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【改稿版】ただの受付なんだが、周りは放っておいてくれねぇ――なんでも屋チーフの異世界職業案内  作者: 猫猫全猫


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第1話 チキュウからの就職希望者

小説を閲覧いただきありがとうございます。

こちらは、旧版の改稿版です。

登場人物や流れが旧版と異なります。

旧版→https://ncode.syosetu.com/n7144lx/

 冒険者ギルドへようこそ。

 一階に賑わってる窓口があっただろ? そっちが受付だぜ。


 じゃあ、こっちの空いてる窓口はなんだって?

 

 ――こっちは()()()()()()()()()()()を行っている。

 

 だから、ご覧のとおり、暇なもんさ。

 世の中、冒険者以外にも仕事も山ほどあるんだがなぁ。


 やっぱり、若いやつらは夢のある冒険者に憧れるのかねぇ。


 ***


「こ、こんにちは……」


 不安げな声とともに、窓口のベルが鳴る。

 男は書類作業の手を止めて、顔を上げた。


 ロングの黒髪に黒い瞳。見慣れない衣装。

 二十代くらいの女性が、心細そうに立っていた。


「おう。お嬢ちゃん。いらっしゃい。

 冒険者ギルドへようこそ。俺に何か用か?」


 努めて柔らかい口調。

 精いっぱいの笑顔を作って、女性に声をかける。

 もっとも表情筋が死んでると同僚に評判のため、伝わっているかは怪しい。


 女性は一瞬ためらい――口を開いた。


「あの、ここで働きたいんですけど……。登録? とかしたらいいんでしょうか」


 男が「ん? 冒険者希望か?」と聞き返すと、女性はしどろもどろになる。


「もし、冒険者希望ならここじゃなくて、一階の受付で対応してるぜ」

「えっと、違います! こ、ここで働かせてください!」

「ここ?」


 意味が分からず、男は首を傾げる。


「その、冒険者希望じゃありません。ギルドの職員として働きたい、です」

「そういうことか」


 事情を理解して、男は軽く笑った。


「うちに来る大半は、冒険者志望で乗り込んでくる生きのいい奴が多いもんでね。

 ギルド職員希望ってのは、ちょっと珍しい」


 その説明を聞いて、女性は小さく頷く。

 ぽつりと「小説でもそんな描写が多いかも」と独り言を漏らした。


「冒険者って、魔物と戦いますよね……。そういうのは、ちょっと」

「苦手か?」

「はい……。戦いは、無理です。

 魔物だって生きてます。それを殺すのは……すみません」


 言葉が続かない。

 代わりに、自分の身体を抱きしめるように腕を回す。


「綺麗事だってわかってます……」


 それでも、と女性は頭を下げる。


「受付作業でも雑用でも何でもします。

 だから、何か私にできる仕事はありませんか」

「おいおい、落ち着け。そんな思いつめることないだろう」


 男は慌てて手を振る。

 

「ほら、そこに座れ」


 空いてる席に座らせて、書類を差し出した。


「アンタ、文字の読み書きはできるか?」


 男の問いかけに、女性はこくりと肯定する。


「よし。じゃあ、このスキルシートを記入してくれ。

 書きたくないとこは空欄でいい。ペンはこれな」


(これ、バイトの履歴書みたい)


「ありがとうございます」


 どこか懐かしさを覚えながら、空白を埋めていく。

 書き終えた紙を、向かい側に座った男へ渡した。


「文字の読み書きは問題なし。魔法は、一般魔法が少々ね。

 魔力量は? どこかで計測したか?」

「測ったことは、ないです」


 男は丸い球のようなもの渡して、握ってみろと促す。

 言われるままに握り、球が光り輝いた。

 

「よし、この魔力量なら魔道具の連続使用も問題ねぇな」


(魔力の測定器だったのかな?)


 数値や文字で何か表示されたわけではないが、そう予想する。


(問題ないってことは、大丈夫ってことだよね)


「名前は『イズミ』か。俺は、ここじゃ『チーフ』って呼ばれてる。よろしくな」

「チーフさん。よろしくお願いします」


(チーフ? 窓口の責任者ってことかな。確かに仕事できそうだもんなぁ)


「前職は何をしてたんだ?」


 自然な流れで面接が始まる。

 

「チキュウでは、簡単な事務作業をしてました。

 電話をとったり、パソコンで入力したりです」

「チキュウ?」


 しまった、とイズミは息を呑む。


(どうしよう! ついチキュウのこと言っちゃった。

 チーフさん、日本人っぽい外見だし、油断してた)


 チーフはイズミと同じ、黒髪、黒目。年齢は三十代くらい。

 不健康な白い肌に、アジア系の顔立ちをしている。


 その場の雰囲気も合わさって、イズミはつい、チキュウの名前を出してしまった。


 (どうにか誤魔化さないと!)


 イズミはあわてて口を開く。


「えっと! ち、チキュウっていうのは、その、田舎にある場所で――」

「聞かない地名だな――あぁ、異世界ね」

「え?」


 勝手に自己完結したチーフは、書類に何やらメモを書き込んでいる。


(まって! 異世界って一般的なの!?)


 戸惑いながらも、イズミは説明を続けた。


「その、チキュウの、神様みたいな方からこの世界に行くようにって。

 その時に、魔力とかスキルも貰ったんです」


 本当は交通事故で死んでいることは伏せる。


 「チキュウには、魔物なんていなくて……だから戦闘は無理です」


 最初、イズミは何とかなると軽く考えていた。


(低級の魔物くらいなら、私でもいけるよね。スライムとか、そういうの)


 イズミはこの世界に転移する際、神様から手厚く加護を貰い、送り出されている。


 ――低級の魔物であれば、自分でも討伐できる。

 

 イズミは、何の根拠もなくそう思っていた。

 冒険者の試験も難なく受かり、いざ魔物と対峙した時。


 ――私には無理だ。


 イズミは悟った。


 魔物はゲームみたいに、お行儀の良い行動は一切しない。

 小説では死体の臭気や不快な感触など描写しきれない。


 たった一回の魔物との戦闘で思い知ったのだ。

 そして、イズミの心は折れた。


 宿屋に帰ってベッドに逃げ込み、何日も籠り続けた。


(怖い。汚い。気持ち悪い……何より、可哀想だ)


 加護がある。魔法もスキルもある。

 そんなもの、無駄だったのだ。

 生物の本能――恐怖の前には、何の支えにもならなかった。


(やっぱり小説は架空のお話なんだ。チートスキルがあったって、無理)


 こうしてイズミは冒険者を諦めた。


「そりゃ、戸惑うよな」


 チーフはあっさりと頷く。


「はぃ……ぐすっ」

「戦闘が苦手な奴はこっちの世界にもいる

 それが悪いとは思わないし、マイナス要素にはならないから安心しな」


 ぶっきらぼうな言い方だったが、イズミは不思議と安心する。

 ハンカチを取り出して目元を抑えると、こくんと頷く。


「……そう言っていただけると、たすかりますっ」 


 イズミは小さく頭を下げた。


「つまり、冒険者以外で食っていきたいってことだな」

「はい。この世界の通貨はいくらか貰っていますが……」


 当面は職に就かなくても大丈夫だろうとイズミは思案する。


 「いつまでも資金があるわけではないので、自立の手段を探してます」


 チーフは何をするにも金は重要だからな、と肯定する。

 イズミの話を一通り聞きつつ、メモを記入を終えるとペンを置く。


「さて。ギルドで働きたいってことだが、うちで働くには国の資格が必要なんだ」


 国の資格。チーフの思いもよらぬ言葉にイズミは面食らう。


「例えば、ギルドの受付にしたって、学院を出て試験に合格しないとならねぇ。

 もしくは実績を作ることだな。冒険者としてBランク以上で五年働くこと。

 受付を目指すなら、そのどっちかだな」

「そんなに大変だったんですか!?」


(想像と全然違う。公務員みたいな感じ?)


「受付はな、見た目ほど楽じゃねぇんだ。

 書類は山ほどあるし、現場に出ることもある。責任が大きい仕事だ」


 一階にいるにこやかに接客する受付の女性を思い返す。


 (あんな人も現場に出るなんて、信じられない)


 イズミがショックで寝込んだ時、とても心配してくれた。


「てっきり事務作業だと思ってました。じゃあ私には無理、ですね」


 ぎゅっと拳を握り俯く。再び涙で視界が滲んでくる。


 「そんなことねぇさ。ここなら、もっと別の仕事を紹介できる。

 そういう窓口だからな」

「ほんとうですか?」


 イズミはゆっくりと顔を上げて、チーフの顔を見た。

 嘘をついているようには見えなかった。


「冒険者以外で、資格も必要ない。

 アンタでも出来る事務の仕事があるぜ」


 冒険者からの通信に答えてサポートする。

 これだけだとチーフが簡単に説明した。

 

「あそこはいつも人手不足だから、すぐに紹介出来るぜ。

 見学してから考えるって手もある」


 イズミは少し考えて、おずおずと見学させてくださいと答える。


「よし。案内するぜ。ほら、ついてきな」


 まだ心配はあるものの、イズミはチーフの背中を追い、椅子を立ち上がった。

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