第四章 ここに賢者の知恵を授けよう - 3
この世界のこともよく知らない僕らだし、賢者の知恵を借りるのは妥当な考えだと思うんだよ、マジな話。
なのに、(自称大賢者)キコンデネルの献策はとんでもないものだった……
こんなの許可が降りるわけがない、
異邦人の僕だって分かる。
そんな心境で、一応、王様へお伺いを立てに行った健太郎だったが……
「――許可☆」
「は????」
僕の請願(※エルフ村の年貢の支払猶予)は、歯牙にも掛けてもらえなかったのに!
こんな無謀な計画は、よしなに取り計らってもらえるワケ?
なに?
なんなの異世界人の判断基準って?
意味が分からない、意味が!
自称大賢者サラーニー・キコンデネルの「ご神託」が下された翌日、
僕とポラールシュテルン嬢は、連れ立ってエスケンデレヤ王城の謁見の間を訪れていた。
「賢者の神託」について、王様へのお伺いを立てるためである。
まぁ、僕は来るだけ無駄だと思ったけど……
絶対に、一瞬で却下される案件だと確信してたんだけど……
「え? 王よ? 今……何と?」
「許す――精々、励め」
玉座の下に控える右筆が『許可』の書を掲げ、更に僕を打ちのめす。
「は????」
何を言ってるんですか? 賢王フラムドパシオンともあろう御方が!
こんな、誰が考えても正気とは思えない、クレイジーなプロジェクトなのに!
オー! パキャマラド、パキャマラド、パオパオパパパ!(※デスマーチ特有の錯乱状態)
「賢王様の勅許、謹んでお受け致します」
僕の傍らでは、正装のグリューエン・フォン・ポラールシュテルンが深々と敬礼しているし!
「えっ? えっ? えっ? ええぇぇぇっ?」
隣の僕は、見苦しいまでに慌てふためいているというのに!
そんな挙動不審の僕を嘲笑うように、トントン拍子で話は進んでいった。
☆ ☆
「とんでもないことになってしまった……」
まさかこんな展開を迎えるとは、露ほども思っていなかった。
謁見の間から帰り道、前回、前々回とは違う意味で頭を抱える僕に、
「とりあえず、生きて帰りましょう、ケンタロウ様!」
キィロの物騒な台詞が胸を抉る。
前回前々回は「おそらく安全だと思うけど、行ってみたら死にかけた」という旅だったが、
今回は出発する前から死にかけている!
死神がおいでおいでしている地獄の一丁目ツアーじゃないか!
「いいからあたしに任せなさいアーシュラー男爵!」
翻って、正装のグリューエン・フォン・ポラールシュテルン嬢、直々に王の勅許を得て、『軍人の誉れ』とでも言わんばかりの晴れ晴れとした表情を浮かべているし!
(あー、やだやだ!)
これだから軍人は嫌だ!
命懸けの自分に酔うのは本人の勝手だけど、こっちまで巻き込まないでくれます?
迷惑なんで!
「このリマンシールさえあれば暴威の龍恐るるに足らず!」
「ああ、それですか……」
ボラールシュテルン家が大魔術シンジケートの粋を集めて作った、って謳い文句の……
あの地下闘技場では、僕もお世話になりましたよ。
(※第一章参照)
マジで死ぬかと思ったけど!
あんなサイズのドラゴンですら、ね!
でも今度の龍はレベルが違う!
帝都の一区画を廃墟にするほどの怪物だぞ? 暴威の龍だぞ?
「心配いらないわ、男爵!」
ご自慢のリマンシールをピラピラ見せびらかしながら、
「我がポラールシュテルン・アンチ・ファイア、あれから改良を重ねて、耐熱性能が更に向上したのよ! 一+一は二じゃない! アタシたちは一+一で二百なんだから! 十倍よ十倍!」
もう、興奮して何を言ってるのか分かりませんグリューエン少尉。
だいたい、全部お前のせいだぞ、グリューエン・フォン・ポラールシュテルン!
「【王の勅許が出た】とは【行かないという選択肢はなくなった】という意味だぞ?」
専制王政に於ける『王の許可』とは、そういうものだ。
そんなもん無いと分かっていても、不死の妙薬を求めて徐福は海を渡らなくてはならないのだ。
「で? その徐福とやら、結局どうなったんじゃ?」
興味津々に目を輝かせるキコンデネルに、
「有耶無耶だよ。目的地に永住して戻らなかったとか、帰国する途中に皇帝が死んだとか、結末は定かじゃない」
「それでええんじゃよ、男爵殿」
「え?」
「なにも、馬鹿正直に龍を退治せんでもええんじゃ」
そうだ、ここは聖ミラビリス王国――――現代日本とは、あらゆる意味で異なっている世界。
ここにはパパラッチのカメラもないし、商店街の監視カメラもない。
誰にも見られていない世界だ。
随行するメディア関係者などという概念もない。
考えてみれば――マスメディア普及以前の世界は、基本【死者に口なし】。
生者の証言だけが、歴史に残る。その真偽に関わらず。
つまり!
身の危険を感じた時点で引き返してくればいいだけの話だ!
賢者キコンデネルの言いたいことは――――そういうことだ!
「『我が王よ、災龍相手に我ら獅子奮迅の激闘を繰り広げたるも……あと一歩、倒すまでは至りませなんだ』――――これでいいんじゃ男爵殿」
「さ、さすが大賢者……」
悪知恵すら造作もないことですか?
「よし! 我ら輿水健太郎探検隊、行くだけ行って、危ないと思ったら即座に逃げる!」
これで行こう!
「「もんじょわー!」」
☆ ☆ ☆ ☆
――しかし、敵も然る者引っ掻く者。
取り敢えず行ってみるだけ行ってみて、危ないと思ったら即帰還。
有ること無いこと天骨盛りの報告を仕立て上げ、『龍退治のアリバイ』で美味しい汁を吸わせて頂こう……
という僕らの目論見は、見事に粉砕されることになった。
「なっ! なんじゃこりゃぁぁあああ!!!!」




