第89話 準備
日々は過ぎて、4月に入る。
黒島はこの日もニュースを眺めていた。
『……地球外生命体、通称流浪の民が地球に飛来して、もう間もなく1年が過ぎようとしています。飛来当初は地球外生命体の可能性を信じ、探査チーム兼使者を送り出した訳ですが、残念な結果に終わったことは皆さんの記憶にあることでしょう。それから何度か使者を送り出してきたわけですが、すべて残念な結果に終わりました。その結果国連軍が結成され、現在に至るまで静止衛星軌道上にいる流浪の民の基地を破壊しようと試みた次第です。この戦闘の結果も、第4次攻撃まで敗走を重ね、人類は絶望に瀕したわけであります。しかし、この戦況を変えたのは、突如として現れた紅き艦。それこそ、人類が渇望した勝利というものをもたらしてくれました。そして彼らはレッド・フリートと名乗り、国連の場に登場することになりました。我々人類がレッド・フリートを認める代わりに、彼らは勝利を約束してくれました。そして今日に至るまで、静止衛星軌道上に存在する基地や、多数の流浪の民の攻撃を撃退してくれました。もちろん、それによって大きな被害を受けた場所もあります。しかし、彼らレッド・フリートがいなければそれ以上に被害が出ていたことでしょう。そんな激動の一年を詳しく振り返ってみましょう……』
こんなことを言っていた。
「そんなレッド・フリートのこと持ち上げても何も出ないけどね」
「まったくですね」
レイズとそんな会話している黒島は、いつにもまして勉強をしていた。
それは、黒島が高校3年生になったからだ。
いよいよ受験を意識しなければいけない時期であるだろう。
そんな黒島の横で、トランスは「Fleet of Red」の運営をしていた。
今回はキャンペーンモードで、橙の艦艇同士での大規模戦闘を企画しているようだ。それはツイッチューブで中継され、運営元であるNinjinに収入として入る仕組みを作っている。
どうやらミリタリー界隈に限らず、いろんな人がこの大規模戦闘に注視しているようで、様々なネット記事が作られた。
そしてその戦闘の様子はツイッチューブで生放送で放送される。
結果としては大成功に終わり、各種方面から様々な声が上がった。
そして時は少し過ぎ、4月2日。
この日はトランスが用事があるといって、黒島のパソコンを使っていた。
「こんな時に誰と話するんだろ?」
この日は登校日であった黒島は、トランスがどのような理由でパソコンを使っているのかまったく理解出来なかった。
「多分人類を助けてくれる何かを作っているのかもしれないね」
そんなことを言う後藤。
それはまるで、家に帰ってからのお楽しみと言わんばかりであった。
家に帰宅した黒島。自室に入ると、トランスがいい顔で出迎える。
「うわ、なんですかその顔。似合わないですよ」
「そんなことを言うな。こっちは商談がうまくいったんだからな」
「商談ってなんです?」
「前に言ったかもしれないが、早期警戒システムを構築しようと思ってな。実績のある八菱重工に話を通していたんだ」
「これまたビッグネームが出てきましたねぇ」
「これが成功すれば、早期警戒システム実現化も夢ではないな」
「でも開発に時間かかりそうな感じしますけどね」
「何、実例がここにいるんだ。開発期間なんぞ取らせはせんよ」
そういって、ニッコリと笑った。
再び早期警戒システムの必要性を説いた提言書が日本政府に提出された。
その必要性は予算委員会で認められ、直ちに補正予算案が組まれ、国会に提出される。
今回、早期警戒システムは人類共通の規格として、所持しているスマホで警報を鳴らすという仕組みだ。ちょうど緊急速報メールに近い。
このシステムを応用してこの早期警戒システムを運用しようとしているのだ。
日本政府はこの早期警戒システムを包括的かつ有効的に活用するために、各国政府に対して要請をする次第になった。
もちろん、これにも各国政府は難色を示したものの、このシステムがあれば自国が受ける被害が少しは減る可能性があるという確率論にすがって、導入を決めることになった。
そして、八菱重工はこの早期警戒システムを製造するために、工場のラインを停止してまで空けることにした。今回製造する早期警戒システムはレーダーサイトに設置するための、たった一つの特注品を製造することになった。
この結果、八菱重工に入る収益は非常に少ないものになったが、社長曰く、「こういうのは利益が出る出ないの問題ではない。お国のために、人類のためにするものだ」という言葉を残していった。
「よしよし、いい感じに進んでいるぞ」
そうトランスは言う。
実際、提言書を提出してから製造開始まで一週間も経っていない。異例中の異例と言える程のスピーディーさである。
「で、実際どのくらいで稼働までこぎつけそうなんですか?」
「あと数日だ。レーダーサイトに設置するまでを含めてな」
「……スピードえぐくないですか?」
「かなり早いな。やはり人類は危機が迫ると本気を出せるようだ」
そんなことを面白そうに話しているトランスであった。
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