THE REGENERATION
戦闘を開始した映像を見て、渡辺は歯ぎしりをしていた。
この状況で何もできない自分にだ。
本当なら、ここでオペレートでもしたいのだが、今スーツを着ているのは伊集院ではなく、真司。
想定を超える無茶な軌道。明らかに戦闘慣れをしている戦い方。すべての情報が彼女の想定を上回っている。
そこまでされて、気付かない彼女ではない。そこまでの鈍感は、伊集院くらいのものだ。
「ねえ、南篠君……」
「彼が、0号なのね?」
「―――なぜ、そうだと?」
「彼は高校生でしょ?もう大人に近いとはいえ、あんなことはできない。そもそも、私たちにだってあんな無茶はできない。わかってるでしょ?」
「ですが、それだけで判定するには」
「彼があなたたちを守ったんじゃないの?それなら、スーツもないのにゾンビの中を生き残った理由も納得がいくわ」
「南条さん、私はいいと思いますよ?多分、この人は真司を無為に利用したりしないと思う」
アリスはもう行ってもいいんじゃないかと南篠に打診した。
彼も、彼女がそんなことをする人じゃないとわかっているからこそ、アリスに言われてから特に悩まずにいうことができた。
「たしかにあなたの言う通りです。私の助力はそんなに大きくありません。彼のおかげで、空港での困難を切り抜けられました」
「そう……彼が0号―――人間が正体と想定していたとはいえ、相手は子供だったのね。申し訳ないことをしたわ……」
「なにがですか?彼は望んで戦いに来ています」
「バカなの?子供にあんな責任を負わせて、彼に頼りっぱなしで―――今も一人で……本当に情けないわ……」
はぁ、と彼女は大きなため息をついた。自分のふがいなさに嘆いている。
真司が想像以上の子供だったことがどうしてもショックなようだった。
よくよく考えれば、彼女の所属する警察は彼に何度も銃口を向けてきた。あの変身を解けば、守るべき一般人を殺そうとしていたことになる。
そのために自分の作った武器が使われていたと思うと、どんどん気分が沈んでくる。
「彼は、許してくれるのかしら……?」
「真司は、怒ってませんよ。警察もそれだけ大変なんだろうし、どうせ銃口を向けても俺には勝てないって言ってました」
「勝てない、ね……確かにデモニア一つ倒すのに苦労してるんじゃ、0号に手を出してもかなうはずないか……」
「真司は優しいです。だから、手を出したりしなければ彼は私たちを守ってくれます」
アリスは渡辺に言う。だが、どうすればいいのわからず、彼女はうつむいてしまった。それは彼に対する孟子3わけなさの表れか、それとも現実を受け入れられない痛みからなのか。彼女にしかわからないことだった。
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「クッソ、面倒な能力だな!」
「おかしいな。アピスに―――そもそも、魔物にあそこまで強力な再生能力を持っている種族は限られているはずだ……」
「それが即身体ってやつじゃないのか?でも、おかしいよな。先の戦闘であそこまで高速で再生することはなかったからな……」
真司と青龍がそんな会話をするのには理由がある。
それは、少し時間をさかのぼることになるのだが―――
モルドレッドによってゾンビを吹き飛ばした真司はすぐさまアピスと相対していた。
「会話の必要はない。さっさと終わらせる」
ズガァン!
間髪入れずにモルドレッドを撃ってアピスに命中させた。今の連射により、モルドレッドをガトリングに切り替えないと攻撃できない状態になってしまう。
だが、あれだけの火力をもろに受ければまともに立っていることなどできない。そのはずだった。
「ん……?なっ!?」
「真司―――これがフラグってやつか?」
「今、それを言うか?割と笑えない状況なんだけど?」
彼らの目に映ったのは、衝撃的な絵面。
攻撃を受け、体に穴をあけたアピスがそこに立っている。しかし、特筆するべきことはただ一つ。少しずつ穴がふさぎ始めている。
少しずつとが言ったが、遠くから視認してもわかるほどだ。それだけのスピードで行われているのは議論する意味もない。
「ちっ、相手の再生速度を見る。ガトリングで奴の肩やらなにやらを打ち抜く」
「わかった」
真司は青龍に報告だけすると、躊躇なく引き金を引いた。
秒間何十発も弾丸を受け、アピスの右肩と一緒に腕が吹き飛んだり、左ひじの下からがなくなったり、わき腹が消滅したり。
おおよそ、普通の魔物なら撃破していてもおかしくないところまでやった。
しかし、射撃が当たっていない部分から少しずつ回復していき、何事もないことかのように前進してくる。
そうして、時刻は先ほどのところに戻る。
後退をしながら射撃を繰り返し、アピスを何とか押し返す。しかし、それもむなしくアピスは距離を詰めてきている。だが、そこで彼は理解した。
「再生速度が変わってる。おそらく即身体になった魔物は、死と同時に生を受ける。それが原因で、死という概念がなくなるんだ。そして、その呪いは少しずつ根深く大きなものとなる。証拠に、奴は攻撃を受けても痛みを感じてる様子がない。それに、さっきも言ったが再生速度が変わって―――少しずつ早くなってる」
再生速度についてわかると、真司はすぐ攻撃をやめる。
逆にそれがトリガーとなってしまうことを理解してしまったから。
「だからってなにもしないわけにはいかないのでは?」
「わかってるよ。常套手段としては、再生が追い付かないほどの速度で―――とかなんだが、対応される気がする」
「そうだな。あまり高速で再生できるようになると、こちらも手を出せなくなってしまう」
高速で攻撃というのも心当たりがないわけではないが、それが元とはいえエルダー級に通用するとは考えにくい。唯一有効打になりそうなのも、クリムゾンだけ。
どうするべきか。
「青龍、もう一度トレーラーに連絡をつなげられるか?」
「わかった」
真司の言葉を受けて、青龍は通信の接続を試みる。数瞬置いた後、通信がつながる。
『十神君でいいのかしら?』
「そういうのはあとにしてくれ。今すぐトレーラーを戦闘位置から遠い位置に走らせてくれ」
『え、どういう……?』
「いいから早く!」
彼の剣幕に押された渡辺はすぐに走り出すように指示する。そのことを真司に伝えると、彼は通信をすぐに切った。
「何か策があるのか?」
「いや、ない。だから撤退する―――有効な手段を考えたんだが、今の俺にはできない」
「わかった」
彼の言葉に青龍は煙幕を張った。次の瞬間には、煙とともに彼の姿はなくなっていた。




