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最終話

 ……あれ? いつもの怒鳴り声がしないんですけど。ハッ、マズい、ジェイクじゃなかった?


 失敗したかも、と慌てて顔を上げると、そこにいるのはやっぱりジェイクだ。間違っちゃいない。でも態度がいつもと違う?


 入り口に立ち尽くし、表情が今にも泣き出しそう。まるで捨てられそうになってる仔犬みたいな顔してる。


「ジェイク?」


 訝しげに名前を呼んで確認すると、ハッと気づいたのか、私の側に寄ってきて両手を握ってくれた。

 私が腰をかけているベッドの端に同じように腰かけると思ったら、その手前でズルズルとしゃがみこみ、床に座った。


 私が座っているちょうど膝の上に握った両手、更にその上に額を乗せて安堵のため息を深くつく。


「ごめんニコル。前の日に守るなんて言っておきながら、全然守れてなかった。攫われたと気づいたのも、半日以上過ぎてからだったし」

「なあに、そんなこと? 結果的に攫われなかったし、よかったってことじゃないの? むしろ私が攫われてごめんなさいって感じだったしね」


 私はジェイクの頭をゆっくりと撫で、彼の頬に両手を添えて目元に軽いキスをした。


 いや、ホントは唇か迷ったんだけどさ、やっぱり女性から積極的に攻めるのもねぇ。ここは淑女の嗜みって感じでいってみようかと。そんな脳内会話をしてるうちに、今度は彼の方から、しっかりと唇にチューをいただきましたよ。ついでにハムハムされもしたんだけど、あたふたしてるうちに頭の回路がパンクしちゃって、クッタリしてしまった。


 そのまま腕の中にすっぽりと収まりながら、話しを聞く。


「今回ばかりは、本当にニコルが消えてしまうんじゃないかって不安になったんだ。アルベリアのヘビ野郎がお前を気に入ってたから、絶対に会わせないようにしてた。帰国の連絡受けて安心しちまったのが敗因な」

「家から出られなかったのって、もしかして?」

「ああ、ニコラスに頼んだ。ただ、狙われるかもしれないってのは内緒にしてもらってな。お前襲われたばっかりでビクビクしてたから」


 なんだ、だからニコラスも頑なに家から出さなかったのか。変に対抗意識を燃やして、そのせいで怒られて。

 ありゃあ、私、何やってんだろね。空回りばっかりしてる。


 ズーン、と落ち込んでいるとジェイクが心配そうに顔を覗いてくる。


「どうした?」

「んー、私っていつも先走って迷惑ばっかりかけてるなぁって反省してるところ」


 ふふっと小さく笑ってからギュッと抱きしめられ、話しかけてくる。


「素直に反省するニコルも可愛いな。しかし多少の跳ねっ返りも引っくるめて、全部が好きなんだが」


 うっわぁ、この人ストレートに口に出し過ぎですってば。そんな告白されたら心臓持ちませんからぁっ。

 私が恋愛レベル低いの見越して言ってくるんだもん、困っちゃう。

 頭から湯気がでるくらい真っ赤な顔になって、恥ずかしくて燃えカスになりそうですぅ。


「さあ、ニコル。家に帰ろうか?」


 私はコクンと頷き、ジェイクの手を取って立ち上がった。


 馬車を勧められたが、まだ暴走の恐怖が体に染みついているので丁重にお断りした。

 しばらく馬車は懲り懲り。ジェイクと二人で馬に乗って帰るのが一番安全だもの。

 ノリス団長に丁寧に挨拶して、馬に跨ろうと動き出した時、向こうから声をかけられた。


「ニコル嬢もジェイク様も末長くお幸せに。私がもう少し若くてあなたがジェイク様に出会う前でしたらプロポーズしてましたよ、ははは」


 んな、なんて嬉しいことを!

 思わずポッと赤くなって頬に手をやったら、後ろから軽く小突かれた。


「お世辞に決まってんだろ、馬鹿者」


 ぷうっと膨れるが、普段のジェイクに戻ってることに安心して、クスクスと笑ってしまった。



 ******



「おう、久しぶりの我が家!」


 やっと帰ってきた家には相変わらず頭皮が見え隠れしているお父様と、年齢不詳の美魔女なお母様が揃っていた。ニコラスはお仕事かな? 戻ったら話しをしよう。散々心配かけたし迷惑かけちゃってたもんね。


 両親揃ってるのをいい機会と思って、ノリス団長のことを聞いてみた。


「おお、ノリス伯か。ニコル、お前失礼がなかっただろうな。あの方は昔から男も惚れるくらい紳士だったよ。素敵だったろ?」

「私、お母様がノリス団長を振ってお父様に嫁いだって聞きましたけど?」

「ふふっ、そうよ〜。あの方よりダーリンの方がよかったからねぇ」


 艶っぽい視線をお父様に向けて投げキスをする。それを見たお父様は多少のけ反り、体勢を立て直すとゲホンと咳払いする。


「あんな渋メン、久しぶりに見たわ。お母様も罪作りよね、未だに独身らしいわよ?」

「あら、そうなの? まあ私よりいい女なんてこの世にそんなに居ませんからねぇ」

「こっわ……誰もお母様には敵わないんでしょうね」

「そんなの当たり前でしょ。私は魔法使いなんだから。虜になったら抵抗なんてできないのよ」


 お母様はお父様を立ち上がらせ、ポンと背中を押して部屋へと下がらせる。あらあら、嬉し恥ずかし、夫婦の時間ですか。ご馳走さま。


 私も立ち上がって部屋へ移動しようとしたら、お母様がそっと耳打ちしてきた。


「ノリス様は出世される方だったから、私の計画には合わなかったのよ。私にはダーリンの出世欲の無さが必要だったの。私には最高の伴侶だわ〜」


 ゾクッとした。お母様? お父様と同様に、やっぱり私も計画の一部ですかぁ! ギギギと首をお母様の方に向けると、既に姿は消えていた。

 ……魔女や……絶対あの人魔女や……


 これからもお母様の全容には深く触れない、と心に決めて自分の部屋の扉をキッチリと閉めた。

 何でかって? 魔女に取り込まれないようにでしょっ! って私のお母様なんだけどね。



 次の日、騎士団に行こうかな、と考えていたら、ジェイクが早々にお迎えに来てくれた。


「しばらくの間、お前と一緒に騎士団に行くのも楽しいかなと思ってな」


 頬を掻きながら斜めを見るジェイクが可愛いくてしょうがない。攫われたことに責任感じてくれてるのかな? 心配だとは口にせずに行動してくれてるあたりがすごく嬉しい。


 アルベリアの使者の件は公式には国外にいることになっていたので、有耶無耶で終わってしまった。ロンダードは女性誘拐と買春の容疑で逮捕、爵位剥奪となり、私と一緒に攫われた子たちは、すんでのところで救われた、ということだった。

 香炉の男は残念ながらすぐに逮捕はできなかったようだ、引き続き調査するようなので、捕まるのも時間の問題だろう、と教えてくれた。


 よかった。金髪好きのおかげでとんでもない目にあった子たちだったからね。これからは安心して元の暮らしに戻れるだろう。


 執務室に着いて、軽く書類を仕分けてからお茶を淹れようと席をたった。


「スレイに書類渡してくるから少し待ってろ」


 あら、冷めちゃのもヤダし、後から淹れるかな。その間、何してようか。

 執務室の棚やら書類をもう少し整理して、ジェイクがいつも座ってる椅子に腰かけてみた。


 へえ、団長の机からの眺めってこんななんだぁ。机に肩頬をつけて目を瞑ると、いつもの仕事をしている彼の姿が見えてくる。

 ニヘラっと笑ってるうちに、ついウトウトと眠ってしまったらしい。


 肩を揺すぶられて、ようやく意識が浮上してくる。ムックリと起き上がって、だらしのない笑顔で応対した。


「こんなとこでうたた寝してたら体が痛くなるだろ? 全く世話のかかる……」


 少しだけ困った顔をしながらも、その手には膝掛けが握られている。そんなちょっとした気遣いが嬉しくって、とても幸せな気分になる。


 私はくすっと笑って両手を広げて伸ばし、彼に向かってこう言ってみた。


「ようこそ、第三王子がお守りしてくれる騎士団へ。これからも、私のお守り、しっかりとお願いしますね、ジェイク」




『続・第三王子のお守り騎士団』 完

最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。

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