閑話2 ー勉強会ー
時は少し巻き戻り、星神祭の数日前。
テティスとレムリアが会った後の話。
「レムリア様、テティス様の元へ行って参りますね。」
魔道具の進捗に行き詰まり、どうしたものかと頭を悩ませていると部屋の扉が開かれた。
外行きの装いをしたソーニャが一言残し、部屋の扉を閉じようとする。
どうやら魔法の勉強を受けに行くようだ。
「2回目だったか?行ってらっしゃい……あぁ、ちょっと待ってくれ、具体的にどんなことを教わったのか少し興味がある、簡潔でいいから教えてくれないか?例えば私が教えた時との違いとか……」
そう告げると、彼女は扉にかけた手を下ろし考えるように顎に手を当てる。
「えっと……そうですね、驚いたのは魔法の使い方、でしょうか?」
「使い方?」
そんな基本のところから差異が出たのか?専門としているだけあって私とは大きく違いそうだ。
興味津々のまま続きを促す。
「レムリア様は、私に魔法は理論だと教えてくださいましたが、テティス様はイメージで魔法を使われているようです。」
「……は?」
いけない、惚けた声を出してしまった。
だがイメージ?魔法とは理論を元に使うものだ。発動条件、環境状態、発動タイミング全てをイメージに食い込むなんて不可能に近い。
いや、強ち不可能とも言い切れはしないが、イメージだけで発動させられないからこそ、理論でそれを補助する必要があるし、現に人類の大半はそうして魔法を使っているはずだ。
文化圏の違いで魔法発動言語の違い、魔法構成の違い等はあるだろうが、それでも同じ魔力、魔素を扱っている以上そこに大きな差異はない。
「まさか、そんな芸当ができるのか……無詠唱が出来るのは知っていたが、構成式すら使っていないとは……正直信じ難いが、本当なら凄まじいな。」
「えっ……と?」
私が呟いているとソーニャが不安そうな様子でこちらを見る。
あぁ、説明せねばならないな。
「ソーニャ、いいかい?魔法はイメージとは言うが、魔法を扱うにはかなり複雑な要素が絡むことは以前教えたね?」
「はい、環境や発動タイミング等ですよね?」
どうやら以前教えた事は忘れていないらしい、テティスと大きく差があったのに私の教えも捨てないでいてくれるのは喜ばしいことだ。
「そうだ、魔法には詠唱でイメージを補完する方法と、構成式を用いて発動させる2通りの方法が主流だ。だが、恐らくテティスはそれらをイメージのみで補完して魔法を扱える、しかも尋常じゃない速度でね。」
彼女は複数の魔法を扱い、尚且つその発動速度は類を見ないレベルだ。どんな脳構造をしていたらその速度で正確にイメージの切り替えを行えるんだ?しかも同時にだぞ?正直ソーニャにできる芸当だとは思えない、勿論私にもだ。
教えを乞う相手を間違えた気がしないでもないが、彼女が常人との差を理解していないはずがない、きっと良い技術を与えてくれるだろう。
「……凄いですね、正直私にはできる気がしません。」
「あぁ、私もだよ。兎も角、まぁテティスもそこら辺は考慮して教えてくれるはずさ、私が教えた事も活かして、よく学んでくるんだよ。教えてくれてありがとうね。」
「はい!改めて……行ってきます!」
そう元気な声を残し、部屋の扉は閉じられた。
◆◇◆◇◆◇◆
「いらっしゃい……あら、今日も素敵な格好ね。」
ソーニャがテティスの元へ赴き、菓子折りを手渡す。
テティスに服装を褒められ、ソーニャは喜ばしい気持ちになった。
今日の服装は白を基調とした花を模したワンピースで、ベージュのベルトが嫋やかな雰囲気に締まりを付けている。
「えへへ、ありがとうございます!雰囲気は違いますがテティス様の様な上品さが出したくて……」
「ふふ、ありがとう。それじゃあ早速始めましょうか。今日は……魔力の質を調べるとしましょう。貴方が魔法を使えない理由はレムリアちゃんと話してひとつの結論に至っているし、問題なく行えると思うわ。」
魔法が自分で使える、それを聞いてソーニャは花開くような笑顔を見せる。
特異体質である、というのはレムリアちゃんの方針的に伏せた方が良さそうね。
どう説明するか難しいところだけど……
そんなことを考えつつ、テティスはソーニャの周りをなぞるように指を動かした。
「それじゃ、以前と同じように点火の魔法を……あぁ、無詠唱じゃなくても、やりやすいなら魔法構成式を使う方でもいいわ。」
「ッ、分かりました。」
ゴクリ、と喉を鳴らしつつ、緊張した面持ちでソーニャが燭台に向かって手を向ける。
「点火。」
その呼びかけに応えるように、立てられた蝋燭には小さな発火音と共に火が灯った。
「……やった!出来ました!でもどうして……」
「ふふ、良かったわね。他の魔法も試してみましょうか。」
濁すように言葉を遮り、テティスは食器棚から空のティーカップを持ってくる。
「じゃあ、次は水の生成を試してみましょう。」
◆◇◆◇◆◇◆
その後、いくつかの魔法を試し、テティスは得た結果を告げる。
「ルナちゃん程じゃないけれど、防の性質に寄ってるわね、通常の属性であれば特に不得意があるようでも無いし……うん、魔法を使う上で致命的なものは無いわね。安心して、このまま練習していけば自分の身を守れるくらいには魔法を扱えるはずだわ。」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
色々な魔法を試したせいか、若干疲れた様子を見せつつソーニャは感謝を伝えた。
彼女の胸中には、今まで自身を縛っていたしがらみが解けたような、そんな思いが渦巻いている。
自分には無限の可能性があるような、そんな高鳴り。
それを咎めるようにテティスは一言続ける。
「でも、無理はダメよ?私と一緒にゆっくり学んでいきましょう。何も焦る必要は無いわ。」
その言葉に、やや気がはやっていた事に気づき、照れた笑いを見せつつ同意する。
そうして、ソーニャの2回目となるテティスからの授業を終えた。




