第68話 会議
会議室には、エンジニアと思われる関係者たちが座っていた。
その最前列に、黒島たちのために用意された椅子に座るような形だ。
まずは天塚が説明に入る。
「今ここにいるのは、機械屋からプログラマーまで、様々な分野の人たちです。今回は回収された白の艦艇から技術を取り出した最前線の人たちを呼ばせてもらいました。また、無人艦建造に向けた無個人データの解析や利用についても説明させてもらいます。では、早速説明の方をお願いします」
黒島は借りたパソコンにスマホを接続し、そこにトランスに入ってもらった。
そして説明が始まる。
「まず、回収された流浪の民の技術について、理化学研究所の戸塚が説明させていただきます。今回回収された物品は、艦艇の機関に相当するものだと推定されています。この機関内部には、未知の物質が封入されており、この未知の物質が何らかの影響によって出力を得ているものと考えられます。サンプルとして、この未知の物質を回収したものの、既存の物質には相当しないものであることが判明しています。つまり新物質です。しかも周期表から見てみると、水素とヘリウムの間にあるという、極めて現実的ではないものだと推察されています」
後半になるに連れて、研究員は興奮気味に話す。
それを自覚したのか、一つ咳を入れる。
「話が逸れてしまいました。結局のところ、この物質がどのようなものであるかは分かりませんでしたが、どのようなプロセスを経て出力を得ているのかは分かりました。結論から申しますと、この未知の新物質から発せられる何らかのエネルギーを使って、推進力やその他艦の制御に使用しているものと判明しました。この結果を踏まえ、コンピュータ解析による機関出力効率を計算してみた所、我々人類が使用しているものより効率的であることが分かりました。そして同時に、これをそのまま人類の艦艇に使用することは不可能であることも分かりました。理研からは以上です」
そういって戸塚の話が終わる。
そこに質問をするように天塚が出てくる。
「すなわち、この機関をそのまま使用するためには、人類側がこれに合わせて設計した艦を建造する必要があるということですか?」
「現状そうなります。ですが、それでも艦として完成させられるかは不明な所です」
「わかりました。ありがとうございます」
そういって、人が入れ替わる。
「情報通信研究機構の服部です。先日、そちらにいるトランスから無個人データというものを提供されまして、その解析と現在までの知見を共有したいと思います。まず、無個人データと言いましても、その実態は人になる前の赤ん坊のようなものであることが分かりました。つまり、これをそのまま活用するにしても、ただのデータの塊のようなものであり、実戦に使えるようなものではありません。しかしこれは、逆説的に言えば豊富なデータさえあれば、無個人データ単体でも動かすことが可能であるということです。これを踏まえまして、今後の計画として、まず有人による操縦で戦闘を複数隻で複数回行い、その蓄積された戦闘データを無個人データに導入することで、無人艦の戦闘に役立てるということを考えています」
事実のみを淡々と述べていく服部。
それに天塚が質問をする。
「その蓄積すべき戦闘データの確保というのは、どのように考えていますか?」
「真っ先に思いつく方法としては、流浪の民の艦を改造し、人が乗れるようにして戦闘を行うような方法です。ちょうどそこにいる二人の環境が最善ですね」
そういって服部は黒島と後藤を指さす。
そして服部は続ける。
「しかしこの方法はリスクを伴います。もし撃墜された場合、人員の命は保証されません。そこで、現在海軍でも使われている無人艦の運用方法を活用して、無線で艦艇を動かす方式を採用したいと考えています。それに加え、この無人艦をゲームのように動かすことを想定しています」
「それはどういうことでしょうか?」
「これは古い技術で、今も使われているものなんですが、ドローンを別のところから遠隔操作して作戦行動を行うものですね。これを利用して一人一隻を担当するように量産無人艦をゲーム感覚で操作してもらうというのを想定しています」
「それは……うまく行くものなんでしょうか?」
ここで話をトランスに持っていく。
「艦を新設計して、新しいソフトウェアを搭載するという話だろう?そのくらいならお安い御用だ。量産も可能だと思うがな」
「ありがとうございます。さて、ゲームのようにするという話でしたが、これは可能であれば国内、だめなら国外のFPSゲームやシューティングゲーム、コンバットゲームを手がけるゲーム会社に協力を要請して、無人艦を操縦できるようにしておきたいと思います」
「つまり、無人艦をゲームのように仕様変更して、それをゲームとしてプレイしてもらうということですか?」
「身も蓋もないことを言えばそうなります」
「なるほど、ありがとうございます」
こうして、話は終了した。
最後に天塚が総括する。
「今回の話で、流浪の民が使用している機関には、人類にとって未知の技術が使われていることが判明しました。そしてそれを活用するには、まだ人類は到達していないという結論でした。一方で無個人データの活用方法には進展が見られたようです。今後はゲームの一環として戦闘データを蓄積させ、今後の展望に期待したいところです」
そういって、今回の会議は終了した。
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