第六章 賢王を騙せ! 決戦のオークション - 3
賢者キコンデネルの策の通り、僕は賢王に落札された。
これで目論見通り、賢王のリマンシールの謎に迫れる! と喜んだのも束の間、
新しいエルフに大興奮の賢王は、着衣のまま僕に襲いかかってくる始末!
服を!
服を脱がないと、シールを確認できないじゃないか!
困り果てる健太郎に、
賢王は「服なんか脱がなくても大丈夫、何故なら朕は清浄であるから」とか、意味不明な言い訳を放ち、
しかも自分の胸を自らの短剣で刺してしまった!
え?
なにやってんの、この人?
困惑する健太郎が見たものとは…………?
あまりに凄惨な自傷行為!
気でも触れたか????
と目を疑ったが……
パァーン!
風船の弾け飛ぶ音がVIPルームに響き渡った。
赤い体液は一滴も吹き出すことなく!
あんなに勢いよく胸を突いたにも関わらず、短剣は賢王の皮膚に達していない!
「朕は決して穢れと触れぬ、美しき王者よ」
賢王は僕の手を取り、自分の身体を触らせた。
ぬるり。
皮膚とは違う――――異質のスベスベ感。
僕の指先と王の胸、その間を隔てる【 薄く透明な膜 】がある!
これか!
これが賢王のリマンシールの正体か!
ゴムで全身を包んでいるのか!
短剣を無効化したということは……おそらくこれは「破れることを前提とした設計思想」だ。
何重にも重ねたゴムを、クラッシャブルな防護壁として運用する。
仮にそれを無限生成できるなら……短剣同様、爆散する瓦礫をも往なせるかもしれない……
ものすごいスピードの再生力を持っているのなら!
(そんなカラクリだったのかよ!)
重ねたゴムで毒も爆散も防いでいたのか!
(しかし!)
王のリマンシールは奇跡のマルチアビリティではなかった!
リマンシールの原則通りの、単機能の魔術回路だった!
「清浄なる朕は性感染症すら無縁よ。安堵して身を委ねるがいい、美しきエルフよ」
「高貴なる御方」
王様の機嫌を損ねぬよう、やんわりと手を押し留め、
「主上様のお慈悲、私のような下賤の輩にまで、勿体なき事に御座います」
「礼など要らぬ、それよりも朕の愛を受け取……」
「高貴なる御方」
「なんじゃ?」
「その前に一つだけ……エルフが純潔を破る際の呪いを、しとうございます」
「…………呪い?」
そう王に告げた僕は、懐に忍ばせていた小さな笛を取り出し、
ピーッ!
思い切りそれを吹いた。肺活量の限り。
「妙な儀式じゃの……」
そう思われても仕方ないね。
僕の笛は「ぷへー」という掠れた音しか奏でなかったから。
でも。
それいいんだ!
ドドドドドドドドド……
すると直後……不気味な振動が建物を揺らす。
「地震か?」
振動といえば災厄の龍が、飛んだり跳ねたりしたものが伝わってきていた。
しかし違う。
それとは明らかに違うものだと、僕も賢王も直感的に悟った。
『怪獣プロレス』の響きは散発的に伝わってくるが……これは継続して響く……しかも!
どんどんバイブスが大きくなっているじゃないか!
ドドドドドドドドドドドドドドド……
むしろこれは! ――――巨龍の躍動ではなく、何か別の、獣の足音ではないのか?
ドスン!
ドスンバキン! メリメリメリメリーーーー!!!!
「うわぁ!!!!」
有無を言わさず倒れ込んでくる壁!
まるでそれは、コンビニへ突っ込んでくるダンプカーの勢いで!
「象が逃げたぞ~! 龍に檻を壊されて、象が逃げたぞ~!」
オークションハウスの外で、女の子が叫んでいた。
これは賢者の「状況説明」だ。
【龍災】に際して、怯えた象が【たまたま】軛を離れ、【偶然にも】オークションハウスへ突っ込んだ、という「補足説明」なのだ。
もちろん、それは賢王と宰相に向けての恣意的なインフォメーションとして。
「危ないぞ~! 象に近づくな~!」
「あ~れ~」
混乱して正気を失った象は、長い鼻で僕をピックアップ!
そのままオークションハウスの外へ逃亡した!
ま、これも仕込みなんだけど。
打ち合わせ通りだけど。
僕の笛は、いわば「象笛」。
人の耳にはほとんど聴こえない、可聴域外の音を鳴らす笛だったんだ!
「よくやった壱号!」
ぱおぉーん!
雪のユングフラウ峠越えという艱難辛苦を共にした僕と壱号。今や、動物会話のリマンシールを貼らなくたって、ツーカーの仲だ!
ンゴゴゴゴゴゴゴ! ぱぉぉぉぉぉぉぉぉ~ん!
ドレスのエルフ女を抱えて、帝都の街中を暴走する象!
逃げ惑う人々で大混乱だ!
「――奪われた女を保護せよ!」
配下の北面の騎士へ、血走った眼の賢王が厳命を下す!
「何が遭っても逃すな! 傷つけるな! 朕のエルフなるぞ!」
自身も馬を駆り、逃げた象を追いかけた!
ナポレオンのアルプス越え肖像画と見紛う勢いで。




