第14話 ー動き出した盤面ー
「レムリア、ここにいたか。先に俺の判断で全ての塔管理者に話は通しておいた。メルクが塔の上で見張ってるから後手にはなっても人死は減るはずだ。」
私が避難所となる教会等に仕掛けがないか調査をしていたところ、べヌスに声をかけられた。
良く居場所が分かったなと思ったがどうやら彼も確認に回っていたらしい。
「私の方もテティスに掻い摘んで結論までは話した。有り得る可能性として混乱を広げるため複数家屋での同時火災や大規模な魔法の行使、住民に紛れて扇動等予想の着く類はすぐ収まるように対策を講じてある。他の仕掛けの場合は……申し訳ないがメルクに頼る羽目になるね。」
「なるほど、理解した。それで、この後どうなるんだ?相手の目的がまだ見えないが。」
「それは私の方も同じさ、ここまで大きな仕込みなんだ、要人か何か大事な物……心当たりはないかい?何かこの街に運び込まれたとか。」
私がそう聞くと、べヌスは思い出すために黙り込む。
だが……
「すまない、俺に心当たりはないな。」
「そうか、また分かったら対応してくれ、一先ず……」
私が次の言葉を紡ごうと口を開くと同時に、大きく地面が揺れる。
発生源と予想した迷宮の方向を見ようとして、視界に異様な物が映り込んだ。
日が沈みかけた空に、大きな六芒星が浮かぶ。
◆◇◆◇◆◇◆
「お前が件の賊か!早速で悪いが!捕縛させてもらうぞ!です!」
同時刻、大きな大地の揺れとともに迷宮の入口にて多くの魔物の鳴き声と足音が響く。
巨大な垂直の大穴に付けられた階段から青色に白髪が混じった髪色の青年が見え、平然と死角からの攻撃を捌きながら走る姿からかなりの実力者に見えた。
「うぇ!?随分静かだと思ったらあんた誰っすか!?」
驚く彼に、ウランは身の丈ほどある刀で問答無用に斬りかかる。
だが、そこに手応えはなく、気づけば背後に少し離れて彼は立っていた。
それを無視し迫り来る魔物を一刀で切り伏せ、改めて向き直る。
「えぇ?末端とはいえ悪魔の系譜の黒炎狼をそんな簡単に……あんた何もんっすか?大きいとはいえこんな辺境の街にあんたみたいな人間がいるとは思わなかったんすけど。」
「私か!?私はウラン……です!この街のため、友のため、お前を捕縛させてもらうぞ!です!」
「覚えておくっすよ。俺っちはリンドウ。よろしくっす。」
◆◇◆◇◆◇◆
「予想通り火災が起きたか、しかし……」
一帯の避難所に仕掛けは無かったためべヌスに衛兵の指揮と市民の誘導をお願いし、私は今とある場所に向かっていた。
上空の六芒星は十中八九魔法陣であろう、書かれている文字の殆どは見たことも無く、効果も、発動までの時間も読み取れず検討さえつかない。
予想していた大魔法よりさらに規模が大きい。これは私の見落としか……多数の盗難窃盗はブラフ、本命のこの仕掛けを眩ませる為の物だった。
いや、家屋の連鎖火災が起きている以上ブラフではないのかもしれないし、これが更にブラフである可能性も無くはないが……今論じることではないな。
今居所が割れていないのはルナとアドラ、ガラテアと私だが、予想が正しければ今空いてるのはおそらく私とアドラだけ、まぁ違っていたとしても空いている以上本命と思われる魔法陣の破壊には動かねばならない。
ポツポツと雨が降り始め、予定通りサラが天候操作の魔法を行った事がわかった。
これで火の手がすぐさま広がる事態は抑えられる。
後は衛兵達が対応してくれるだろう。
六芒星の各頂点直下、これ程の魔法陣だ、複雑な手順を踏んだ発動の仕方はできないはず。
そう予想し動き、読みは……当たりのようだ。
恐らく既に人の住んでいないだろう荒れ果てた家屋の地下、発動させている要因であろう小さなモノリスが中心に置かれている。
だが……
「第7、いや8層にもいる魔物だったな。魔鉄兵か、迷宮から運び込んだのか魔物を操る人物がいるのか……いや、それはいい。」
幸いなことに私は今最大限の準備の上にここにいる。
この程度、相手ではない。
「守る物があるというのは、不自由で哀れだね……まぁ、私も同じか。」
部屋の外に小さな箱型の魔道具を置く。
使い切りの結界、遮断障壁の魔道具を徐々に伸ばした。
1分程で小さな入口を残し完全に包んだところで、ガラテアが以前作った直径30cm程の爆弾を投げ入れ入口を閉じる。
衝撃も音も遮断されているが、かなりの頻度で発生する光は目に悪いな……
……どれほど経ったか、あの激しい音は収まり、流石の威力に遮断障壁を発生させた箱は煙を上げている。
解除し、扉を開け結果を確認してみれば恐らく魔鉄兵であったものだろう大量の破片が散らばっていた。
モノリスに至っては跡形もない。
「ついでに回収していこう、臨時収入だね。」
いい素材が手に入ったことを喜びつつ、家屋の外に出る。空を見上げれば六芒星の北に位置する正三角形が薄くなっているのが見えた。
中心を含めると残り6つ、これは推測だが起動後は全て破壊するまで発動が止められない型のようだ。
次へ急がなくては……
◆◇◆◇◆◇◆
「火災は順調に消火されているし、魔法陣の破壊にはもうレムリアとアドラが向かった。迷宮から溢れた魔物はウラン、マルス、冒険者達でなんとか抑え込めているし避難所はルナとガラテアが見回っている。見える限りで怪我人も少なくないとはいえ……かなり順調だね、避難は火災地域以外ももう少しで完了、スラムにまで目を向けれないのは残念だけど……未だに敵は表立って動きを見せないね。目的が不明だとレムリアは言っていたようだけれど……多分、君だよね。」
そう言ってメルクは扉の前に控える秘書官に話しかける。
「何時から、気づいていたのですか?」
秘書官の男は驚いたような面持ちでメルクに問う。
彼は、メルクが小さい頃から仕えていた男であった。
知られることは無い、そう思っていた。
「それは秘密さ、アセト。可哀想だね、折角役目から開放されたというのに、こうしてまた君を狙う者が現れたのだから。」
「一体、貴方様はどこまで……」
それに答えることなく、メルクは笑顔のまま、また街の方へ向き直った。




