第16話 パナマの戦い
季節もめぐり、10月に入る。
夏の暑さもしばらくはどこかに行き、影を潜めていた。
黒島の学校では衣替えが始まり、長袖を着ている生徒もいた。
そんな一日を過ごし、夜を迎えたときだ。
「やっぱり人類の前にどーんと現れたほうがいいんじゃないですか?」
「いや、そんなことをしたら人類側は驚くことだろう。そう簡単に行くような話ではない」
黒島のスマホを使って、レイズとトランスが話し合いをしていた。
内容は、人類とどのようにして邂逅するかである。
「でも、何をするにしても慣れは必要だと思うから、少しずつでも人類の生活圏に出ていくのが必要だと思うな」
そこに通話状態で入っている後藤。
最近はこのようにして、通話していることが多い。
黒島としては、こうして後藤とたまに会話できることに、少しの喜びを感じていた。
そんな時である。
トランスの表情が変わった。
「どうしましたトランスさん。何かありました?」
そういったレイズの表情も、すぐに変化する。
「レイズさんにトランスさん、どうしました?」
黒島がのんきな声で聞く。
「祐樹さん、大変なことが起きました……」
「な、なんですか、深刻そうな顔をして……」
「白の艦艇が攻め入ってきました」
「攻め入る……?」
「これまで白の旗艦は比較的静観してきていましたが、ここに来て本格的に侵攻を開始し始めたようですね……!」
「侵攻って、一体どこです?」
「……パナマです」
アメリカ東部時間午前8時18分。
パナマ運河擁するパナマ市上空には、200mを超える大型の白の艦艇群がムクドリのように集合し、覆いつくしていた。
パナマ市にいる住人や観光客は、各々が自身の安全を守るため一目散に逃げまどっていた。
最初はただ集合しているだけだったが、そのうちの一隻が主砲を地面に向け、射撃する。
すると、着弾した箇所で爆発が発生し、周辺に被害が及ぶ。
それを皮切りに、白の艦艇群はバラバラに移動を開始し、縦横無尽に空を駆け巡る。
そしてビルや民家、道路など、人類の技術の結晶を、余すところなく破壊しつくしていった。
「まずいです、このままではパナマが破壊的な被害を被ります!」
「すぐに行きましょう!」
「わ、私も!」
「俺は白の旗艦の動向について調査しよう。戦闘が終わったあたりで合流だ」
「了解です」
そういって、黒島と後藤は紅の旗艦にワープする。
「まずはパナマまで移動だ。座標検索」
「パナマとの相対座標123.778、73.41、97.382。距離0.2光秒」
「目標座標入力確認。ナビゲート起動」
「ナビゲート起動確認、周辺に敵艦艇なし」
「亜空間から直接パナマ上空30kmにワープします」
「空間転移回廊展開、問題なし」
「ワープ!」
紅の旗艦は、パナマ上空に直接ワープする。
「目標視認、1~3等戦艦100隻」
モニターに白の艦艇群が表示される。
「戦艦?あれが?」
「そうです。いままで相手にしていたのは駆逐艦、これは戦艦です」
「まぁそれは置いといて。レイズさん、100隻もの艦を相手に大丈夫ですか?」
「性能的には問題はありません。もし祐樹さんが望むなら、紅の艦艇を呼び出しますが」
「いえ、この艦の性能を信じます」
「分かりました。では行きましょう」
そういって、黒島は紅の旗艦を降下させる。
その頃、パナマ市は壊滅的な被害を被っていた。
あちこちで巻きあがる火の手や煙、崩れ去るビルや歴史的な建物。
まさに阿鼻叫喚の極みといった所だろう。
そんな中を人々は逃げていた。
その時だった。
上空から白い艦艇とは違った艦が降りてくるのを目にするだろう。
そして、その紅い艦は白い艦艇群を攻撃し始めた。
主砲の一撃で、一隻の白の艦艇が落ちる。
「まず一隻!」
次に近くにいた白の艦艇数隻を主砲によって撃ち落とす。
そのまま前進を続け、手あたり次第に白の艦艇群を撃ち落としていく。
しかし単純な攻撃だったのか、あっという間に白の艦艇群に囲まれてしまう。
だが、黒島は焦っていなかった。
「ミサイル発射!」
VLSから発射される100発以上のミサイルが、白の艦艇群に向かって発射される。
ミサイルによる飽和攻撃によって、白の艦艇は十何隻は落ちた。
しかし、こうしてチマチマやって落としていくのは時間がかかる。
そのため、黒島はレイズにある提案をする。
「レイズさん!」
実際は、頭に巻きつけたバンドを通じて、脳波によって連絡を取り合う。
レイズはすぐさま了承した。
黒島は早速行動に移す。
まず、紅の旗艦は動きを止めた。
白の艦艇群は、チャンスと言わんばかりに紅の旗艦に対して突撃を敢行する。
しかし、それが命取りとなった。
「エネルギーフルチャージ!」
「主砲一斉射!」
全方向に対して主砲が斉射される。
紅の旗艦に対して突撃を敢行していた白の艦艇群は、自然と密集状態になっていた。
そのため、紅の旗艦の攻撃によって、いとも簡単に落とされる。
こうして、100隻もいた白の艦艇群は紅の旗艦の手によって全て落とされたのであった。
「周囲に残存艦艇なし。ミッションコンプリートです」
「はぁ、疲れた」
「お疲れ様、黒島君」
「本当だよ。……それで、レイズさん」
「はいなんでしょう?」
「あの残骸どうしましょう?」
それは、市街地に落ちた、白の艦艇の残骸である。
もともと白の艦艇群によって市街地は破壊されつくしていたものの、さらに状況が悪化していた。
「うーん……、とりあえず無視ですかね」
「無視していいんですか……」
「地球側も新しい技術を取り入れるいい機会だと思いますし、いいんじゃないですか?」
「んな適当な……」
「それに、ただの高校生がこれの責任取れますか?」
「それは……無理ですけど……」
「ならさっさと逃げましょう。もし祐樹さんのことがばれても、私がなんとかしますから」
そういって、レイズが胸を張る。
「それに、戦闘の結果によって市街地がこうなってしまったのなら仕方のないことですよ。コラテラル・ダメージというやつに過ぎません」
「コラテラル・ダメージってそういう意味で使うものではないと思うんですけど」
しかしレイズの言い分も合っているだろう。
仕方なく、黒島はその場を離れていった。
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