第3話・追及の手を緩めずに~身分制度の厚い壁~
第3章 要衝都市に隠された
第3話・追及の手を緩めずに~身分制度の厚い壁~
ドアマンのセージという青年は、なんとブルンの元領主であるサルビス子爵家の出身だという。
サルビス子爵家は様々な不幸が重なった結果、領政を維持できずに、二十年ほど前に爵位ごと領地を返上している。
ただ、その統治能力自体には問題がなかったためか、現在は元子爵家の当主がブルンの代官を、その子息が役人を務めている。
そして、セージは現当主の孫にあたる令息で、その幼馴染だというリリーという女性の両親がサルビス家に仕えていた関係で今でも家族ぐるみの付き合いがあるらしい。
……と、言ったことまで聞きだしていたジャンヌに呆れ返る。
(……何を、個人の事情を根掘り葉掘り聞きだしておられるのでしょうね……?)
その場にいたはずなのに止めなかったファンをチラリと見れば、何気ない仕草で視線を逸らされた。
(……なるほど……?)
その反応からして、そもそもジャンヌがセージと接触することになった元凶は、ファンの方らしい。
幼い時に祖父が爵位を返上し、平民として育ってきた青年からすれば、いかにも高位貴族然とした二人に挟まれるのは、とんでもない恐怖だっただろう。
眩しいほどに真っ直ぐ、と言えばよいのだろうか?
ジャンヌは、自分がさせようとしていることが、どんなことなのかを一切理解していない。
その、サルビス元子爵家の令孫だという青年からすれば。
仕事中に、いきなり宿泊客に呼び出されたかと思えば。
好奇心丸出しで個人的なことを聞かれて。
仕方なく答えれば、自分の家ではなく、知り合いの家に勝手に押しかけさせるから!
と貴族然とした少女に言われた状態。
その少女の隣には、いかにも騎士然とした目つきの鋭い青年もいて……
断ればその場で無礼打ちにされるかもしれない状況。
自分一人で被害が済めばマシだが、自分の家族や、聞かれるがままに話してしまった知り合いの一家だとか、それこそ職場である宿全体。
どこまで被害にあうかも分からない。
その状況で「はい。」以外の返事を返せる平民など居るはずもないというのに……
(……この国は身分制度が存在し、貴族と平民とでは明確に立場が違うというのに……)
貴族の頂点である皇族と、そこに近い侯爵家のご子息様には理解できていないようだ。
「……どうやら、お二人は『身分を隠す。』というのがどういうことなのか……全くご理解いただけていない、ということだけは分かりました」
「「……っ……!?」」
にこりと笑顔を作ったインスの物言いに、ジャンヌもファンも目を丸くする。
「え? は? え? どういうこと……? 今までの話と、何か関係あるの??」
「………………」
思いっきり首を捻るジャンヌと、渋面でインスを睨むファンとを冷ややかに眺めながら、怯えた様子を見せるアインをそっと抱き寄せて、落ち着かせるように軽く肩を叩く。
「……では、お二人でもご理解いただけるように申し上げましょうか……」
口元にだけ笑みを這わせたインスの声はけして荒々しくはない。
むしろ、普段以上に落ち着いて、穏やかな声音。
けれど、それが逆に何とも言えない居心地の悪さを感じさせている。
「そうですね……例えて申し上げるなら、隣国の特使が滞在中なので、粗相がないように、と陛下から言伝があったのに、うっかりお二人が口論されているところを見られ、特使に呼び出された挙句、下手なことを言えば両国の関係性が悪化するのに、個人的なことを聞かれたわけです」
「えっ!? 普通、そんなこと聞かれないわよ!!」
静かに語りだしたインスの話を聞くうちに、ファンは遠い目をし始め、ジャンヌは途中で目を見開いて声を上げる。
ファンの様子を見るに、実際に似たようなことがあったらしい。
それはそれで問題だが、とりあえず、今は置いておく。
それよりも問題なのは、ジャンヌの方。
この言葉から、普通ではない、と分かっているのに、理解はしていないと判明してしまう。
(……実際に、ご自分はなさっておられるというのに、聞かれない? どの口がそれを仰るのでしょうねぇ……?)
内心呆れながらも、それなら口撃の手を緩める必要はないな、と判断する。
「……『皇女殿下とフロークス爵子はご婚約されていらっしゃるのですか? え? まだ? ああ、幼馴染だからあれほど気安くお話しされていたのですね……どう見ても恋人同士のようでしたよ?』……」
「へ? は……? え……??」
「なっ……! き……っ!! ま……っ!!」
あえてその状況で特使が言うであろう言葉を語ってやれば、ジャンヌもファンも顔を真っ赤にして言葉に詰まる。
自分たちは言われたら赤くなるくせに、他人には平気で聞くのだから質が悪い。
「……皇女殿下がそのセージさんと仰る方にされたのは、こういうことですよ……」
「っ~~~~~~!! ぜ、ぜんっっっぜん! 違うわよっ!!」
「………………」
鮮やかな笑顔を浮かべて見せれば、ジャンヌは湯気を上げそうなほどに赤くなって否定し、ファンは赤いのか青いのか分からない表情で絶句する。
一体どこが違うというのか? 是非とも納得できるように説明して貰いたい。
「……下手な受け応えをして、言質を取られれば国際問題ですね? 『ご病気の弟君がいらっしゃる? では、我が国から同行させている者に一度診察させましょう! 貴国の医師が劣っているとは申しませんが、もしかしたら、こちらでは知られていない原因があるのかもしれません』……と、言われて上手くお断りできますか?」
「「………………」」
続けて言われた言葉には、二人揃って青くなる。
何しろ、ジャンヌの弟であるジョンは本当は病ではないのに、病である、として世間の目から隠してきたのだ。
魔族に呪いをかけられた、などと口外できるはずもないからこその苦肉の策ではあったが、「病である。」としてきた以上、実際にそういった申し出をした国がなかったのか? と聞かれれば……
((……どこかの国が言った可能性は高い……))
ジャンヌもファンも、すぐにそれは理解できた。
そして、そんな申し出をされても、実際にジョンを診せることなどできるはずもない。
「更に申し上げれば、それを言われて、押し切られたのが、皇女殿下でも陛下でもなく、外交特使として接待に当たっていた一貴族だったとすれば?」
「「……っ……!!??」」
ギョッとして、ジャンヌもファンも息を飲む。
真実を知らず、ただ病の皇子がいると知られているからと。
良かれと思って申し出られて、明日行かせるから! などといわれた……と、伝えられた時、どう感じる?
「……そ、れは……」
「……ありえないな……」
呆然としたジャンヌの呟きと、眉間に皺を寄せたファンの苦々しげな呟きが同時に漏れ出る。
自分たちの立場に置き換えて言ってやれば「ありえない。」というくせに、この二人は一体何をしたのか?
「……ご理解いただけましたか? お二人がよしとされたことが、いかに常識外れであるか……」
「「……………」」
にこりと、それはそれは華やかに笑って見せたインスに、ジャンヌもファンも、何も言い返すことができずに絶句した。
第3話をお読みいただきありがとうございます。
セージの生い立ちやリリーの家庭環境を嬉々として聞き出し、安請け合いをしたジャンヌ。
その行動がいかに相手にとって脅威であり、身勝手であるかを、インスは容赦なく追及します。
身分制度の壁、そして自分たちの立場に置き換えた「例え話」を突きつけられ、顔を赤くし、青くして絶句するジャンヌとファン。
一切の追及の手を緩めないインスの冷徹な論理の前に、二人が出した答えとは!?
次回もお楽しみに!
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過去の関連作品などはこちらからお読みいただけます!
▼ 本編【CCC】シリーズ 総合リンク
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▼ 番外編【STO】シリーズ 総合リンク
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ノリト&ミコト




