第103話 推察
電話が終わり、黒島たちは授業に戻ることになった。
そして、電話の事に関して話をするために、黒島と後藤は黒島の家に集合する。
「フーの言っていた話、つまりはどういうことなんですか?」
黒島は単刀直入にレイズに聞く。
「使命はなくなり、命令を果たす。文字通りの言葉です」
「いまいち要領を得ませんが……」
「旗艦級の隷下に存在する艦艇群は、使命を旗艦から賜っている。それは旗艦ごとに使命が異なっており、そしてその使命を全力で果たそうとする」
トランスが解説に入る。
「ちなみに俺は『動くときは俊敏に動け』って使命にしてるぜ」
ロビンが割って入ってくる。
「となると、使命は行動する時に、参考にするべき教訓みたいな感じですかね」
「話をややこしくしないでください」
レイズに突っ込まれる。
「しかしそうなると、白の旗艦がどのような命令を下したのかが問題ですね」
「その辺どうなんだ?ジーナ」
ジーナに話を振る。
「私は白の旗艦に忠実であったけど、白の旗艦の命令を聞いたことがない」
「……あれ?ジーナちゃん、白の旗艦に忠実なのに、なんでレッド・フリートの一員やってるの?」
後藤が核心的なことを呟く。
「それはなんというか、レイズが私に触れてきたとき、呪縛のようなものが解き放たれたような感じがして」
「俺は内部情報が書き変わっていく感じがしたな」
「げ、マジで?俺なんか変なスライムみたいな奴に浸食されていく感じだったぜ」
それぞれが感想を述べる。
「とにかく、今は白の旗艦がどのような命令にしているかが問題です」
「けど、命令なんてそれこそ秒単位で変わることもあるから推測なんて立てようがないぜ?」
「いや、一つだけ分かっていることがある」
そうトランスが切り出す。
「白の旗艦は使命をなくしたと言っている。白の旗艦の使命は絶対服従。つまり、白の艦艇群は白の旗艦へ服従をしなくてもいいようになっている。これは命令がなくとも自由に動き回れるようになるということだ」
「……?」
「分かってないようだな」
そういってトランスはたとえ話を出してくる。
「例えばだ。犬がいて、飼い主がいるとする。飼い主は犬を散歩させるためにリードをつけることだろう。このリードが使命に当たる。そして白の旗艦は、そのリードを解き放ったのだ。するとどうなる?」
「えっと……、犬がどこかに行っちゃう?」
後藤が恐る恐る答える。
「正解だ。犬によっては自由奔放で、飼い主のいうことを聞かないかもしれない。反対に飼い主のことをよく聞く犬もいる。その関係がまさに旗艦と艦艇の間に起こっているのだ」
「へー。そうなると、白の艦艇群はもっと離反していてもいいってことになりますよね?」
「そうだ。それだけ白の艦艇は白の旗艦に服従しているということだろう。あるいは、離反などすると背後から撃たれるとかな」
「おっかないや……」
「どっちにしても、今は白の旗艦の命令を推察するのが先」
そうジーナにとがめられる。
「命令……。命令ねぇ……」
「しかし白の旗艦、ここで使命をなくしたとなると、それはもはや解放みたいな所があるんじゃねぇか?」
そうロビンが言う。
「確かに、白の旗艦はこれまでの方針を転換してきたとも言えます」
レイズが深く考える。
「これまでの白の旗艦は、知的生命体を見つければそれをなぶり殺しにするように攻撃を加えていました。その方針は、地球が標的になっても変わっていません。何か大きな問題が発生したとしか思えないんですよね」
「大きな問題が発生したと言えば、紅の旗艦が流浪の民から離れたのが一番大きい」
その瞬間、空気が変わったような感覚を黒島は覚えた。
「そういえば、俺たちはレイズに接触してから流浪の民を離反するようになった……。それじゃあ肝心のレイズは、どうやって流浪の民を離反したんだ?」
ロビンが確認するように言う。
「……それは私も知りたい所です」
「確か、レイズさんと初めて会ったとき、自分の記憶がないって話してましたね」
「そうです。私がいつ、どこで生まれたのかも曖昧なんです」
「それなら、知っている人間に聞くのが一番早い」
そうトランスが言う。
「でもいるのかな?知ってる人なんて……」
「いや、いる」
後藤の疑問に、ジーナが答える。
「私は旗艦級の中でも最後のほうに誕生した。でも歴史は知っている」
「じゃあジーナさんがレイズさんのことを知っているんですか?」
「知らない。私が生まれたときはすでにレイズはいたから」
「俺も生まれたときからレイズがいたからな。分からないぜ」
そうジーナとロビンは言う。
「だけど、この場に、レイズより先に生まれた人がいる」
「それは誰ですか?」
「トランスです」
ジーナの言葉に、黒島と後藤はトランスを見る。
トランスは腕を組んでジッとしていた。
「トランスさん、何か知っているんですか?」
「……知っている。だが、それは今言うべきことではない」
「どういうことですか?」
「トランスさん。私のことについて何か知っているのであれば、教えてください」
レイズは懇願するように、トランスに言う。
「いずれ分かる。あの言葉通りにな」
「あの言葉って?」
「『白の旗艦を撃破せよ』って言葉だ」
「それは……」
「とにかく今は、白の旗艦を倒すことだけを考えろ」
結局そのあとはトランスは何も話さなかった。
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