第63話 カシミール地方
この日の軍事活動を終了したため、黒島たちは一時帰宅することになった。
本来なら、この戦闘行為が終了するまでいるべきなのだろうが、黒島たちは未成年であるという理由で、帰宅となった。
しかし、その後いい報告が入る。
『韓国と北朝鮮は今朝、すべての戦闘行為を中断することに合意しました。韓国のヨン・ヨンホ大統領と北朝鮮のキム・イルヤン委員長がホットラインを通じて、戦闘行為を中断し、元の状態に戻すことを決めました。また板門店では、両国の最高責任者が会談を行い、戦闘の停止を確認しました』
おそらく、紅の旗艦の攻撃が効いたのだろう。古の戦艦を彷彿とさせるような、畏怖の念を抱かせるような強力な武器を装備した兵器が、人類の手に負えないほどいるのだから、なおさら考えさせるものだ。
そんな感じで、朝鮮半島方面の問題は片付いた。
次はインド・中国・パキスタンの国境付近だ。
しかし、ここで一つの問題が発生する。
この日は1月11日であり、黒島たちは学校に行かなければならない。
もちろん、学校に言えば公欠扱いにはしてくれるものの、いつまでかかるか分からない戦争に身を置き続けることはできない。
そのため、黒島は日常生活を送ることを最優先にし、レッド・フリートの活動を副次的なものにするとした。
これには国連軍も了承しており、今後の活動に制限をかけることを理解している。
そのような理由から、今後の活動はレイズ、トランス、ロビンによって運営されることになる。
「でもいいんですか?人類のことを皆さんに任せちゃって」
「別に問題ありませんよ。祐樹さんは今まで通りの日常を過ごしつつ、白の艦艇が現れた時には出てきてくれればいいんですから」
「そうだ。羽を伸ばす気分でゆっくり学業に励むといい」
「たまには俺と一緒に遊ぶかい?」
「大丈夫です……」
「そんな反応されるとさすがの俺でもちょっと傷つくな」
そんな話をして、黒島と後藤は学校に向かった。
一方で、レイズたちは紅の旗艦に乗り込む。
今度の目標であるインド国境に国連軍宇宙艦隊と共に向かう。
インド、中国およびパキスタン国境、特にカシミール地方における戦闘が激化していたようだ。
国連軍宇宙艦隊は今回の戦闘は上空に飛翔させたミサイルを自爆させることによって、戦闘を中断させることを目的としていた。
これを聞いたレイズは反対する。
「これでは有効的に戦闘を中断させることができないと考える。実弾による攻撃を進言する」
『却下だ。実弾による攻撃は戦闘をさらに激化させる可能性がある。ミサイルの自爆程度に留めよ』
「話が分からない人ですね」
「しゃーないだろ。そういうのがもともと人間っていうものなんだからよ」
「そうかもしれませんけど」
「レイズ、そういうことは抜きにして、今は指示に従おう」
トランスの助言によって、仕方なくレイズは国連軍の方針に従う。
国連軍宇宙艦隊は、ミサイルを発射し、牽制のために戦闘の行われている上空で爆発させた。
レイズもそれに倣ってミサイルを発射する。しかしここでレイズはささやかな抵抗を示した。
それはミサイルの全弾発射。100を超えるミサイルが戦闘空域を飛翔し、そして自爆させるのだった。
まだ昼間であるが、まるで花火工場が爆破したような明るい光が戦場を照らす。
『レッド・フリート、やりすぎだ』
「言葉を返すようだが、牽制というのは最大火力でやるものであると考える。そのために行動したに過ぎない」
『……次は気を付けたまえ』
そういって通信は切れた。
「ふぅ。すっきりした」
「全く、無茶をする」
「そういうレイズちゃんカッコいい!」
「はいはい」
ロビンの言葉を簡単にいなすレイズ。
とにかく地上の様子を見ようと、レイズはレーダーを覗いたときだった。
「ん?何かが高速で接近してきている?」
大きさとしては、航空機よりも小さいくらいである。しかし、紅の旗艦のメインコンピュータが次のように答えをはじき出す。
それは、中国軍の空対空ミサイルであった。距離は残り5kmである。
「防御!」
レイズは思わずバリアを最大まで引き上げる。
電磁のような障壁が張られた直後、バリアに爆発が生じた。
ミサイルがバリアに衝突したのだろう。
レイズはレーダーの出力を上げる。すると、はるか遠くに中国空軍機がいることを発見した。
それは、特攻同然の速度で紅の旗艦に突っ込んできている。
「対艇機銃!」
レイズは装備されていた機銃によって、この空軍機を撃墜しようとする。
しかしまだ距離が遠く、弾幕は薄いままであった。
だが空軍機が近づくにつれ、弾幕は濃くなり、やがて空軍機は撃墜される。
紅の旗艦の様子を見ていた国連軍宇宙艦隊が通信を入れた。
『先ほどから機銃掃射を行っていたようだが、一体何があった?』
「こちらに向かってくる中国軍機を発見、これを撃墜した」
『むやみに攻撃をすることは許されない』
「しかしこうしなければ、こちらに被害が及んでいた」
この会話を聞いていた国連軍宇宙艦隊の中国艦が割って入る。
『おそらく、わが国の空軍機が余計なことをしたようだ。申し訳ない。本国に厳重注意を入れておく』
こうしてカシミール地方における国連軍の出番は終了した。
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