幻影の使徒エスティ
ミョンジュ共和国首都セジュンの報告は、夕ご飯を食べながら聞いた。
セジュンに生成した迎賓館と繋がる扉も、そのままで良いそうだ。
今は戦時中なので、多くの会議や出入りもあるだろうから、大きな会議室に繋げておくことが適切らしい。
戦争が終わったら、目立たないところに繋げ直すとのこと。
私はお腹もすいたし、眠かったから、早々に帰らせてもらったけど、あの後、セジュンでの話し合いは、かなり長くまで続いたそうだ。
チャールズ達は、報告をして帰ってきたみたいだけど、ナナちゃんは最後まで残ったそうだ。
大変、お疲れ様でございます。
結局、真理伯母さんと隆叔父さんだけでなく、ミナセ共和国の佐藤首相や外務大臣、橘総統まで含めた話し合いが行われたそうだ。
ミョンジュ共和国側も首相、大将を筆頭に関係者が勢ぞろいしたそうである。
基本は首都セジュンより北側、そして西側をバイシン帝国から、どうやって取り返すかの話がメインだったらしい。
バイシン帝国は兵力も多いので、かなり大変な戦いになる。
ミナセも、ここが正念場と多くの戦力を投入するみたいだ。
「あ、ララ、外壁の結界をそのままにしてきちゃった」
「はい。急ぎではないですが、どこかのタイミングで解除してほしいと言われております。その時に今回の支援の御礼をかねて食事会をしたいと言われております」
「えー、偉い人と一緒なんだよね。別にいいよ」
「ふふふ。ララさん、ミョンジュには私達と仲良しの二人がいるのよ。紹介したいわ」
「真理伯母さんの友達? 十王とか知性の使徒さん?」
「そうね。ハナとソンギュって言うんだけどね。ハナはマリーさんに似ているかしら。自由を求めて戦う元気いっぱいの女性よ。ソンギュは隆お兄さんみたいな感じよ」
「わかった。真理伯母さん達の友達ならいいよ。大臣さんとかは御遠慮頂きたい」
隆叔父さんが苦笑を浮かべていた。
お母様は手元に手をやって笑いを堪えている。
「ララ様、捕えている兵士ですが、一旦、そのまま収納したままで良いです。ただ、指令本部と呼ばれていたテントにいた者たちだけは渡して欲しいと言っています」
「分かった。訓練場で取り出すから、連れて行って」
「はい。明日にでもエドゥアルド隊長達を呼びますので、その時にお声がけします」
「真理伯母さん、ドローンを飛ばされないためにも、各町の教会にある自動機械は除去しておいた方が良いよ」
「ああ、それは俺が言っておいた」
隆叔父さんが既に手を回していたみたいだ。
橘総統率いるミナセの軍人さんは強いけど、ドローンの機関銃にはやられちゃうと思う。
「じゃあ、次にララがやることは何?」
「ララちゃんや、ミョンジュの支援はミナセに任せて、カサ・デ・アグア軍を何とかしないとさね」
「分かったよ。じゃあ、ユニオン・リパブリック方面に行くか」
戦車部隊がいなくなったにも関わらずカサ・デ・アグア軍はユニオン・リパブリックの各都市を攻撃するのかな。
そもそも戦車部隊が壊滅したのを、彼らは知っているのかな。
カルロスの王様は、今、フィオレンティアにいる。
アス姉と一緒に連邦国の事務次官として働きたいと本人が言っているのだ。
フィオレンティアに家族で住める屋敷を用意してあげた。
もうカサ・デ・アグアという国は無くなったのだ。
それを兵隊さん達に教えてあげれば、投降するんじゃないのなか。
そんなことを考えていたら、不意に声が上がった。
「交渉したい」
そんな声だった。知らない人の声だった。
「お前、誰だ!」
「敵襲!」
いつの間にか、私の首にナイフが当てられている。
その声は、私の背後からかけられたみたいだ。
この場にいる全員に私は魔力を展開して、鎧魔法をかけた。
当然、自分にも。
そして、いつでも背後の人を収納できるようにしてある。
私は皆を安心させるためにも、手を下に向けて、落ち着く様に言う。
今にも飛び込みそうなチャールズとマリーには特にだ。
まあ、彼らなら、この後ろにいる人が気付かない間に制圧することは出来るだろうけど、誰にも気づかれずに、この部屋まで侵入してきたのだ。
何か特別な能力を持っているだろうし、それをまず知った方がいい。
あれ? 突然現れた話、どこかで聞いたばかりだな。
「えっと、顔が見えないけど、きっと焦げ茶の肌色を持つ子だよね? えっと名前は何て言ったかな。カルロスのオジちゃんが教えてくれたと思うけど、ララ、忘れてしまったよ。カサ・デ・アグアにいる選ばれし使徒だよね?」
私の横に座って、凄い顔で睨んでいたナナちゃんがハッとした顔をした。
「ララ様。エステバン・ロドリゲス(Esteban Rodriguez)。確かカルロス・デ・ラ・トーレ元国王陛下は、自国の選ばれし使徒のことを、そう仰っていました」
「ほう、僕の名前を知っているんだね」
「うん。すごいね。誰にも気づかれずに、ここまで入って来られるんだね。どんな能力を持っているの?」
「交渉がしたい」
私の質問に答える気はないようで、一番最初に投げかけた言葉を再び口にした。
「うん。まあ、話は聞くけどさ。席に座ってよ。何か食べるなら出すけど?」
「はは。終末の使徒は余裕だね。首に当てた刃に力を入れたら、流石の君も死んじゃうんだぜ?」
「やってみなされ。ララちゃんを殺せるのならばやってみなされ」
「そうね。ナタリアの言う通りだわ」
「そうだね。誰もララちゃんを殺すどころか、傷一つ付けることは出来ないよ。やってみなよ。そのナイフをちょっと力を入れて押し込めば分かるさ」
「おい、無礼者。その無駄な行為を早く終わらせろ」
「やらないのなら、ワタシが制圧するわ!」
お母様を筆頭に次々と仲間たちが声をあげる。
後ろから小さい声で「何なんだ? コイツらは……」という呟きが聞こえた。
ナイフがふっと下に降りて、私の右腕を斬りつける。
でも、勿論、結界の上で滑っているだけだ。
「あれ?」
「うん、エステバン君。ララを刺すのは無理なの。話し合いたいなら、聞いてあげるから、座りなよ」
ムキになって、右腕にナイフを思いっきり差し込むけど、カンって結界に弾かれた音がするだけだよ。
ナナちゃんが物凄い怖い顔をして、椅子から立ち上がった。
チャールズが、レオンが、ゲオが、アリシアが立ち上がる。
ナイフが腕から離れる。
私の背後に立っていた人の気配が消えた。
「お、消えた!」
「消えたわ!」
「透明化か?」
既にダイニングルームは私の結界で囲まれている。
もし転移能力とかなら、結界に関係なく出入りできるはずだけど、そうじゃないみたいだ。
エステバン君を魔力で掴んでいるので、どこにいるかは私には分かる。
今、ダイニングルームに張り巡らされた結界に気付き、その結界を触りながら移動しているところだ。
透明化魔法。
私のとは少し違うみたいだけど、透明化して移動することは出来るみたいだ。
「いるよ。今、そこにいる」
私が指さしたところに皆が視線を向ける。
すると、エステバン君は、結界に沿って移動し始める。
私は指した指を動かして、彼の動きを追った。
「見えないよ、ララちゃん」
「うん。じゃ、少しだけ色を付けるよ」
エステバン君を掴んでいた魔力を使って、結界を纏わせる。
それを曇りガラスにした。
人型の曇りガラス、すごく不気味だ。
「なんか、気持ち悪いわ」
これまで黙っていたフローレンスが呟く。
「うん、分かるよ。エステバン君、とりあえず座って話そうか」
フワッと彼から魔力が迸った。
するとダイニングルームの外に沢山のカサ・デ・アグア軍の兵士たちが現れた。
チャールズが、レオンが、アリシアが、ゲオが剣を抜く。
「ふむ。なるほど。召喚魔法だったら、厄介だなと思っていたけど、違うみたいだね。チャック達、大丈夫だよ。その兵士はただの幻影だよ。実体はない」
「ボブ、その兵士さんたちに触ってご覧。大丈夫、剣を振ってきても当たらないから」
ダイニングルームの出入り口で控えていたボブが、恐る恐る兵士達に近づく。
兵士たちが剣を振ってくるので、「ウワー」とか言って腰を抜かしている。
平気だって言ったのに。
四つん這いになって、その足に触れた手が、空を切った。
「幻影魔法なのかな。自分の姿を見えないように幻影をかける。存在しない物を見えるようにする。うん、凄い魔法だね。それに私達が兵士達の襲撃に慌てて結界を解除したら、その隙に逃げるつもりだったと。知恵も回るね」
「でも、もう逃げられないでしょ。ララちゃん、いつでも転移魔法で、コイツの近くに出現出来るよね?」
「うん、チャック、幻影の使徒エステバン君の魔力は覚えたよ。いつでも、捕まえられる」
「マジかよ、チートじゃん」
「あ! この子、チートって言葉使ってる!」
「山猿、落ち着けよ、選ばれし使徒だぞ、当たり前だ」
「まあ、ララの魔法は本当にチートだしな」
「ララ様、コイツは殺しましょう」
最後のナナちゃんの発言だけが、物騒だよ。
未だに凄い顔で怒ってるし。
「まあ、ナナちゃん、まずは話を聞いてみようよ。エステバン君、座りなよ。交渉したいんでしょ?」
エステバン君は、ハーっと溜息を付いて、幻影魔法を解除した。
私も纏っていた結界を解除してあげた。
仲間にかけていた鎧魔法も解く。このままだと、お茶も飲めないからね。
「ボブ、悪いんだけど、何か飲み物をお願い」
「は。かしこまりました」
ドカっと座ったエステバン君を見る限り、やっぱり、まだ成年前の子供だなと思う。
焦茶の肌に黒髪、黒目。
サンパウリーナの人達によく似た風貌だ。
「それで、エステバン君の望みは何?」
「命の保障。安全の確保。可能なら雇って欲しい」
「ララ様を人質にしたにも関わらず、何を言ってるのだ。殺しましょう」
「ナナちゃん、落ち着いて」
「その要求なら、わざわざ刃を向ける必要はなかったよね? 本当の要求は何だったの?」
「国王の釈放。停戦と不可侵条約締結」
「なるほど。それは諦めたと。そもそも王様は捕らえてないしね。今、幸せそうに違う土地で生きているよ」
「なっ!」
一瞬、カッとなったみたいだけど、すぐに気持ちを落ち着けたみたいだ。うん、この子は賢い子だ。
「国をそのままにしてもらえば、僕もそのまま暮らせるしね。でも、到底勝てる相手じゃないってことは分かった。だから、国は諦める」
「だから、自分だけは助かりたいと。都合の良い奴だな。兵士の風上にもおけん。殿下に刃を向けた以上、死んでもらうべきだ」
珍しくアリシアが不機嫌な顔をしている。
まあ、アリシアにしてみれば、敵国だった訳だしな。
「まあ、ゲオも最初はララちゃんに敵対して、ボコボコにされて泣きながら仲間になったしな」
「おい、チャック! 俺はララを殺そうとはしていないぞ!」
「そう言う意味なら、チャックだって同じじゃ無い」
フローレンスに突っ込まれて、チャールズが呆然としている。
いや、ララ達に剣を向けたのはチャールズじゃなくて、片目のオジちゃんだった気がするけど。
「まあ、簡単には信用されないよな。何か信用して貰えるような話は出来るのかい?」
レオンに言われて、エステバン君は顔を上げた。
少し考えてから、ポツリと話し始める。
手土産としての情報みたいだ。
「カサ・デ・アグア軍の人数、配置とかは情報提供出来る。僕が行けば、投降の呼び掛けもちゃんとやれる」
「味方を簡単に裏切る奴は信用できない」
アリシアにバサっと切って捨てられた。
「エステバン君。国王のオジちゃんから聞いた話、いや、ララが受けた印象だけど、元々、カサ・デ・アグアに忠誠を誓っていないよね? 何のために雇われたいの? 何のために生きていたいの? その辺を正直に言ってもらう方が良いと思うよ」
エステバン君は顔を上げて、何かを話そうとする。
でも、また下を向いて口を噤んだ。
何度か、同じ様な事を繰り返す。
なかなか、話す勇気が起きないのか、それとも適当な話を作っている最中なのか。
ナナちゃんが、我慢しきれずに、「コイツは殺しましょう」と言う。
アリシアもそれに乗っかるけど、他の人たちはキチンと待ってくれていたよ。
「母が病気なんだ……。ポーション代が必要……」
凄く小さな声で、エステバン君が呟いた。
ナナちゃんが、「何をありきたりな話を!」と興奮するのを手で制する。
フローレンスがハッキリとした声で質問した。
「どんな症状なの? ポーションってことは、お医者様の薬草じゃダメってことなのね?」
「エステバン君、フローレンスはお医者様だよ。ちゃんと話してみて」
「医者って……、ララもじゃない」
「ララは薬師さんだもん」
フローレンスが上手に聞き出した内容をまとめると、こんな症状だ。
湿疹、発疹、鱗屑と痂皮、皮膚の肥厚、苔癬化、気管支喘息、重度の鼻炎。
「アトピーマーチ(アレルギーマーチ)かしら」
フローレンスが言う。
季節による症状の差はあるけど、アレルギー起因なのは間違いないだろう。
「エステバン君、自宅は綺麗?」
「自宅? ああ、僕が小さい時はボロ屋だったんだ。スラムの端で縮こまって生きていた。でも、その環境が悪いのかと思って、今は大きな屋敷に住ませてるよ」
「なるほど。その能力を使って、沢山お金を盗んだんだろうね」
ナナちゃんが、また厳しい顔を向けるけど、小さい子が何とかしようと頑張ったんだよ。
ある程度はしょうがないと思う。
「あなた、お母様、連れてきなさい。私とララで診るわ」
「うん。アレルギー起因だとしても、原因を探らないとね。エステバン君、この迎賓館でポーションを作っているんだ。だから、もう買わなくて良いよ。皮膚に良いお湯も提供出来る。しばらく、ここに預けるのが良いと思うよ」
「人質か?」
「あんたね! いい加減にしなさい! 人質だろうがお母様が助かるのが第一でしょ! スラムで生きるのは大変だったのだろうけど、あんた一人じゃ、助けられないのよ! 腹括りなさい!」
このテーブルで最も綺麗は顔をした女の子に、どやしつけられて、エステバン君もタジタジだ。
チャールズが笑って、エステバン君に声をかける。
「まあ、僕らの中には君を信用しないのもいるだろうけど、君は僕らを信頼して良いと思うよ。ララちゃんもフローレンスも世界一の医者だ。二人に預けた方が良いよ」
「そうさな。事実上の人質になるのだろうけど、互いにとって最善さな。母上はフローレンスに預ける。お主の身柄は妾達に預けよ」
「お母様?」
「ララちゃんや、この子はレナに預けなされ。この子の能力をレナならば最適に活かしてくれるだろうさな」
「うん。わかったよ。エステバン君。交渉は成立かい?」
「僕に選択肢はないのだろう?」
「そんなことないよ。もう普通に帰ってもいいよ。好きに生きればいい。何かララ達に悪い事をするのなら、次は容赦しないけどね」
「ララ様! 甘すぎます!」
私が言ったことが意外だったのか、エステバン君は口を開けて私を見る。
そして、少し考えたのか、キチンとこちらを向き直してから言った。
「いや……、どうか母を助けてください。僕も精一杯働きます。お願いします、お願いします」
テーブルに手を付いて、ちゃんとお願いしているよ。
俯いた顔から、涙が流れている。
ナナちゃんとアリシアだけが、嫌そうな顔をしているけど、他の人たちはもう受け入れているよ。
甘いのは私だけじゃない。
「エステバン君、チャールズとレオンと一緒にお母さんを連れておいで」
※
レオンが担いできたエステバン君のお母さんは、想像よりも遥かに酷い状態だった。
身体中が赤くなり、手足の皮膚はボロボロだ。
痒さでかいてしまったのか、ところどころがジュクジュクしていた。
これまで、薬草を貼って症状を抑え込んでいたのが、近年効かなくなってきたそうだ。
そんな時に、冒険者組合で見つけたのが、私達が作っていたポーションと塗り薬だ。
これが効果覿面だったらしく、輸入されているユニオン・リパブリックのフリーダムランドに何度も足を運んで購入していたそうだ。
でも、毎日使用できるほどの量を確保出来るはずもなく、カサ・デ・アグア軍のユニオン・リパブリック侵攻は、彼にとってみると渡りに船だったと言う訳だ。
迎賓館のお風呂に浸かって、ポーションと塗り薬を大量に塗りたくった。
フローレンスは回復魔法を重ねがけして、何とか見られる状態にまで持っていった。
身体が炎症を起こしているので、炎症止めの薬草は、毎日三回飲ませるのが良いだろう。
あとは時間をかけて、アレルゲンの特定をしたい。
「エステバン君、本当は女子エリアは男子禁制なんだけど、今日は特別に入れてあげるよ。お母さんの様子を見てあげて」
そう言って、連れてきたエステバン君は、未だ十歳の子供の様に見えた。
症状が改善した母の胸にうずくまり、ワンワンと泣いたのだ。
「エスティ、皆様の役に立つ事で、ご恩を返しましょうね。私ももう少し良くなったら、ジョディ様のお手伝いをすることにしたわ」
「はい……。働いて、恩を返します」
「十日は安静にしましょう。回復液のお風呂に浸かり、ポーションと塗り薬で症状は抑え込めます。この迎賓館にいるうちは何とかなるでしょう。でも、ゴールは外で暮らす事が出来るまで回復することです」
「はい。フローレンス先生。仰せの通りにいたしますわ」
お母さんはニッコリと笑った。
ジョディの手伝いをしてくれるのであれば、私達としては、ずっと居てくれても構わない。
でも、いつでも外で働ける様な健康体になることがゴールなのも間違いない。
「お母さんに会いたくなったら、女子の誰かに声かけなさいね。勝手に姿を消して入り込んだら、ダメだからね、エスティ」
フローレンスに『エスティ』呼びされて、一瞬、戸惑いの表情を見せたけど、すぐに「はい。分かりました。フローレンス先生。母をお願いします」と言って、頭を下げた。
その日、もう夜中になってしまったけど、アス姉やレナさんとも顔合わせ出来た。
レナさんはちゃんと預かってくれたよ。
レナさんには、エスティも素直だった。
何となく、お母さんと同じ様な感じがするからだろうか。
アス姉とレナさんには、この世界に転生してからの話を全て話していた。
父を亡くして、スラム落ちしてからの話は、本当に過酷な生活だった。
色々な人に騙されて、稼いだお金を奪われて、誰も信用出来ない生活をしてきたそうだ。
アス姉とフローレンスが、私達がやってきた活動を説明して、メーガンちゃんの貧民街撲滅活動も教えてあげていた。
「自分も、その活動がしたいです」
エスティは真剣な顔で、私たちにそう言った。
カルロスの王様が言っていた『何を考えているか分からないヤツ』というエステバン君は、もうそこにはいなかった。
「エスティ、もう少し大人になったら、やりたいことをやらせてあげるわ。でも、暫くは私と行動を共にして学びなさい。色々な国で色々な事を見られると思うわ」
「分かりました。レナさんお願いします」
「エスティ、貴方の魔法は素敵なギフトね。でも、この迎賓館の中での使用を禁じます。まずは私たちにその誓いをしなさい」
「分かりました。アストリッド様。迎賓館で魔法は使いません。母と僕の命に賭けて誓います」
「重いわよ。命なんて賭けなくて良いわ。ここはアス姉様みたいな綺麗な女性が住んでいるの。だから、怖がらせたり、不安にさせるのはダメってことよ」
「はい。フローレンス先生。承知です」
「ふふ。随分と素直になったね。エスティ、もう一つ教えて。女神からの神託はどんなだったの?」
「僕は教会に行った事がない。でも、一度だけ、戦争後に首都で頭の中に声がした事があった。『終末の使徒と出会ったら、隙を付いて殺せ』と」
「ふふ。隙を付けば、本当に殺せたかもしれたのにね」
「いや、僕は母の命を救いたいだけだから。神の存在なんて、全く信用していない」
「そうだね。ブレないエスティは分かりやすくていいよ。はい、これが頭の中の自動機械ね。もう神託はないと思うよ」
エスティは、私から小さな自動機械を受け取って、コロコロ転がして眺めた。
すぐに興味を失って返してきたけど。
「来いよ、エスティ」
「エスティ、お前の部屋に案内してやるよ」
「エスティ、お前は俺の部屋の隣な」
後ろから、チャールズ、レオン、ゲオにニヤニヤ顔で『エスティ』呼びされている。
アス姉からも、私物を自分の部屋に入れて片付けなさいと指示されて、エスティは立ち上がった。
レナさんから、明日朝から色んな所に連れて行くから、今日は風呂入って寝なさいと言われる。
男子達と肩を組んでエスティは連れられて行った。
「レナさん、ありがとう。エスティのこと宜しくね」
「いいえ、また仲間が増えて嬉しいわ」
「危うくエスティは、ナナに殺されるところだったわ」
フローレンスの言葉をうけて、皆がナナちゃんを見る。
ナナちゃんは、表情一つ変えずにシレっと言った。
「さあ、ララ様、もう夜中です。そろそろお休みしましょう」
「はいはい。ナナちゃんもブレないね」
私も立ち上がって、一つ伸びをした。




