二人だけの宵の世界
前回の続きです。
前回から読んでくださった方々、本当にありがとうございます。
詩的な表現を僕は好む。
幾千の星にとって高嶺の花とは、月の事だと思う。
きっと誰も手が届くものだとは思っていない。
そんな相手に綺麗だって伝えたくても、機会なんて訪れない。
「ん....。」
彼女の声はとてもか細く、この静寂の中で聞き耳を立てても聴こえない程だ。
「...貴方は月...見て、どう?」
今にも消え入りそうな声で喋っている。
とてもゆったりとした喋り方で今にも眠ってしまいそうだ。
暗闇の中でも僕をしっかりと認識しているみたいだ。
「どうって...。」
彼女の質問の意図を瞬時に汲み取ることはできなかった。
いや、する必要はなかった。言えることは一つだけ。
ゆっくりと口を開く。
「....綺麗だと思う。」
他に何も思いつかなかった。
「そう...わたくしは...あの花火のように、消えたくなります。」
そう言うと彼女は誰のものかも分からない椅子へと腰を掛け、机の上を凝視していた。
彼女の仕草は一つ一つが上品だが、どこか猫のような慎重さがある。まるで触れるもの全てが割れてしまうかのようだ。
「月は...好き?」
また意図の分からない質問だ。一体彼女が何を考えているのかが、顔が見えないからか、まるで読み取れない。
「えーと、好き。」
反射で答えてしまった。彼女の質問にすぐに答えないと駄目だと、本能的に感じてしまう。
「そ....。」
右手の人差し指で机の端をなぞり始める。
目が少し慣れてきたのか、彼女の姿形がはっきりと見え始めた。
腰までの長さがあり目元が隠れるほど長い白い髪。
肘までの長さがある黒の手袋。
ピンクと白の花柄の和服。
その姿はまるで雪を被った兎の様だ。
「...なら!」
突然首が折れそうな速度で顔を上げた。
ゆっくりと僕の方を見た。
「私と...死んでくれます?」
彼女が発した言葉は、新年の始まりを迎えた世界ではあまりにも不謹慎な言葉だった。
「なんて...冗談...。」
あまりにも訳の分からない彼女の言動に、僕は言葉一つ発せずにいた。
僕を見つめる彼女の瞳は、黄色く輝きそして、とても大きく見えた。
月のようだった。
「...また...。」
僕は初めて月を見た。
恐い。
そう思った。
読んでくださりありがとうございます。
書く時間があまりないので、ペースはゆっくりです。




