第六章 賢王を騙せ! 決戦のオークション - 2
難攻不落の大監獄アンセーから、賢王を誘き出すことに成功した健太郎たち。
しかし肝心のエルエルフのリマンシールは未だ届かず!
このままでは「どう見たってバレバレ!」な偽物エルフの変装でステージへ上がらなくてはいけない!
ヤバいぞ健太郎!
激怒した賢王に無礼討ちされてしまうのか!?
――オークショニアによる呼び込みアナウンスが為されたのに、何も起こらない。
「エルフは?」「極上エルフはどうした?」「トラブルか?」
今か今かと「商品」の開陳を待っていた客席も、次第次第にざわつき始める。
『少々お待ち下さい』
たまらずオークショニアが所定の席を離れ、舞台袖へと向かうが……
オーッ!
駆けつけたオークショニアを制し、「商品」が舞台へ現れた!
エルフである。
正真正銘、何処から見ても完璧なエルフが、ランウェイへと躍り出た!
ホーッ…………
会場は溜息に包まれる。
娼婦としての価値を測る下卑た視線の競り市から、芸術品の価値を鑑定するオークションへ。
会場の雰囲気は一変した。
それほどに『彼女』の価値は一目瞭然だった。
いや、
僕なんだけどさ……その彼女本人が。
☆ ☆
いよいよ以って僕が晒し者にされる数秒前――救世主はギリギリで現れた。
「ウゲッ!!!!」
舞台袖の薄暗闇、運営スタッフを瞬時に始末したケモミミアサシン、
「キィロ!」
すぐさま僕のスカートをめくると……
「失敬、ケンタロウ様!」
尾骨の辺りに貼られていたシールを剥がし、別の……金色に輝くリマンシールを貼りつけた。
すると!
なんということでしょう~
シンデレラばりに、貧相な小娘からゴージャスなエルフにメタモルフォーゼ!
その変化は、ドンキホーテで売っている宴会芸用変装セットと、熟練職人の仕立てたオートクチュール・ハンドメイドとの落差……誰が見ても違いは歴然! 月とスッポンである!
(これなら!)
エルフ狂いの王の目だって誤魔化せる!
「百万!」「二百万!」「いや、五百万出す!」
オークショニアの仕切りを待たずに、買い手側は瞬時にヒートアップ!
あっという間に落札額が吊り上がってく!
「あんな上玉、控室に居たか?」と訝しげな表情を浮かべて、オークショニアが席へ戻ると……いよいよセリは本番、
「六百万だ!」
「六百五十出すぞ!」
「七百万! ……いや七百五十万だ!」
みるみる暴騰する価格に、競り合うプレーヤーも絞られていく。
「ならばこちらは九百万!」
白熱する鍔迫り合いの果てに残ったのは、恰幅のいい大商人と魔法フォン片手の代理人の二者。
両者とも譲るつもりはないようだが……こめかみ辺りがひくついているのも見て取れる。
「九百五十五万!」「七十……いや八十万だ!」
大台を前にして、刻み始める両者。
いよいよ決着近し? ――――そんな気配がオークション会場を支配し始めたが、
「一千万!」
おお~っ……
大台突破の声はVIP席から飛び込んできた。宰相の涼やかな声で。
「何ィィィィ!? ……ででででは一千二百万で!」
青息吐息の巨漢商人が刻んでも、
「二千万!」
これが覇者の競りよ、とでも言わんばかりのベットを放つ。
「二千……三百万…………!」
顔面蒼白の番頭も押し退けて、巨漢の商人、最後の抵抗を示すものの……
「五千万!」
宰相は容赦がなかった。戦略もへったくれもない、ライバルを札束でねじ伏せる!
「では五千万! 五千万でよろしいですか?」
もったいぶったオークショニアが確認すると……会場に「観念しました」の空気が広がった。
タンタン!
「――ではVIP席のお客様、五千万で落札でございます!」
「「「「オーッ!」」」」
基本的に人身売買マーケットでは、競りに出されるのは相当の「上玉」だけだ。
一山いくらの奴隷ならば、バックヤードで庭先取引される。
なので、オークションは基本的に「ドキッ! 男だらけの金持ちサロン!」に等しい。
建前上は紳士の社交場。
浅ましい釣り上げ合戦など起こらず「ほどほどに」収まるのが常だ。
「金持ち喧嘩せず」で譲り合う、暗黙の呼吸がある。
通常のセリであれば。
なのに、ここまでヒートアップしてしまったのは、やはり「商品」が光り輝くほど美しいエルフだったからだろう。
というか、当事者である僕が一番ビックリよ。
まさか自分にこんな、超良血競走馬みたいな値段が付けられるなんて。
恐るべし【エルエルフのリマンシール】!
帝都でも年に数枚しか出回らない、極レアリマンシールの威力よ!
☆ ☆
興奮冷めやらぬセリ会場を後にして、個室へと案内された僕。
どう見ても高額落札商品用のVIPルームです、ありがとうございました。
さっきの鮨詰め控室とは雲泥の差だ。
――――そこへ、
「ここか!」
「ヒッ!」
もう辛抱たまらん! と入室してきたのは――今や僕の【オーナー】賢王フラムドパシオン!
いや、考えてみれば、本当の僕も、賢王に召喚された時から、彼がオーナーだったようなものだ。
異世界召喚システムという弱みを握られ、いいように使われてきたんだ。僕は王に。
「王の承諾を得なければ元の世界へ帰れない」んじゃ、どんな労働条件を押し付けられても被雇用者は飲むしかない。異世界召喚者には労働組合なんて存在しないのだ。
僕の立場が圧倒的に弱いのは、そのせいだ。
「そち、名は? 名は何というか? 今まで誰に囲われておった? 貴族か? 商人か?」
鼻息荒く、僕をソファーへ組み伏せるフラムドパシオン帝!
貴様を手篭めにしてやる、今ここで!
とでも言わんばかりの勢い!
「せ、せめてお風呂に……陛下」
「ああ、必要ない必要ない」
ええええ!?!?
それは困るそれは!!!!
だって僕のミッションは賢王のリマンシールを探ることだ!
湯女の真似事でも何でもいいから、賢王の身体の何処かに貼られたリマンシール=魔術回路を確認して、能力を確かめなきゃいけないのに!
着衣のまま襲われるとか『プランB』の企画書には何も記載られてないんですけど!
見誤ったか、キコンデネル?
エルフきちがいの王様の性欲を読み違えたか?
……いや、部下を責めるのは酷だ。
賢者の実孫という生粋のサラブレッドでも、まだ彼女はJSかJCくらいの年頃、
好色一代男の見境のなさなんて知らなくても仕方がない。
汚れなき十代だもの。ガラスの十代だもの。
「わはははははは! よいではないか!よいではないか!」
だがしかし!
自分と同じ顔した男に襲われて純潔を散らす、とか笑い事では済まないよ!
一生消えない心の傷を負う体験じゃないか!
「殺生ですから、せめて湯浴みを! 湯浴みをなさって下さい 高貴なる御方!」
「要らぬ」
「は?」
「朕は決して汚れぬ……フラムドパシオンは穢れなき王者であるがゆえに」
と王、護身用の短剣を抜いて――自分の体に突き立てた!




