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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第17章 新拠点と神獣使い

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295 引越し7〜三国協定〜

[前回までのあらすじ]新居探しのため高級不動産屋を訪れたオルフェルたちは、国境の要塞を売りたいというアルデオンから、聖遺具の存在や大陸の歴史を教えられる。彼らが聖遺具のもつ強力な力に圧倒されるなか、話はそれをめぐる三国協定へと移っていく。


 場所:リヴィーバリー

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************


 俺は『聖遺具三国協定の重要性』と書かれた分厚い資料を読みはじめた。


 文字の多さに拒絶反応が出ていたけど、読んでみると驚くほどわかりやすい資料だ。


 協定締結に至るまでの経緯や、年代ごとの条文の変化が表になっている。


 資料によれば、この協定を成立させるまでには、ベルガノン王国とクラスタル王国だけでなく、いまでは冷戦状態のオトラー帝国も交え、幾度となく協議が重ねられたらしい。


 聖遺具の所有権はもちろんだけど、どの地域を優先して浄化するのかで争ったり、聖遺具で利益を得ようとする者が現れたりと、かなりの混乱があったようだ。


 だけど、戦争は闇のモヤを生み出すから、争っていては浄化が進まない。


 そこで三国は共同で浄化作戦を行い、大陸全体で協力しながら、少しずつ信頼を積み重ねた。


 そうして人々は、徐々に闇のモヤを押し返していったのだという。


 もちろん、それは口で言うほど簡単なことじゃなかっただろう。


 資料には協定に参加した要人たちの名前が記されている。




================


 <ベルガノン王国>


(国王)エルディアス・ドルド・ベルガノン


(騎士長)レオ・レビレク



 <クラスタル王国>


(国王)アーノルド・ゼ・リアグラス


(宰相)エメル・フォルカ



 <オトラー帝国>


(皇帝)ローラ・アウレデル


(教皇)レーニス・ライネルス




================




――って、ローラ大佐とレーニスかよ!?


――この二人が皇帝と教皇!?



 思わずシンソニーの顔を見ると、彼もこっちを見ておかしそうに肩をすくめた。


 先輩たちもなにも言わないけど、かなり衝撃を受けているようだ。


 二百四十年前の話なら、そのころには二人とも八十歳近くになっていたはずだ。


 ジックボール部で俺を引きずりまわし、義勇軍では豪快に大剣を振り回して、あげくはミシュリに俺への色仕掛けをけしかけたローラ大佐が、神妙な顔で協定書に署名している。


 そんな光景を想像すると、なんとも言えない、むず痒いような気持ちになった。


 しかも、俺の悪友だったレーニスまでが、あの混沌の時代をたくましく生き抜き、教皇として人々を導いていたという。


 レーニスとはイソラの件で何度も文通してたけど、そんな姿はいまいち想像しにくい。



――あいつ、すげーがんばったんだな。最後の記憶ではぶっ倒れてたけど、元気になったみたいでよかったぜ。



 歴史となった知人の名前を眺めていると、なんとも言えない感慨が、胸の奥に湧いてくる。


 けれどいまは、それを口にするわけにはいかなかった。


 なぜならオトラー帝国は現在、ベルガノン王国の敵国だからだ。ここでこの話に乗って盛りあがるには、あまりにも状況が繊細すぎる。


 俺たちはなにも言えないまま、ただその資料を見詰めていた。


 ミラナも静かに考え込んでいる。どうやら彼女にも、いろいろと思うところがあるようだ。


 アルデオンさんは資料のページを一枚めくった。



「どの国がどの聖遺具を所持し、どのように管理し、運用していくかは、協定が結ばれた当時、慎重に話し合われたそうです。聖遺具は現在それぞれの国で、『国宝』として扱われています」


「へぇ……。よくそんな話がまとまったよな……」


「絶対揉めごとになりそうだよね」



 シンソニーが苦笑いしている。


 きっと、その取り決めに至るまでには、さまざまな経緯があったのだろう。


 互いに納得できないことがあっても、結局のところ、もう決めるしかなかったのだ。


 それぞれが折れ、それぞれが譲り、いろんな思いを胸のうちにしまい込みながら、どうにか折り合いをつけたのかもしれない。


 こうして資料を眺めているだけでも、当時の苦労が伝わってくる。



「最初に聖剣を手にしたのは、オトラー帝国の皇帝ローラ・アウレデルだったと伝えられています。彼女は長年にわたって活動を続け、大陸の浄化に大きく貢献しました。


そうして長い年月が流れ、高齢になった彼女の後継者として聖剣が選んだのは、ベルガノン王国の騎士長レオ・レビレクだったのです」


「聖剣が、使い手を選ぶんですか?」


「ええ。この聖剣は、選ばれた者にしか浄化の力が発揮できないといわれています」


「なるほど。それで帝国が持っていた聖剣がベルガノンに渡ることになったのですね」


「ええ。強い反発もあったようですが、後継者がベルガノンから選ばれたという事実が、非常に大きかったようです」


――ふーーむ。それにしても、よく手放したよな……。



 自国の皇帝が持つ強力な浄化の剣。きっとそれは、新生帝国の象徴といっていいものだったはずだ。


 どう考えても、簡単に手放せる代物じゃない。


 それでも、大陸全体のことを考えれば、そうするしかなかったのだろう。


 使えないものを持ちつづけていても、浄化作業が止まるだけだ。


 当時、国を動かしていた人たちが、そういう現実を受け入れたからこそ、きっといまの世界があるのだ。


 これもまた、奇跡という言葉だけでは、足りないくらいの話だった。



「レオはハーフエルフだったから、人間より寿命が長いし、きっと長く活躍したんだろうな」


「ええ。彼は百年にわたり、聖剣による浄化を担いました。各国の要請に応えて三国を巡り、大陸全体を浄化することが、ベルガノンが聖剣を持つための条件のひとつだったのです」


「なるほど……。それは本当に重い役目ですね」


「はい。どれだけ平和的に物事を進めていても、突発的に闇のモヤが発生することはあります。聖なる灰の効果がじゅうぶんに行き渡るまでは、聖剣の役割が大きかったようです」


「百年もそんな役目を……」



 ミラナは英雄の苦労を思ったのか、目元にうっすらと涙を浮かべている。



「ミラナ、もしかして、このレオってやつと知り合い?」


「うん。水の国へ亡命してから、いろいろと助けてもらったの」


「へー、それで? どんなやつ?」


「え? 優しくて勇敢な人だったよ。魔力量もすごかったし、ハーフエルフってみんな美形だから、人気も人望もすごくって……」


「変に馴れ馴れしくされたりしてねーよな……」


「そんなんじゃないよ。オルフェルも会ったことあるはずだけど?」


「うーん、さっぱり思いだせねー……」


「おぉ……! やはりあなた方は、歴史上の人物と直接つながっていたのですね! すごい。私もお会いしてみたかったです、レオ・レビレク!」



 俺が小声でミラナと話していると、アルデオンさんが身を乗り出してきた。瞳がキラキラと輝いている。


 しょうもない嫉妬をしてしまった自分が、なんだか恥ずかしくなってきた。


 俺は俯いたついでに、また資料へ視線を落とした。次の項目に意識が向かう。


 そこには『聖なる灰』を作るための手順が記されていた。



『聖なる灰』で土壌改良した土地では、闇のモヤに対する浄化作用を宿した植物が育つらしい。その植物を燃やすことで、他の地域に撒くための新しい灰を作ることができる。



 普通に燃やすだけでもいいようだけど、聖遺具のひとつである『聖なる鏡』で火を起こし、その炎を使うことで、浄化の効果が高まるという。


 さらに、シャーレン教の聖地シャルバリで儀式を行えば、通常よりもずっと効果の高い、最高級の灰が作れるようだ。



「聖なる灰の力を高めるため、クラスタルでは毎年、シャーレン教の聖地へ巡礼し、そこで聖なる灰を作っているそうです」


「へぇ……。なんかたいへんそうだな。どうせシャルバリで燃やすなら、帝国が鏡を管理して、自分たちで灰を作ったほうが早くねーか?」


「そうですね。ですが当時の帝国では、多くの人が魔物化していたため、聖なる鏡よりも聖なる指輪を求める声が強かったようです」


「げげっ……。そりゃ、指輪が欲しくなるよな……」


「はい。それに、当時の帝国では、魔法が使えない地域が広範囲におよんでいたそうです。大量の植物を育て、土壌改良を進めるには、人手が足りなかったともいわれています。


その点、クラスタル王国は人口が多く、魔法の影響も少ないため、土壌改良のための労働力を確保しやすかったようです」


「なるほど。クラスタルはもともと魔導師が少ないぶん、国民が重労働に慣れてたんですね」


「ええ、まさにそのとおりです」



 クラスタルは厳しい寒冷地だけど、雪の下でも育つ耐寒性の植物が意外と豊富に育っている。


 冷たく重い雪に押しつぶされそうになりながらも、健気に根を張って春を待つ。そんな植物の姿は、厳しい環境のなかでも力強く生きるクラスタルの人々と重なってみえた。


 そうして育てられた植物は、いまでは魔物を落ち着かせるエサとして、魔物使いたちにも広く愛用されている。


 高い効果を発揮するのは、しっかりと改良された土壌で育っているからなのかもしれない。


 だけど、聖なる灰の効果を高めるためには、シャーレン教の司祭たちの協力が必要だった。


 そんな事情もあって、クラスタルの人々は、オトラー帝国の土壌改良のためにも、必要な労働力を提供していたらしい。


 両国のあいだで、かなり大規模な国際交流が行われていたことが窺われる。


 そうして作られた聖なる灰は、帝国だけでなくベルガノンにも分配されることが、三国協定によって定められていた。


 どれくらいの量をどこの国へ回すのか、そこにはきっと、政治的な駆け引きがあったのだろう。


 それでも、これらの取り決めは基本的に、国同士の理解や結びつきを深め、戦争を防ぐために決められていたようだ。


 人間が魔物化する地獄のなかで、聖なる灰の分配や労働力の話までまとめるなんて、本当に大変だったに違いない。



「なるほど。三国がそれぞれ聖遺具を管理し、互いに協力して信頼関係を築くことで、大陸全体の環境をこれまで守ってきたのですね」


「はい、そのとおりです! 三国協定が長年にわたって機能してきたおかげで、この大陸は闇のモヤにも負けない、浄化の力を宿した土地へと生まれ変わりました。大規模な戦争でも起きない限り、発生した闇のモヤは自然に浄化されていくはずです」


「本当に素晴らしい話ですね!」



 百年もの歳月をかけて、ようやく取り戻した清浄な土地と信頼関係。けれど、その状態になってから、すでに百年以上経っている。


 いまの国境の緊張を思えば、この三国協定は、もう機能していないのかもしれない。



「では、次の資料をお渡しします」



 アルデオンさんが取り出した新しい資料には、『聖剣戦争の経緯』というタイトルが記されていた。



いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 聖遺具三国協定のお話、いかがだったでしょうか。現在はベルガノンと冷戦状態にあるオトラー帝国ですが、その長い歴史の中では、三つの国による協定に参加していたようです。


 小難しい説明がもう少しだけ続きますが、お付き合いいただけると嬉しいです。


次回、第二百九十六話 引越し8〜聖剣戦争〜をお楽しみに!



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― 新着の感想 ―
歴史書の中の三種の聖遺具。 オルフェルとミラナにも驚きで。 忘れてますがすごいものだったのですね。 色々知っているのはミラナくらいなのでしょうね! 続きも楽しみです°・*:.。.☆
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