝てるとも、そもそも勝負だとも思わないが同じ管理者として並び立つだけの技量を収めたいものだ。

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