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アメリカーナ西部国立公園の遠征


翌日の午後、迎賓館の会議室に関係者が集まった。

私達冒険者パーティからは、私、ナナちゃん、チャールズ、レオン、ゲオ、アリシア、マリー、そして侍女のアナ。

海軍を除く司令官が三人。近衛隊のエドゥアルド隊長、ジョアン・ペレイラ第三軍司令官、エリザ・ロペス第四軍司令官。

各隊から、小隊長が三名ずつ出席している。


「うん、じゃあ始めよう。えっと、どうすれば良いのかな」


「ララ様、自分から話します」


「うん、ナナちゃん、宜しくね」


「は。まず、プラダーナ戦用の武器に関して。近衛隊は特製ハルバードを保有しているので問題ない。第三、第四には新たに支給しようと考えている。現在保有している素材を、チャールズがミナセの鍛冶屋に持ち込み発注した。ハルバードが百。大剣が百だ。プリモーディアルの森に到着するまでには納品されるとのこと。各隊、適切に配布してほしい」


「「は。ありがたく頂戴します」」


「ペレイラ司令官とエリザ司令官には専用の剣を新たに作るね。おそらく直接鍛冶屋に行った方が良いと思うので、会議が終わったら、アリシアに案内してもらってください」


私が補足すると、二人とも満面の笑みで頷いた。

エリザさんも綺麗な顔をしているのに、武器とか大好きなんだなと思う。

娘のアリシアまでも嬉しそうだよ。


「次。レオンとゲオがユニオン・リパブリックの冒険者組合に行き、『アメリカーナ西部国立公園』に生息する魔獣の情報を入手してきた。サマリーを配布したので読んで欲しい」


「ララちゃん、結局、直接プリモーディアルの森に飛んでいかないのね?」


「うん、チャック、結構珍しい魔獣がいっぱいいるみたいだからね。間引きと素材回収がてら、端から進もうと思うんだ。ヤバそうなら、直接飛んでプリモーディアルの森まで行こう」


ユニオン・リパブリックの西の奥には、グレートハーモニーという名の湖と都市がある。

そこから、南西に降りていくと広大な森があり、森の中央部から少し奥まったところに、目的地のプラダーナが封印されている地下施設がある。

正確に言うと、その地下施設がある近辺の森が『プリモーディアルの森』であり、それを囲う様に広がっている広大なエリアを『アメリカーナ西部国立公園』と呼ぶのだと思う。


アメリカーナ西部国立公園は、立ち入りを封鎖された地域であり、国からの依頼でないと冒険者も立ち入れない森だ。

逆に言うと、ここにいる魔獣や薬草の情報は、冒険者組合以外には保有していないことになる。


最初はコクリュウに乗って、直接、地下施設があるプリモーディアルの森まで行くつもりだった。

でも、珍しい魔獣がいると聞いて、訓練がてら魔獣の間引きを行っても良いかと考え直したのだ。薬草もあるし。

プラダーナが古来より住んでいた森の近くに生息している魔獣だけあって、魔力的な影響を受けて独自に発達、進化している。

いずれも魔法的な能力を持っているし、結果的に攻撃力や防御面にも秀でている。

その魔石は大きく、今後の技術発展のためにも多数を確保したいという目論見もあった。


「中でも厄介なのは、この飛ぶ魔獣だな。制空権を確保することすら困難かもしれない。こっちで飛べるのは、UFO号、ララ、アリシアだけだからな」


レオンが配布されたサマリーをめくりながらつぶやく。

アメリカーナ西部国立公園に住む変わった魔獣の中で、飛ぶ魔獣と言えば、ジャージー・デビル (Jersey Devil)とサンダーバード(Thunderbird)だ。


ジャージー・デビルは、アメリカーナ西部国立公園で最も古い謎多き魔獣とされる有翼生物で、古くから現地で語り継がれている。

燃えるような目でカンガルーのような二足歩行の姿で目撃されるが多く、翼竜(ワイバーン)に例えられることもある。

体長は約3メートル程度とされている。

頭部は馬、羊、または鹿に似た面長の顔をしているとされ、犬のような頭を持つという報告もある。目は真っ赤に光るとされ、頭には角(鹿のような枝角や山羊のような角)が生えている。胴体は黒っぽい毛で覆われており、腕は小さく、先端には鉤爪(かぎづめ) のような鋭い爪を持つ。脚は二本の蹄(ひづめ) を持ち、その足跡は馬の蹄に似ているそうだ。

背中にはコウモリのような革質の大きな翼が生えており、空を飛ぶことが可能。尾は細長く、先端が二又に分かれている(フォーク状)か、尖っている。

夜になると大量に現れるが、夜行性という訳でもなく、日中でも日差しが届かない森の中で唐突に現れて消える。


公園を管轄している役人からすると厄介なのは、その神出鬼没なところだ。

ただ飛んでいるだけならいい。問題は暗い森の中で唐突に現れて、被害を巻き散らすところだと言う。


もう一つのサンダーバードの方が分かりやすい。

アメリカーナ西部国立公園の天空の支配者。

巨大なワシやタカに近いだろう。爪で大型魔獣を捕まえることができるほど大きく、明るい羽毛と鋭い歯と爪を持ち、ウィンザーグローブの方まで含めて広範囲に住むと言われている。

『サンダー(Thunder)』の由来は、雷属性の魔法を放つことだ。

遠距離で対象を目掛けて雷電を落とす。体表に触れた魔獣を雷撃で動作不能に陥れる。

討伐難度という意味では、ワイバーンを遥かに凌ぐだろう。


「ララ達で対処できなかったら、やむを得ぬ。コクリュウを招聘しよう」


「サンダーバードはコクリュウで行けそうだよね。問題はジャージー・デビルかね」


「そうだね……。制空権という意味だとサンダーバードだけやっつければ何とかなるけど、ジャージー・デビルはよく分からない子だもんね」


「空は議論も事前のすり合わせも限界があるな。俺たちにはどうしようもない。陸の魔獣の話をしておこう」


レオンに空の魔獣の相手は自分たちの役割ではないと言われる。

皆がページを繰って、その他の魔獣に目を向けた。


アメリカーナ西部国立公園には、他の森にいるような通常の魔獣も多い。

ミナセにもいたオオカミ系や熊系、通常とは呼べないがオークだっているのだ。

それでも、それらが霞むような恐ろし気な魔獣の情報が何種類も記載されていた。


ウェンディゴ (Wendigo)。

あの森で最も不気味な怪物として知られている魔獣だ。

見た目は人型。毛むくじゃらの体毛を全身に生やし、長く太い手足を持つと呼ばれている。

人食いの獣で、国立公園奥の森林に出没すると言われている。

現地の伝承では、元はハンターだった男が、飢えに狂って人肉を食べた結果、恐ろしい怪物に変貌したという伝承がある。


ウラユリ(Urayuli)。

南西部の山岳地帯に生息する、オークやウェンディゴに似た別種の人型魔獣。

身長十フィート(約三メートル)で、長く毛むくじゃらの毛並み、発光する目、足首まで届く長い腕を持ち、アビのような甲高い鳴き声を発するとされている。

攻撃性はウェンディゴには及ばないが、縄張り近くに来た生物には容赦なく、魔法的な攻撃で立ち入らせないと呼ばれている。


スピアフィンガー (Spearfinger)。

ウィンザーグローブ近くの山脈の森林や谷に夜間に現れる、石の皮膚を持った魔女のような人型魔獣。

長く鋭い槍のように伸びる人差し指を持ち、動物や人間の肝臓を狙うとされる。


チュパカブラ(Chupacabra)。

南西部から東北部に至るまで、広い地理的範囲で目撃報告がある不気味な怪物。

二百年前に初めて報告された際のチュパカブラは、爬虫類のような外見を持つとされていた。

体高が5フィート。二足歩行が可能なトカゲの様な見た目。

灰色や茶褐色で、鱗のような質感の皮膚。

頭部から背中にかけて鋭い骨の棘(トゲ)が並んでいる。

大きく、暗闇で赤や黄色、あるいは黒く光る。

コウモリのような翼を持つという報告や、牙を持つという報告もあった。


まだ名前が付いていない様な未確定魔獣もいる。

冒険者組合では『角のある蛇(Horned Serpents)』と呼ばれていたそうだ。

鱗に覆われた巨大な龍のような見た目。角と長い牙を持ち、水、雨、雷、稲妻の魔法を放ち、湖や川、または地下世界に住むと噂されている。冒険者の中には、光る結晶の鱗と額のダイヤモンドを持っていることから、一攫千金を狙って探す輩もいるそうだ。


「最後の角蛇は眉唾の噂かもしれないな」


「レオン、そう言う意味じゃ、全ての魔獣が尾ひれの付いた噂しか情報がないよ」


「ウェンディゴ、ウラユリ、スピアフィンガー、チュパカブラは討伐記録はあるの? 目撃証言だけ?」


「目撃証言だけだね。そういう意味じゃ、公式記録に残っているのはサンダーバードだけだ」


「ん? チャック、どういう意味?」


「サンダーバードは死骸が冒険者組合に運ばれた記録がある。討伐されたのではなくて、空から落ちて死んでいたサンダーバードが冒険者組合に運ばれ、解体された記録が残っている。他の魔獣はあくまでも目撃証言だけだってことだね」


「ふーん。じゃあ、実際に遭遇してみないと、本当のところは分からないってことだね」


「そういうことになるね。ララちゃん、何の素材狙い?」


「魔石を持っていそうな魔獣は倒しておきたいよね。武器や防具になりそうな素材であればそれも。ララの個人的な希望は『霊草』とか『神草』とか呼ばれている薬草をゲットしたい」


「スピリトゥアリス草(Herba Spiritualis)、ディウィナ草(Herba Divina)とか言われている薬草だね。どこにあるかも分からないけど……」


「うん。霊草は紫色の葉って言うし、神草は白い花が銀の器みたいに見えるみたいだから、見れば分かるらしいんだよね」


「分かりました。各魔獣の見た目の特徴だけでなく、霊草と神草の情報も各兵士達には覚えておかせます。ララ王女殿下が御所望だと言えば、皆がそれを探すことでしょう」


「ペレイラ司令官、皆、魔獣の警戒を優先してね。薬草ばかり探して下ばかりを見ていないように」


「ははは。かしこまりました」


※


ユニオン・リパブリックを西に向かうと、グレートハーモニー湖という双子の湖がある。

西側の湖に面した都市が、グレートハーモニーという西部の街だ。

ユニオン・リパブリックでは、オールド・ウェスト(Old West)と呼ばれることもある。

私達は、アメリカーナ西部国立公園に入る玄関口の街を最初に訪れた。


首都フリーダムランドからは土を固められた国道しか走っていない。

谷間を走る一本道を進むと、やがて地平線の彼方に、ひっそりと湖の隣に佇む街の輪郭が浮かび上がってくる。

この辺までくると、ユニオン・リパブリックではお馴染みの濃い霧はなく、抜けるような青空が谷間の両側の山脈を縫って広がっている。


オールド・ウェストと呼ばれた街の中心には、くすんだ色の木造建築がごちゃごちゃと建ち並んでいた。

サルーン、役所、雑貨店、教会、そして郵便局。

それらはすべて、谷間を流れる風と強い日差しにさらされ、年月を経た風合いを帯びている。

軒先には馬がつながれ、板張りの歩道を硬い皮のブーツが踏みしめる音が響いていた。

一応、国では五本の指に入る大きさの都市と呼ばれているけど、そのメインストリートは一本道で、行って帰って1時間もあれば十分に歩き尽くせるほどの規模だった。

それでも、レストランや教会、郵便局などが実際に機能しており、西部劇のセットのように見えながらも、人々の生活が息づいている。


建物の様式は、日干し煉瓦で主要部分を組み、木造のテラスやバルコニーが設けられた構造が特徴的だった。

街のメインストリートには、銀行、浴場、納屋、監獄、床屋、歯医者、雑貨店などが並び、それぞれが木造の低層建築だ。

建物の壁にはレトロな装飾品が飾られ、使い古されてこなれた風合いを醸し出している。


男性の服装は、まあ、いわゆるワークシャツだ。ごく普通の地味なシャツ。

ズボンはコットン製の地味なワークパンツや、ウールのズボンを着用している。ベルトではなくサスペンダーで留めるのが他の国とは少し異なったところかもしれない。

私が個人的に興味深かったのは、帽子だ。

ラビット系の毛皮のフェルト製の帽子。私のフェドーラ帽に良く似ている。

つばはフラットなままで、雨風をしのぐ役割を果たしているのだと思う。

思わず、笑みを浮かべて、私は帽子のつばに手をやってしまったほどだ。

防水用にオイルを染み込ませたリネンのダスターコートや長いブーツを着用しているところを見る限り、この街では着飾るよりも、すべてが実用性を重視という感じなのだと思った。


「エッジ・シーカーの皆様。ようこそ、オールド・ウェストへいらっしゃいました。冒険者組合支部長のフォードと申します」


この町に良く似合う木造の二階建て建物。

スイングドアを押して中に入ると、奥には酒場が見えるのも田舎の冒険者支部っぽい。

受付から二階に案内されて面会したのが、このフォードという支部長さんだ。

ベンジャミン・フォード (Benjamin Ford)。

ユニオン・リパブリックの中では、最も冒険者が賑わう街。そこを束ねる支部長だ。

冒険者が賑わうのは、もちろん、アメリカーナ西部国立公園、強いては聖域と呼ばれるプリモーディアルの森を守る街だからである。

中心部は立ち入り禁止と雖も、その近隣の森に生息する魔獣や薬草は多種多様であり、冒険者からすると『稼げる街』である。

それは、北黒の森や『パークラーンの森』でも同じだった。


フォード支部長は元冒険者であるのだろう。

大柄で筋骨隆々の体躯をした人だった。

頭の毛の薄さは、彼の年齢を想起させるものだ。


「エッジ・シーカーのチャールズ・アシュトンです。首都フリーダムランドの冒険者組合本部で、アメリカーナ西部国立公園の情報は入手させて頂きました。今回は一応、御挨拶に立ち寄ったという訳です。入手した素材の売却もありますので」


「ありがとうございます。エッジ・シーカーの方々なので、伝説の魔獣も討伐する可能性があると、本部からも伺っております。こちらで対応させて頂きますので、帰りも立ち寄って頂ければと存じます」


アス姉がいないので、支部長とのやり取りはチャールズが矢面に立ってくれていた。

私はただ聞いているだけである。

一通りやり取りが終わって、軽い雑談が始まったところで、私も会話に参加することにした。


「フォード支部長。この町にはカサ・デ・アグア軍は来ていないのね?」


「はい。一応、ユニオン・リパブリック軍が小隊で駐留して対応準備はしております。ただ、西部の田舎町ですからな。首都だけでなく、南部のオークリッジ、リバーヘイブンの街を落とす方が優先でしょう。サンパウリーナ、ラージャスティに繋がる統一街道を確保できますからな。オールド・ウェストは冒険者以外には特に魅力的じゃないでしょう」


「なるほど。この町には使徒さんはいない?」


「使徒? ああ、女神の使徒ですな。この国の冒険者にはおりません。軍に有名な二人がおりますがな」


「軍に? ああ、何か聞いたことがあるかも」


「はい。クレイグ親子という有名な二人がおります。母の方がユニオン・リパブリック陸軍の中尉殿でな。非常に高名な英雄です。その息子が皆様と同じ年代の使徒ですな」


「お母さんが軍人さんなんだね……」


母の陸軍中尉さんがオリビア・クレイグ (Olivia Craig)。

息子の方は『選ばれし使徒』だ。ジャスティン・クレイグ(Justin Craig)。

支部長さんは、ジャスティン君の詳細を知らなかった。

これはフィオナお婆ちゃんに聞いた方が良いだろう。


「ちなみに、サンダーバードとかが、この町まで飛んでくることはないの?」


「五百年前に非常に大きな被害があったという伝承が残っています。その時は、アメリカーナ西部国立公園の空にズメイ・ゴリニチという大型の魔獣が現れて、サンダーバードが逃げ出したことが起因と言われています。この街に関しては、それ以外はないですが……。実は近隣の村にはたまに被害があるのです。特に南西部の村は」


「なるほど」


サンダーバード対策でコクリュウを呼ぶことを考えていたけど、悪手かもしれないなと考え直した。

サンダーバードをやっつけるためならまだしも、それによって、サンダーバードが逃げ出して、この町に被害あるのはマズい。


私達は、支部長に挨拶して、冒険者組合を後にした。

建物の外で待っていた三人の司令官たちと合流して、近くに停めてあったUFO号のところまで転移する。

ここから、南西方向に少し飛べば、アメリカーナ西部国立公園の入口だ。

収納にしまっている兵士達を呼び出して、進軍することにしよう。




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