第100話 連絡
この日、黒島のスマホにある人物から連絡が入る。
電話の相手は八十野少将だ。
『突然の電話、申し訳ない』
「いえ、大丈夫です。何かあったんですか?」
『いや、急な用事ではないが、重大な話がある。先日、拿捕した白の艦艇、あっただろう?』
「あぁ、ありましたね。そんなの」
『それを種子島基地で解体作業のついでに内部調査をしていた所、あるものを発見したんだ』
「あるものですか?」
『そう、艦の中心部にまだ息のある人間のようなものが見つかったんだよ』
「生きてる人間、ですか?」
『いや、生きているという表現は適切ではないかもしれないが、とにかくそれは生きているように見えたんだ』
「はぁ……。なんだか雲をつかむような話ですね」
『まぁそれはそれとして、その人型生命体を被検体として回収した。巨大なガラス管に入っている容器ごとね』
「おそらくそれは、その艦艇の生体艦長でしょう」
『その声はレイズ・ローフォンか。となると、あれは君たち流浪の民の人間、ということになるのか?』
「えぇ。そうなります」
『被検体をガラス管から引き上げても問題はないか?』
「地球での環境は流浪の民の母星と似ていますから、問題はないと思いますよ。ですが空気中にいる細菌やウイルスは違うかもしれないので、無菌室での開封作業をお勧めします」
『そうか、よく言っておくよ』
「それと、もし意思疎通が可能である場合は、私を呼んでください。話したいことがあります」
『分かった。とりあえず、細心の注意を払って、彼の開封をさせるように伝えておくよ。話は以上だ』
そういって八十野少将の電話は切れる。
「生体艦長の発見ですか……。なんだか変な気分ですね」
「どういうことですか?」
「だって、流浪の民っていわゆる宇宙人なんですよね。でも姿かたちは人類とそっくり。なんか親近感が湧いちゃいそうですね」
「そう、ですね」
「……?何かありました?」
「なんでもないです。でもこれで話が聞けます」
「話っていうのは?」
「以前から気になっていた白の艦艇の真意についてです」
「あぁ、なんか会話とかしてましたよね。それに違和感があったって言ってましたっけ?」
「そうです。本来の白の旗艦なら、すべての命令を円滑に行うため、余計な思考の類いは排除しているはずなんです」
「となると、本来会話していること自体がおかしい……?」
「何か裏があるはずなんです。その裏を知ることが出来れば、我々に勝機があるはずなんです」
そういってレイズは考える。
しかしここで考えても答えは出ず、ひとまずは被検体の結果が出るのを待つことにした。
そんな中、トランスがやってくる。
「そんなに真剣に悩んでどうした?」
「まぁ、色々あるんです」
「そうか。それじゃあこっちの話でも聞いてもらえるか?」
「何でしょう」
「前に話したと思う、都市バリア展開構想についてなんだが」
「あぁ、そんな話がありましたね」
「まずはモデルシティとして、東京をバリアで覆う計画を立てたんだ」
「いきなりぶっこんできましたね」
「そのことを政府を話したんだが、残念な結果に落ち着いた」
「何かあったんです?」
「いや、純粋に不便な面が多すぎるという話だ。仮に半径5kmのバリアを展開したとすると、その領域は外との往来が困難になる。また航空機に対する影響も大きなものになると推定された」
「あぁ……。意外と空路多いですもんね、東京って」
「その他該当する住人に対する説明や、バリア展開に関する是非を問う住民投票など考えると、それだけのコストに見合うものではないと判断された」
「他の都市ではどうなんです?」
「私が国連の場で提唱したんですが、どの国も難色を示していました。多分導入は難しいと思いますよ」
「そうなりますか……」
「こうなったら地球丸ごとバリアで覆う、惑星バリア展開構想を打ち出すしかないのか……」
珍しくトランスが狼狽えている。
それだけ難しい問題ということなのかもしれない。
「まぁ、これからも都市攻撃があるというわけではないでしょうし、その辺はいいんじゃないですか?」
「甘い。これだから宇宙を知らない地球人類は甘いのだ」
トランスによる唐突の罵倒。
「大体だな、生活と軍事というものは切っても切れない縁で結ばれているのだぞ。それを『住民に軍事的な行動を見せるのは憲法に反する』とか何とか言い逃れよって……。空からの攻撃はいつの世も脆弱なのだぞ……」
トランスの愚痴。
言いたいことは分からないでもないだろう。
「まぁ、そんな訳だから、事実上この都市バリア展開構想は頓挫したわけだな」
「それはトランスさんがごり押ししてただけじゃないですか」
レイズからのツッコミ。
「まぁ、それはそれとして。結局の所は我々の努力次第というところではある」
「うーん……。そうなると、都市襲撃が始まったら、いつも通り蒼の艦艇群で地表を防衛し、上空から紅の旗艦で攻撃っていうのが一番手っ取り早そうではありますね」
「そうですね」
そんな今後の方針を考えつつ、時間は過ぎていくのであった。
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