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第四章 デスマーチからはじまる龍退治狂想曲 - 1

まさかまさかの、王様からの「龍退治の許可」。

そんな無謀な企ては、絶対に却下されると思ったのに……


斯くして、僕ら輿水健太郎探検隊は、「とりあえず、行くだけ行った」というアリバイ作りのために、軽く龍の巣を覗いてこよう、そうすれば一応「龍退治のポラールシュテルン」という評判だけはゲット出来るじゃん?


……ぐらいのつもりで、出発の準備をしていたのに……

「なっ! なんじゃこりゃぁぁあああ!!!!」


 ギヨーム公のプライベートパレードから何日も経ってないのに……その日も朱雀大路(メインストリート)は沸き立っていた。

 壮麗な山車行列は見当たらないものの、集う人並みは勝るとも劣らない。

 笛や太鼓を持ち寄った帝都民が民謡を奏で、老若男女が乱舞する。


 ま、そこまではいいとしよう。


 何の祭りかも知らないが、祭り大好き帝都民、踊る阿呆に見る阿呆だ。


 問題は!

 その歌が!



 むーかーし アシュラのハーラーは~

 絶滅危惧種のマンモスで~

 難攻不落の 処女峠~

 空を飛ぶように越えてった~

 お供、一人を友にして~


 更に僕らのハーラーは~

 鉄の勇気で竜退治~

 誰もが恐れる災龍を~

 一刀両断 快刀乱麻~

 命の危険も顧みず~



「は????」

 なんでなんで? 何の冗談だ?

 数百人規模のパレードが、僕の歌???? を唄いながらダンシンインザストリート????



 沿道で唖然としながら、踊る民衆を眺めていたら……


 いつの間にか、僕らの隣に停められた馬車から、

「爵よ――なかなかの出来じゃろ?」

 と、聞き覚えのある声が僕を伺ってくる!


「けっ! 賢お……」

 ダメダメ! ダメですケンタロウ様! ……とでも言わんばかりに僕の口を塞いでくるキィロ。


 そうだった。

 仮にも「国王様がお忍びで城下を視察なさっている」なんて知れたら、大混乱だ。

 現代のアイドルなどとは比べものにならないほどの大騒ぎになってしまう!


 賢王様を乗せた輿こしは、外から中を覗けぬ貴人仕様。

 差し詰め、スモークでシールされた黒塗りの高級車(※異世界仕様)とでもいうべきか?

 厳重に御簾みすで仕切られた、貴族専用のプライベート馬車だ。

 鉄のやじりですら貫通力を削がれる、防御に優れた輿こしだった。


「このパレードって……まさか(※恐れ多い貴人の名前・自主規制)様の差し金ですか?」

 輿の通気孔から、そっと中の貴人(賢王)へ尋ねれば、


「爵よ、本当に面白いのはこれからじゃ!」

 御簾みす越しに不穏な言葉を返しなさる、この王様と来たら!



 しかし王様の言葉は、単なる戯れには終わらず――むしろ預言者の言葉として、僕らの目前で展開されることになった。


 次第に楽隊の演奏は止み、トランス状態で踊り狂っていた人々も鎮まると……

「えっ?」

 パレードの列も、沿道の見物客も、同じ方向へ意識を盗られる。

 視線が揃った民衆たちは息を呑んで「次の出来事」を待つ。


「いったい何が起ころうとしてるんだ?」


「王のお出ましだ――頭が高い」

 状況が読めずに呆ける僕を、輿の中の貴人(賢王)たしなめる。


 この場合――

 輿の中の王(※本物)が言う「王」とは、自分のことを意味しない。


 現在、この国(聖ミラビリス)には王が二人いる。


 【プライベートの王】と【パブリックの王】だ。


 国政はプライベートの王が担うが、公の場に姿を見せるのはパブリックの王。

 ――つまり影武者だ。


 その影武者役を務めるために、異世界から召喚されたのが、

 僕(※影武者参号)と、ギネス(※影武者弐号)と、トカマク(※影武者壱号)。

 同じく「コシミズケンタロウ」の名を持つ、平行世界の僕と僕と僕。


 現在はトカマクが「パブリックの王」を担い、数カ月後にギネス、更に数カ月後には僕が「王の影武者」を務めることになっている。

 そのお役目と引き換えに、元の世界への帰還を許されるという、賢王との約束だから。


 つまり、王(※本物)の言う「 王のお出まし 」とは――


 うぉぉぉぉぉぉっ!


 ひときわ豪華絢爛な山車が朱雀大路に姿を表した。

 いかめしい近衛兵たちが周囲を囲み、並々ならぬ警備体制の山車が。

 大貴族・ギヨーム大公ですら彼を畏れ、その山車を越えるサイズの大型車は作らない、と配慮されるほどの存在。

 ――そこで担がれているのは誰か?


「トカマク!」


 僕と同じ顔の、

 本物の賢王とも同じ顔の、

 元の世界では核融合技術者を務めるインテリの【僕】が、華麗な山車に乗って現れた。

 【パブリックの王(影武者)】として。


 王の行幸ぎょうこうに沸き立つ、朱雀大路すざくおうじの民衆数千人、

 あれが王と同じ顔の異邦人だとは、夢にも思うまい。


 そしてトカマク(ニセ王)を乗せた山車は、僕らの目前で歩みを止め、

「龍を倒さんとする者! 剛の者! らば、朕が前に出でよ!」

 とか群衆へ向かってびかけるんですよ。


「では参りましょうか」

 段取り通りです! とでも言わんばかりの手際で宰相さん、

「えっ? えっ?」

 僕の腕をシッカリとホールドして超豪華山車へ誘導する!

 聞いてない! 聞いてないよ、何なのコレ???? ちょっと宰相さん!?


「爵、王に恥をかかせるつもりですか?」

「へ?」

「であれば、不良貴族ポイントもマシマシになりますが?」

 アッー! ダメダメそれはダメ! はりつけも切腹も勘弁!


 泣く子と宰相には勝てぬ! と渋々ながらも山車へ乗り込んでみると……


「男爵は立ってるだけで構わないから!」

 正装のグリューエン・フォン・ポラールシュテルン少尉が準備万端で待機していた。


「山車の花弁はなびらでも数えてれば終わるから」

 もう! ほんと勝手な軍人!

 僕の言うことなんて、ちっとも聞きやしない!



 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!



 山車の中から梯子はしごを伝ってルーフトップへ出ると、

「バーロン! バーロン! バロン・ユングフラウ! バーロン! バァーロン!」

 なんて盛り上がりだ!

 ギヨーム大公のパレードより盛り上がってるんじゃないか? と思えるほどの大歓声だ!

 あまりの迫力に僕は足がすくみ、声も出ない。


 そんな熱気の中で――王様(※トカマク)は宣言する。


「グリューエン・フォン・ポラールシュテルン少尉――アーシュラー男爵ハーラー――」

「はっ!」

 恭しく膝を着くグリューエン少尉に引っ張られ、僕も王の前でひざまずくと、


「両名にはフラムドパシオン王より、龍退治の軍資金が下賜される」

 宰相が朗々と目録を読み上げた。


「大いに奮起せよ」

「ははっ! 王の御心みこころのままに」

 なに勝手に承諾してんの? グリューエン少尉????


「我ら誓う! 聖ミラビリスの名の下――必ず龍を承伏しょうふくせしめんことを!」

 王より下賜された剣を掲げ、群衆にアッピールまでしてるし!


 万歳! 万歳! バロン・ユングフラウ! 万歳! 万歳! フロイライン・ポーラー!

 朱雀大路すざくおうじに響き渡る歓呼の声!

 今や帝都臣民の期待感、天井知らずの最高潮!


「大変なことになってしまった……」

 確かに僕ら、龍退治を賢王様に願い出たけれども……


 それはあくまで名目だけで、

 ギヨーム大公が行ったような「デモンストレーション」のつもりだったのに!

 「いやいや、大変でしたわ」という、嘘か真か定かじゃない武勇伝で誤魔化すつもりが!


 王の前で、多くの帝都民が見守る前で、龍退治を誓うとか勇み足にも程がある!


(こんなことしちゃったら……!!!!)

 カミカゼ・ドンキホーテとして災龍に挑まないといけないじゃないのよ! 本当に!


 なのに宰相はあおりの手を緩めることなく、

「王は彼らに征竜旅団を貸し与える! 彼らの前途に輝かしい成果のあらんことを!」


 オォォォーッ!

 覇者の振る舞いで民衆へ手をかざす王(※トカマク)、王を讃え拍手する宰相、コロンビアポーズでドヤるグリューエン少尉……

 地鳴りのような歓声に、三者三様ご満悦。


 アッー!

 これでもう……止められる人は誰もいない!

 本当にどうしようもない!

 ――――デスマーチからはじまる龍退治狂想曲だ!



「どうもどうも、ご声援ありがとう帝都の皆さん! 帝都臣民に神の御加護あらんことを!」

 念願叶ったグリューエン少尉、人生の絶頂みたいな笑顔を群衆に振りまいている。


 僕は……とても僕はそんな気分にはなれない…………


 王(※ニセモノ)に頭を垂れたまま、ガックリ肩を落としてたら……


「お前さんも難儀なこった」

 王様(※トカマク)に声を掛けられた。

 民衆に向かって放つ、大仰な王のスピーチではなく……

 耳元で、僕だけに聴こえるように。

「何の因果でこんな事になったのか知らんが、せいぜい華々しく散ってこい」


 他人事だと思って! 他人事だと思って!

 同じ顔のくせに! 同じ顔のくせに!


 てゆかトカマク、随分と尊大な口をきくようになったじゃん!

 君は堅物かもしれないけど、冷静な技術者だとばかり思ってたのに!

 そんな他人を見下すような口を!

(立場は人を変えるのか?)

 たとえ仮初かりそめでも、支配者の椅子は沈着冷静なエンジニアすら傲慢ごうまんに変えてしまうのか?


「ブッディストなら線香はあげてやる。心置きなく死んで来いや」

 と王様(※トカマク)は憎たらしいほどの笑顔で、僕を見下した。


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