第61話 悪化
朝鮮戦争に介入することを決意したことを表明すると、早速八十野少将から連絡が入る。
『国連軍と共に、レッド・フリートも一緒に動くという不確定事項が外務省から入ってきた。本気でやるんだな?』
「はい。もちろんです。ここで人類が結束しなければ、流浪の民には勝てないと思いますから」
『……君の意気込みはよく分かった。幸運を』
そういって電話は切れる。
直後、国連軍から連絡が入った。
『国連軍宇宙艦隊は釜山上空2000mにて集合。作戦開始時刻は協定世界時1月10日12時より。それまでに集合すること』
このように書いてあった。
黒島はこのことを後藤に連絡する。
「そっか。戦争に介入するのね」
「うん。ここで人類同士争うのは間違っていると思うんだ」
「私は黒島の意見を尊重するよ」
こうして、レッド・フリートは朝鮮戦争に加わることになった。
しかし、翌日のニュースで、さらに状況は悪くなる。
『インド、パキスタンと中国両国と戦闘状態に入ったと報告』
『コーカサス地方で紛争状態』
『クリミア半島で大規模な軍事行動』
朝鮮戦争再開をきっかけに、各国の思惑が交差し、戦争や戦闘が勃発する。
そして、ニュースキャスターはこう締めくくる。
『皆さん、戦争が始まりました。第三次世界大戦です』
確定していることではないが、そう思うのも仕方ないだろう。
その後、ニュースキャスターは、日本政府の動きや在日米軍の動きなど、様々な事柄を報道していく。
しかし、黒島たち民間人の身の回りには何も起きず、ただ平凡な日常が過ぎ去っていくのみであった。
変わったことと言えば、街中で反戦を訴えるデモが繰り広げられているくらいだろう。もとよりこれは流浪の民がやってきてからの習慣だが。
そんな感じで普遍的な日常が過ぎ去っていく。
そして1月10日。
学校の授業も終わり、黒島は自宅でのんびりとしていた。
しかし、そんな時間も次第に過ぎ、目的の時間が差し迫ってくる。
黒島はいそいそと準備を整え、あとは紅の旗艦にワープするのみであった。
「しかし不思議なものですね」
「何がですか?」
レイズがふと言葉を洩らす。
それを黒島は聞き返した。
「流浪の民としていた私が、ふとしたことでそれを離れ、地球の人類と結託して人類の戦争に介入する。なんとも不思議な感覚ですよ」
「まぁ、仕方ないっちゃ仕方ないですよ。そういう運命だったってだけで」
「そうですけどね。っと、そろそろ時間ですね」
「後藤は準備できたのかな?」
「問題ないって言ってますよ」
「それじゃ、行きますか」
そういって黒島たちは紅の旗艦にワープする。
そして諸々の準備を済ませ、目的地へと向かう。
「確か、釜山の上空2000mって言ってましたけど……」
「詳しい座標はもらってきてます」
「それじゃ、そこに行きますか」
そういって、黒島はその座標に向けて前進する。
しばらくすると、前方に航行灯の光が見えた。
目的地に到着したのだ。
「こちらレッド・フリート。定刻通りに合流した」
『こちら国連軍宇宙艦隊旗艦エンタープライズ。今日は地上目標の制圧だ。過剰な攻撃は行わないように注意せよ』
「了解した。心に留めておく」
『では、作戦目標を説明する。今回は北朝鮮側に存在するミサイル攻撃発射地域、および国境付近の緩衝地域だ。詳しくは共通フォルダにアップロードしておいた。参照してほしい』
「共通フォルダ?そんなのありましたっけ?」
「ありますよ。この間の国連総会の時に不便だから通信網に入ってくれって言われたくらいですから」
「さいですか」
「その作戦要綱によると、この座標のところに攻撃を加えるらしいですね。ここには在韓米軍も参加するみたいですよ」
「へぇ」
「我々はせめて彼らの邪魔をしない程度に頑張りましょうか」
そういって国連軍宇宙艦隊は前進する。紅の旗艦はそれを追いかけるように移動を開始した。
1時間もしないうちに、目的地周辺に到着する。
まずはここから、朝鮮半島の軍事境界線付近に展開する韓国軍と北朝鮮軍に撤退するように呼びかける。それでうまくいかなかった場合、仕方ないが武力行使を行うしかない。
しかし呼びかけは必要ないようだ。
すでに在韓米軍が攻勢に入っており、軍事境界線から北朝鮮側に押し込んでいる。こうなってしまえば、あとは停戦するまで武力が支配する世界になる。
『すでにここは戦場と化している。これを止めるためには、我々が介入するほかない』
米国出身のエンタープライズに取ってみれば、西側諸国であり、米軍が支援している韓国側に肩入れしたいところではあるが、それを必死に抑えているのだろう。
早速国連軍が降下し、戦場に向かう。
しかし、そこは戦場。夜で見えづらいが煙がいくつも立ち上っており、場所によっては火の手が上がっている。
低空では米軍の戦闘機が飛行し、北朝鮮軍に爆撃を敢行していた。
「これが戦争ってやつですか。哀れですねぇ」
「そんなこと言っている場合ですか」
「それもそうですね」
『こちらエンタープライズ。これでは呼びかけは不可能だ。実力行使に向かう』
「程度は?」
『牽制程度だ』
「了解した」
「牽制程度って、どれくらいですかね?」
「出力絞った主砲でいいでしょう」
「じゃあそれで」
そんなことを話していると、国連軍宇宙艦隊はミサイルを発射し、戦場に向かって撃ち込んでいた。
紅の旗艦としては、これに習ってミサイル攻撃をすればいいのだろうが、黒島は砲撃をすることを選んだ。
出力を絞った主砲を1門、地面に向ける。
「主砲撃て」
主砲が発射される。それは飛翔し、地上に着弾した。
その瞬間、爆発が起きる。それはTNT火薬にして1t程度の爆発であろうか。
火球が発生し、小規模なきのこ雲が発生する。
その様子を見た国連軍宇宙艦隊からメッセージが飛んできた。
『やりすぎだ』
黒島たちは反省した。
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