PREMONITION OF THE END
煙幕を張って逃走したのはいいものの、彼らの考えとは逆にアピス(ゾンビ)はこちらを猛追してきていた。
「マジかよ。ここで追撃は愚策も愚策だろ―――まあ、もう意思がない感じなのか?」
「みたいだな。即身体とはあそこまでの術なのか―――これからもそう何度もやられては困りものだな」
青龍はまだいる幹部クラスの魔物。俗にいうエルダー級の魔物がまだいることを思いながら辟易する。
今はバイクで逃走しているのだが、ものすごい側で追いかけてきている。さすがは魔物というべきか、アクセル全開のバイクを猛追できるのは化け物以外何物でもないだろう。実際化け物ではあるのだが。
「真司、どうする?」
「わかってる!このままじゃ、トレーラーにもどれない。近づくのもアウトな気がするよ」
「だから、どうすると……」
「やってみるだけやってみる!」
そう言うと真司は、慣性を殺さないようにバイクの前後を反転させて後ろむっきで走りながら銃撃をする。
しかし、彼の乗るバイクにはバックギアがないので、少しずつ減速し始める。それを感知した真司も対応するように、全開のモルドレッドを放った。
これで次回戦闘時まで撃つことはできなくなるが、猛追するアピスの迎撃並びに、原則を始めていたバイクの後ろ向きでの加速を同時に行う。
なぜ加速する必要があるかと言えば、単純に前向きに転身する際にスピードがないと無理にいけないからだ。
モルドレッドを射出した後は、特になにもいうことなくバイクを転身させてスロットルをねじっていく。
バイクは加速していき、モルドレッドによって動きを止められたアピスを大きく引きはがすことになる。
それに対しても彼は油断することなく、後ろに向けてもう一度射撃した。
いくつかの弾がヒットし、もう一度をアピスが後退し、彼を追うことが物理的に不可能な距離にまで開いた。
「さすがにここまで引きはがせば大丈夫だろ。青龍、一応追跡できるような仕掛けとかはされていないよな?」
「我が確認する限りは、だがな。しかし、ノールック射撃とは―――カッコつけたかったのか?」
「バカなのか?あの状況で俺はあっこつけると思われてるのか。普通に心外だよ」
青龍の言葉に若干の怒りを覚えるものの、ここでの言及は避ける。
アピス追撃を逃れたというわけなので、ゆっくりとトレーラーに戻る。
「そろそろ決着をつけないとな。これ以上は、あいつらもダレるし、俺も持たない。ここはメイズにかけてみるか?」
「危険ではあるが、確かに撃破の可能性は高いな。クリムゾンは耐性ができている可能性も考えられるからな」
「だが、暴走はネックだ。最悪トレーラーを破壊しかねない」
そこなんだよなあ、と青龍と真司は反応を見せる。
賭けるのはいいが、そこのリスクが―――彼らに選択肢は限られている。しかし、変に人道的であるがゆえに手段を選んでしまう。
まあ、それは仕方のないことだ。
そうこうしていると、アリスが話しかけ来る。
「悩んでるの?」
「まあ、相手がこちらの能力に対応し始めている。これでは、最後に暴走以外の選択肢をとるしかない」
「そう……どうにもなりそうにない?」
「多分な。クリムゾンは対策済みだろうし、コルバルトはそこの領域にも到達していない。加速状態は魅力的だが、そもそもの力が足りない」
彼の言葉に息をのむ。
ここで彼が戦えなければ、ここにいる全員が死ぬ。ならば―――
「使えばいいじゃない。メイズを」
「だが……」
「暴走したら私が止めてあげる。ううん、あなたを連れ戻してあげる」
「どうやって……?」
「そりゃ、愛の力よ」
そう言うと彼女は、彼の唇に触れる。
真司は困惑するが、指で触れたところに優しく唇同士を触れ合わせてしまう。
こんな時にと思うかもしれないが、これは大切なことだ。
「私は外に出れないから―――ちょっと早いけど、祈りを込めたキス。受け取ってくれる?」
「―――ああ、なんか力が湧いてくるよ」
それから少しの間だけお互いのおでこを合わせながら時間がたつのをゆっくまった。
しばらくすると、奥から南篠が話しかけてきた。
「暴走―――私が止めましょうか?」
「どういう意味だ?」
「V4システムの前に使われていたシステムを戦場に投入します。装着者は私として」
「……逃げ出さないか?」
「あの時は、それが最善の選択でした。それは間違いありません」
「まあ、いたずらに命を無駄にするよりはいいか。だが、危なくなったら戦闘を離脱するんだ。すぐにトレーラーを離してほしい」
そう伝えると、真司はすぐに出動の準備を始める。
さすがに、その機敏さにアリスは驚く。
「早くない?帰ってきたばかりだよ?」
「いや、やはり振り切れていなかった。こちらに近づいてきているな」
「わかりました。私も出動の準備を始めましょう」
そう言って南篠は奥のほうへと消えていく。
「ねえ、真司」
「なんだ?」
「これが終わって、帰れたら―――」
「帰れたら?」
「おいしいもの、食べに行きましょ」
その言葉に、真司の帰りの楽しみが一つだけ増えるのだった。




