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久方の学園

俺たちは玄関先でニーナと落ち合い、そのまま学園へと向かってきていた。


レーネとゼロには当然、幻影魔法をかけて隠してある。


長い出張の後の学園はとても平和に見え、活気づいているようだった。


あれだけ大変なことがあった後だと、その温度差でなんだか呆気にとられてしまう。


それほどまでの安心感をこの学園にいると覚える。それは学園長のこの学園を覆い尽くすほどの巨大な魔法の影響もあるのだろう。


そう言えば、サラとエメに会っていない。報酬の件は恐らく、今回は作戦失敗ということになっているだろうから報酬は望めないだろうが。


あの時、確かにエメをサラに預けた。だから二人とも無事ではあるのだろう。第一にあんな所で死ぬようなタマじゃないのは檻の中で嫌という程見せつけられている。


とりあえず、軍はしばらく学園にいるだろうし、その時にでも会えるか。俺が無事であることもちゃんと伝えないとな。


「何か考え事ですか?」

ニーナが不思議そうにこちらを覗き込む。


「いや、少し気が抜けていただけだ」


「そんなに大変だったんですか?今回の出張」


「ああ。結構疲れたよ」


「もう少ししてからいいですから脳内構築魔法の練習、付き合ってくださいよ?」


「もう出来てるんじゃないのか?」


「それはそうですけど..........」


「?」


ニーナは何か言いたげにもじもじとしていたが、急に思い出したように声を上げる。


「そうっ!試験が近いですから!試験が!」


大事なことのように二回繰り返す。


「試験がまたあるのか?」

言われてみれば一回目から大分時間が経っていた気がする。


「当然じゃないですか」


また前と同じ感じでやるのか。イヨは大丈夫だろうか。

まあダメそうなら対策すればいいしな。


階段を上り、学園長室へと真っ直ぐ向かう。


軍の人間にゼロを見られる訳にはいかないので、魔法で隠しているとはいえ自然と緊張する。


しかし、辺りを見渡しても軍の人間らしきものは見当たらない。


確か、前は軍と学園が連携するような事を言っていた気もするが.....。


「先生、そろそろ魔法を解いてください....その.....その子の」


俺はそう言われ、ゼロの魔法だけを解除した。


「まだ名前を言ってなかった。ゼロって言うんだ」

ゼロは人見知りなのか俺の後ろにすぐさま隠れるようにして目も合わせない。


「そうですか。よろしくお願いします。ゼロさん」


「.........うん」


ゼロは伏し目がちにそういった。


「悪いな、人見知りなんだよ」

まあ本当は人見知りというか人間不信に近いんだろうがな。


俺はこの学園でそれを取り去ってやりたいとも思っていた。

少しでもトラウマが忘れるように、と。


「いえいえ。じゃあ入りますよ」


ニーナはコンコンとノックを入れ、合図があった後に中に入る。


そこにはいつも通り学園長が椅子に深々と腰を落として座っていた。


そして手元では何やら書類を書いていた。


「お母様。少しお話が」

「なんですか?」

「その....。この子を.....学園に入れたいのですが.....」

「その子を.....?」


しばらくの間、沈黙が流れる。


その圧迫的な空気に押し潰されそうになる。


やはり、ニーナからの頼みでも厳しいのだろうか。


「随分と急でしかも話が良く見えませんが?」

「それは・・・」


ニーナがこちらをちらりと見る。


「申し訳ありません。俺が無理を言いました。こいつは俺が出張中に引き取りました」


出張という言葉は学園長の表情を変えた。

「出張中に、ですか......」


「こいつは孤児だ、それでこの間の出張で」

「待ちなさい」


そこで学園長に突然、話を遮られる。


すると学園長は指先を下向きにに突き立て、そのまま机を一度叩いた。


その瞬間、部屋全体に魔法陣が現れる。


「これで盗聴される恐れはありませんね」


「盗聴?」


「ええ、念の為です」


「話を続けてください。気を使わなくても結構ですから」


「え.........?でもニーナが.....」


確かこの話は外に出してはいけない話だったはずだ。


するとニーナが気まずそうな顔をする。


「あの........私、席を外しましょうか?」


「いえ、残ってください。どうぞ、アルフ先生」


こちらをじっと見るその目は本気だった。俺はそれを見て話始める。

「こいつは呪詛学会に連れてこられた言わば被害者だ」


「え!?」


ニーナが途端に反応を示す。


「どちらから?」


「いや、それは分からない。幼少の頃の記憶がないらしい」


「そうですか、それで?」


「ああ。こいつをこの学園で学ばせたい」


「なるほど........」


すると学園長は顎に手を当て、何かを考える。


「なぜそうしたいのか、理由を聞いてもよろしいですか?」


「理由か......」


塀の中にいた頃、俺は自分の存在を証明するものがなくて不安な夜を過ごしていた。


一体自分が何者なのか、わからない恐怖。


恐らく、ゼロもまた同じ恐怖を抱えているだろう。


俺はそれを取り去ってやりたかった。


「すいません、少し語弊がありました。俺はこいつを学園に通わせたいんです」


「学ばさせたいのではなく?」


「はい。魔法を使うかどうかは本人に任せます」


「ここは魔法を学ぶ学園ですよ」


「分かってます。そしてこいつを学園に入れることのリスクも分かってます」


ゼロの正体がわからない以上、呪詛学会の回し者の可能性もある。


「けど、それを承知で頼んでます」


無理を言っているのは分かっているが、何としても俺はゼロをここに通わせ、新しい記憶を作ってやりたい。ゼロの存在を証明したいのだ。


俺は静かに膝と額を床につけた。


「お願いします」


「ア、アルフ先生!?」


それに合わせてゼロも口を開く。


「わたし....私........ここで勉強したい!、です。なので入れてください。お願いします」


そしてゼロも頭を下げた


その後のしばらくの静寂を学園長は破った。


「はぁ。分かりました。認めましょう。その素性の明らかではない少女の入学を」


「ありがとうございます」


「あなたには娘の分の借りがありますしね。ですが条件を提示します」


「条件?」


「その生徒と学園の繋がりは公にはしないこと、そして何が起きようとも学園は一切の責任はとりません」


「お、お母様!?」


「ニーナ。これは学園を守るのに必要なことなのです。これから少々面倒なことも起きますしね」


「わかりました。それでお願いします」


俺はほっと胸を撫で下ろす。そして生まれた疑問を突きつける。


「それで面倒なこと、とは?」


「直に分かりますよ。それとギル先生についてですが」


「はい」


ギルは一緒に作戦に参加していたはずだが、前線に配備されていなかったからおそらく無事だろう。


「休職届が提出されましたので、しばらくの間あなた方のクラスの担任はは副学園長に一任します」


「休職?」


「ええ。一年連絡がなければ退職という扱いにしてください、と書かれていました」


「・・・」


なぜギルがこのタイミングで.....?

胸がやたらざわつく。


「話は以上です」


直後、部屋中の魔法陣が崩壊していった。学園長が魔法を解いたのだろう。


同時にノック音が響いた。


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