17話 魔王の魔法は時短家電
「おーい。戻ったぞー」
「ハピちゃんヨシヒロさん、おかえりなさい」
「おそかったわね。こっちは準備ができているわ」
エプロン姿のモンスター娘たちが俺らを出迎える。
ロリ魔王ローゼリアはというと、レオタードの上にエプロンをしたやや刺激の強い格好をしている。
リザの方はフリルとリボンがついた少しクラシック・スタイルのエプロン姿だ。
非現実的な場所で、非日常的な二人をまじまじと見つめてしまう。
視線に気がついたリザがハッとして、体を反らす。
「ちょっと!どこ見てんのよ」
リザの前に庇うようにローゼリアが立ちはだかる。目の前に、くるとより迫力が増す。
「おおう」
ばいーんという擬音語が聞こえてきそうだ。
「はいはーい、そこまでにしよっか」
背後からハピたすの声がするかと思うと、目隠しをされたのか視界が暗くなった。
そして、耳元で囁かれる。
「他の娘ばかり見てると、ウチ妬いちゃうよ?」
「なっ!?」
ばっと翻ると、ぱちりと長いまつげの片目を閉じてウインクする悪戯な表情が近くにあった。
かくして、魔界の森から無事に食材をゲットした俺とハピたすはまたこのダンジョンに帰還した。
洗い物の山と化していたキッチンは既に整備がされている。
炊飯の準備もできているようで、うまく分担できているようだ。
「それじゃあ、やるわよ」
ローゼリアは腕まくりをするかのように気合を入れる。
「ハピたす、食材をお願い」
「おっけー、まかせて!」
ハピたすはそういうと、食材を宙に放り投げた。
おいおい、何をする気だ、と思うと。
「それじゃあ、いくよー『ウィンド・カッター』」
風魔法で、食材がみじん切りになる。風魔法ってそんな使いかたするんだっけ?
というか、室内での真空魔法はキケン過ぎる。
そして、都合よくまな板の上にこんもりと乗っかった。たしかな技術力だ。
それだけの技量があるのであれば、さっきの森探索のときにもっとラクできたんじゃないかと思いつつ。
「へっへー。ウチにかかれば楽勝」
「それじゃあ、リザ。鍋にセットして」
リザは刻まれた食材やハーブを鍋に手際よくセットしていく。
エプロン姿も相まって、サマになっている。
そして最後にルーを乗せる。あとはよく混ぜて煮込めばカレーの完成だ。
ルーも魔界のスーパーマーケットに売っていたりするのだろうか。あるのならぜひ行ってみたいものだ。
ここからは煮込むのに時間が少しかかるが仕方ない。
「それじゃあロゼちゃんお願い」
「お願いって何をするんだ?」
料理スキルゼロの俺はつくるのは完全に任せようと端で見ていたが、つい声がこぼれてしまう。
「まかせなさい」
そういって、竈に魔力を込めると一瞬白い閃光が走った。
「さ、できたわよ」
「できたわよ、っていま火を点けたばかりだろ」
光の残像が瞳の奥に残るなか、ほらみなさい、と言わんばかりに顎でクイと鍋のほうに視線を誘う。
鍋の蓋をあけると、グツグツと煮込まれたとろみのあるルーから、湯気とともに食欲をそそるようなスパイスのいい香りがした。
「へ?なんで?」
時短家電もびっくりの瞬間調理である。
「魔王なんだから、これくらいできて当然でしょ」
全然ロジックは通っていないが、この世界の魔王は料理スキルにパラメータが振られてるのか。
もうダンジョンをつくるのをやめて、他の魔王やモンスター娘たち向けに食事処をはじめたほうがいいんじゃないか。
「このニオイ…… ついに完成ですか~~~?」
ハラペコゲージがゼロになりかけていたクララが香りに釣られてやってきた。
周囲のゲソがぐでんとした本体を運んできた。もはやどちらが意志を持った本体なのかわからない。
本人はいつもの調子で力なく席についた。
はたらくゲソにこそ、ぜひ召し上がって欲しいものだ。
「ボクはもうハラペコなので~~~す」
ローゼリアがつやつやぴかぴかの炊き立てライスの上に、野菜の旨味がギュッと閉じ込められたルーをとろりとかけていく。仕上げにはフライドオニオンとパセリで見た目もばっちりだ。あとは、そこに付け合わせの温泉タマゴを添えていく。
「ほら、食べなさい」
「「お~~~」」
ほとんど目を瞑った状態のクララだったが、目を輝かせる。
そして何かに気がついたのか視線が対象へとターゲティングされる。
「このタマゴ……コカトリスの?」
「ああ、森からの帰り道に偶然ハピたすが見つけてな」
「わーっ! その話はしなくていいから!! 偶然あっただけだし?」
「俺なんかコカトリスに石化されそうで大変だったんだぞ。ほら、服のここなんかちょっと石になってる」
「ふん。石になったら、そのまま魔除けとしてダンジョンの入口に飾ってあげるわ」
「誰が魔除けだ? お前こそその漬物石みたいな胸を石にした方がいいんじゃないか」
「なぁんですってー!!」
騒ぐ俺たちを他所にクララは、ぱくりと口にカレーを含む。
ふだんは気だるげなクララだが、にんまりと微笑みがこぼれるのを俺は見逃さなかった。
「ふぅん、わるくない味ですね〜〜〜」




