第122話 戦闘の後
6月5日。アメリカ、ニューヨーク。国連本部の一室。
いつものように軍事参謀委員会が開催されていた。
「最近のレッド・フリートの活動はどうか」
「先日、太陽―地球系のラグランジュ点、L1に潜伏していた流浪の民と交戦したようだ」
「いつものように、詳細は上がっている」
「推定潜伏艦艇数は1億以上か。なかなかの数じゃないか?」
「しかもそれを亜空間ごと消し飛ばしたのだろう?大したものじゃないか」
「だが問題点はそこではない」
「レッド・フリートが言う白の艦艇、それを束ねる白の旗艦というものが現れたそうだ」
「名前はフリット・ジョーシン。録音された声だけを聞くと、そこらへんにいる一般人のようにしか聞こえないな」
「だが、その性能は折り紙付きだ。油断してはならない」
「そして数千、いや数万もの白の艦艇を一度に相手したわけか」
「それによって、レッド・フリートは各自メンテナンスや修理に追われている」
「それだけの戦力差が存在していたのだ。修理も仕方あるまい」
「それに、いざとなれば惑星バリア装置群がある」
「それさえあれば、流浪の民の脅威も半減することだろう」
「ここまで来れば、我々の敵ではないな」
「諸君、何か忘れているようだな。流浪の民と主体で戦っているのは、あくまでもレッド・フリートの連中だ。国連軍ではない」
「確かにそうかもしれないな。攻撃方法は我々と比べ物にならないほど高度に発展し、艦艇数も流浪の民の方が圧倒的に多い。本来なら対等に戦えるものではない」
「それもレッド・フリートの協力の賜物ってことか」
「そのレッド・フリートも、いつまでも協力してくれるわけではないだろう?」
「そうだな。だからこそ、今のうちに協力を要請するのだ」
「具体的にはどのようにしてだね?」
「現在、日本宇宙軍は艦艇の建造を黒の艦艇で行っているのは聞いただろう?」
「あぁ。そのような建造方法をしていると聞いたな」
「我々国連軍も、その建造方法に倣って黒の艦艇による建造を行うのはどうだろうか?」
「なるほど。それで戦力の拡充を狙うと言うことだな」
「しかし、今からでも間に合うだろうか?」
「それは今後の設計や協議の結果によるだろうな」
「それではそのようにしていこう」
こうして軍事参謀委員会は提言をまとめ、国連安保理に提出することになった。
一方、新ISSとランデブーしている黒の旗艦。
その中では、紅の旗艦、翠の旗艦、蒼の旗艦が定期検査を兼ねてメンテナンスを行っていた。
「紅の旗艦の様子はどうですか?」
「主砲の損耗が少し大きいな。今回で全部交換したほうがいいかもしれない」
「時間かかります?」
「大丈夫だ。明日には綺麗にしてやる」
「俺のはどうだ?」
「久々に機関を酷使したようだからな。少々メンテナンスをする必要がある」
「解体するまでもないか?」
「メンテナンス次第だな」
「私の艦は?」
「先の戦闘であれだけの攻撃を食らったんだ。メンテナンスは厳重に行う必要がある」
「時間かかりそう?」
「あぁ。軽く見積もっても42時間はかかりそうだ」
「分かった。それまでレイズのところにいる」
「なんで私のところに来るんですか!?」
そういってそれぞれの生体艦長はわちゃわちゃしている。
それを黒島と後藤は紅の旗艦のコックピットからのんびりと見ていた。
「そういえば、俺たちがここにいる意味はあるんですか?」
「特にない。まぁ、この様子でもゆっくり見ていってくれ」
そういってトランスは整備を続ける。
無重力空間の中で、整備艇があちこちを行ったり来たりしていた。
「紅の旗艦の主砲換装を最優先にして、翠の旗艦のメンテナンスは第34ゲージでやってくれ。蒼の旗艦はこの後第2ゲージでバリア装置を取り出す」
トランスの指示で、黒の旗艦内部が大きく動く。
「あぁ、そうだ。橙の旗艦があったんだっけな」
トランスはつぶやくように、手元のホログラムをいじる。
すると、紅の旗艦の前を橙の旗艦が通り過ぎていく。
「橙の旗艦をどうするんですか?」
黒島はふと興味本位でトランスに聞く。
「戦闘系のアップデートをするんだ。戦闘データの蓄積は橙の艦艇群だけでやっているわけではない。主に紅の旗艦が中心に戦闘データを提供してもらい、それを橙の旗艦にある無個人データに学習させている」
「それ、偏りありません?」
「もちろんだ。だから翠の旗艦や蒼の旗艦、その隷下の艦艇群の戦闘データを統合して、係数で調整している。それによって橙の旗艦が橙の艦艇群を使役することも可能になるということだ」
「……へぇ」
「露骨に分からないような声を出すな」
「だって聞いても分からないんですもん」
「そのうち分かるようになるさ」
そういってトランスは作業に戻る。
そのうち作業に入るからという理由で、黒島と後藤は家に帰される。
「結局なんで整備の様子見せたんだろうね?」
「社会見学じゃないかな?」
そんなことを言う二人であった。
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