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異次元無双の紅き艦  作者: 紫 和春


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第86話 真珠湾の戦い 後編

 これで残りのトムボール級爆弾は2つとなる。

 そこに蒼の旗艦がやってきた。


「バリアの展開はギリギリまで保留してください。こちらもギリギリまで狙撃を続けます」

「了解した」


 そういって狙撃銃の充填が終了する。

 三度(みたび)狙撃が行われた。

 そしてトムボール級が爆発する。

 しかし、残りの一つが上空10000mを切ってきた。

 もはや狙撃銃を再充填して落とす余裕もない。

 ここからは蒼の旗艦の出番である。


「バリア最大展開……!」


 紅の旗艦を始め、大多数の艦艇を覆いつくすように、バリアが展開される。

 しかし、ここで一つ問題が発生した。

 バリア内部に国連軍宇宙艦隊の姿が見当たらないのだ。


「国連軍はどこに!?」


 後藤が必死に探すと、そこはバリアの外側、白の艦艇群を積み上げているところだった。


「ジーナ!蒼の艦艇を!」

「今やってる!」


 橙の艦艇は強いバリアを展開することはできない。蒼の艦艇でなければ、トムボール級の攻撃を防ぐことはできないだろう。

 この間にも、レイズは国連軍に対して呼びかけを行っていた。


「国連軍、今すぐその場から撤退し、衝撃に備えよ!」

『それはできない。我々には、この艦艇を死守するという任務がある』

「そんなことはいいから早く!」


 レイズは思わず声を荒げる。

 日本艦を始め、複数隻は蒼の旗艦の影響下にあるようだが、取り残された国連軍は一切引こうとはしない。


「どうしてそこまで白の艦艇に固着するんですか!」

『……正直な所、我々には君たちがうらやましく思うのだよ』

「どういうことですか……」

『地球外生命体の技術力をもって、人類側に立ち、かつての同胞と対峙する。それだけで出来すぎたストーリーじゃないか。我々はそのストーリーにすら立てない。無力な存在なのだ。だからせめて、人類のためになるものを残しておくのが、せめてもの我々の報いだ』

「そんなの、生き残ってから言ってください!」

『我々は無力だ。だからせめて、君たちだけは頑張ってほしい』

「訳の分からないことを言ってないで……」


 そういって、レイズはうなだれる。


「……ジーナ、蒼の艦艇は?」

「もうすぐで到着予定」


 その時である。

 トムボール級が急激に加速し出した。

 そしてそのまま、蒼の旗艦のバリアを押しつぶさんとする勢いで、トムボール級は衝突した。

 その瞬間、とてつもない衝撃と光が辺りを包み込んだ。

 その衝撃は、朝鮮半島に落下したものに比べればまだ小さいものであったが、それでもとんでもない程のエネルギーが放たれたのは間違いないだろう。

 海面は津波のように波をざわめかせ、大地を揺らす。

 そして静寂。


「収まった……?」

「トムボール級の反応消失。白の艦艇群も反応はないよ」


 そう後藤が報告する。

 しかしそれは、次のようにも言い換えられる。


「国連軍宇宙艦隊の大半が蒸発しました……」


 そう、レイズが悔しそうに言う。

 戦術的には人類側の勝利であろうが、戦略的には人類の敗北である。

 そして、人類はハワイ諸島の喪失という形で幕を閉じることになった。

 これはすぐさまニュースになる。


『……日本時間21日午前3時ごろ、ハワイ諸島にて流浪の民による攻撃を受けました。直後、日本軍と国連軍共同管轄にある紅の旗艦と、人類と流浪の民の技術力の結晶である橙の艦艇によって退けられました。国連によりますと、流浪の民が仕向けた艦艇の数は過去最多となっており、これをほぼ単艦で退けた紅の旗艦の能力の高さがうかがえます。しかしその後、上空より飛来した質量爆弾によって国連軍宇宙艦隊の大半が巻き込まれ、現在国連軍宇宙艦隊は戦力を著しく低下させた模様です。宇宙艦隊として残っている艦は、日本所属の巡航艦瑞鶴、大淀と巡航駆逐艦綾波、高波の4隻と、中国、インド、フランス、イギリスの艦艇になります。宇宙艦隊旗艦を勤めていたエンタープライズは、爆発に巻き込まれて撃沈したと見られています。また周辺の各都市の様子ですが、建物などに激しい損傷が見られ、今後の復旧作業に難航しています』


 そんな情報が朝のニュースで流れる。

 今回の戦闘で、ハワイは壊滅的な被害を被った。とてもじゃないが、今後リゾート地として再建するには時間がかかるだろう。

 それと一緒に問題なのが、レイズの様子のことだろう。

 あの戦闘、特にエンタープライズとの通信をきっかけに、鬱のような症状に陥っている。


「このまま鬱状態でいられても困るんだけどなぁ」


 3月22日。この日後藤は黒島の家にいた。


「それもそうかもしれないけど、何か声をかけてあげたほうがいいんじゃないかな?」

「でもなんて声かける?レイズさんのしたことは間違ってません、とでも言う?」

「うーん。そこはなんとも言えないけど……」


 そういうと、後藤は少し考えて、こう答えた。


「やっぱり本人に任せるしかないんじゃないかな?」

「その心は?」

「人間時にはそっとしておいてほしい場合もあるんだよ。今がその時なんじゃないかな?」

「うーん、どうなんだろ?」

「そのうちケロッとして出てくるよ」

「聞こえてますよ、お二人さん」


 そう言ったのは、レイズの声である。


「レイズさん、大丈夫ですか?」

「何がですか?」

「ほら、先の戦闘から少し落ち込んでいたというか、そんな感じがしたので……」

「大丈夫ですよ。最近は人間とはああいうものだと割り切ってますから」

「はぁ、そうですか」

「なんですか。その人を疑うような目は?」

「いや、ポジティブだなぁと」

「じゃなきゃこんなことやってられませんからね」


 そういって、黒島たちはしばらく駄弁っていた。

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