第84話 矛
この日、トランスは黒島のパソコンを使っていた。
「急にパソコンが使いたいだなんて、一体何があったんです?」
「少し思いついたことがあってな」
その内容を黒島は見てみる。
どうやら相手とはメールでやり取りをしているようだ。
その相手の名義を見てみると、どこだか分からないような人とメールをやり取りしていた。
なんとなく疑問に思った黒島はトランスに聞いてみる。
「一体誰とメールしているんです?」
「日本電子システム株式会社だ」
「日本電子システムっていうと、NESCですよね?あの有名な」
「そうだな、日本有数の電気機器メーカーだ」
「どうしてそんな所と?」
「知らんのか?かつてNESCはかつての自衛隊に装備品を卸していたこともある実績のある会社だ」
「そうなんですか?それで、なんでそんな会社と?」
「実はだな、国防省と相談したことなんだが、個人抑制用逆位相システムをモジュール化するという計画が浮上してな。その製造をNESCに依頼しようという話なんだ」
「なんか話が大事になってきているような気がするんですが?」
「それで今は、NESCの担当者と相談もとい商談しているというわけだ」
「それトランスさんがやる仕事ですか?」
「まぁ、先方も意欲を示している。この商談、うまく行くぞ」
そんなこんなで、白の艦艇を封じ込めた個人抑制用逆位相システムは人類側の電子装備の一種として製造されることが正式に決定した。
政府はこれを補正予算に組み込み、緊急の財政導入を行うことで早期に政府として製造することを閣議決定する。
また、政府はこのシステムを他の国の宇宙艦艇運用国家に輸出する考えを示している。
各国政府としては、日本1ヶ国でシステムのほとんどを握られているのは癪に障る感覚ではあるものの、現状それを上回る程の魅力がそこにある。
結果として政治的理由から、このシステムは現在宇宙艦艇を運用している国、9ヶ国に対して製造販売されることになった。
「よし、これで問題はないはずだ」
「これで日本はある種のブラックボックス化を保ったまま、それを他国に売りつけることができるというわけですか」
「なんかよくわからないけど、もっと仲良くできないのかなぁ?」
黒島の部屋で、後藤がやってきて駄弁っている。
これまでの緊張感ある戦いとは実に対照的だ。
「でもいいじゃないか。これで事実上人類に戦うための手段を手に入れられる。我々が出助けする余地はないよ」
「本当ですかねぇ?」
「もちろんだとも。これに橙の艦艇の無人化が完全に進めば、いよいよもって人類のみで流浪の民の攻略もたやすいだろう」
「でもそこに行きつくまでにトランスさんとか色々手助けしてますよね?」
「それはいいんだ。進化の過程は重要視されるものではないからな」
「いろんな所から反感買いそうな言い分ですね」
そんなことをだらだらとしゃべっていた。
そのうち、黒島の学校は春休みに入る。
この春休みが終われば、黒島たちはいよいよ高校3年生となり、受験を迎えることになる。
その前から受験に関しては色々進展があり、この春休み中にも2日かける模試が入っている。
もちろん、黒島はそれに間に合うように受験勉強を続けてきていた。
しかしここに来て、受験とレッド・フリートの活動に折り合いがつかないことが少々出てくる。
もちろん善意での行動であるため、黒島たちはあくまでも学業が優先である。
そのため、しばらく白の艦艇が襲ってこない時間は、黒島たちにとってありがたい限りであった。
そんな中、NESCによる逆位相システムの製造は順調に進んでいた。もとより、トランスがモジュール化に併せて設計を行っており、それを急ピッチで形にする。日本特有の現場の困窮化が入っているものの、人類を救うための装置であることを鑑みれば、この行動もやぶさかではないだろう。
こうして3月が終わる前に、合計35隻に搭載予定のシステムモジュールが完成した。
早速各国の宇宙艦艇は日本に集結し、このモジュールを即席で装備していく。
その設計思想は甲板上ならどこにでも装備できるCIWSのファランクスのようなものであるため、場所さえ指定してしまえば、簡単に装備することが可能である。
こうして、3月の後半にはすべての宇宙艦艇にシステムモジュールを搭載することが完了した。
「ふっふっふ。これで一儲けできた……」
そういってトランスはパソコンで何かを見る。
「トランスさんが金儲けするなんて聞いてませんよ」
「私も初耳です」
「何言ってるんだ。これはNESCの業績がアップしたことを意味する書面だよ」
黒島はズッコケそうになった。
「何を見てそんな感想が出るんですか……」
「まぁいいじゃないか。それに人類側もいよいよ自分らが戦う番であることを自覚したようだしな」
それは夕方のニュースであった。
『各国の宇宙軍艦艇に、知的生命体に効果のあるというシステムが搭載されました。これにより、人類のみでも知的生命体に対して戦闘を行うことが可能となりました。この影響を受けて、ダウ平均株価は大きく値を上げる結果となりました。一方で、その効果が本当に効くのかについては、いまだ疑問が多く残る形となっており、国内外では推進派と慎重派で意見が分かれています』
「まぁ、実際そんな感じだろうが、これで人類は矛を手に入れた。次は行動するだけだ」
黒島には、トランスが上位互換の生命体のように見えた。実際の所そうだが。
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