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愛する人の仇

どれほど戦っているだろう。


私は全ての魔力を使って魔法を繰り出しす。


自分の全てを燃やして戦っていた。


それでも目の前の敵の高笑いを止めることは出来ない。

私がどれだけ体にナイフで傷をいれようとも余裕そうにしている。


血は出ている、なのに倒れない。


そんな相手に恐怖すら感じていた。


「どうした?この程度か?お前の俺への恨みは」

「く...........ッ!」


息が上がって、体中がだるくなる。


そんな自分が悔しい。


それをバネにまた攻撃を仕掛ける。


一回でいい。一回でも相手の奥深くにナイフを入れられれば、致命傷になるはず。


私はもつれる足を限界まで動かし飛びかかる。


魔法で逃げ道は塞いだ。


今度こそ避けれないはずだ。


「!!!」


私はやっとの事で相手の脇腹辺りにナイフをめり込ませる。


そして私は確かな感触を覚える。


内臓まで届いた、と。


私はその場から少し離れ、息を整える。


男はその場に臥した。


今度はその顔だ。その顔を原型も残らないほどズタズタにしてやる。


ナイフを持つ手はカタカタと小刻みに震えた。


大丈夫、大丈夫だ。


これが終わればすぐにご主人様に会える。そして楽になれる。


自分を落ち着けるように何度も唱える。


しかし男は私の想定外の行動をとる。


なんと、表情は変わらず笑ったままだった。


ただその恍惚とした表情は何かに取り憑かれているようだった。


男はナイフを抜こうとはせず、そのまま立ち上がりこちらを見た。そして言い放つのだ。


「こんなものですか?ははは」


鼻からは血が垂れ、顔色もかなり悪い。


けど笑っているのだ。


「キチガイが.....ッ!」


大丈夫。攻撃は効いている。


次で仕留め、ご主人様の仇をとる。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


体が訴える苦痛をかき消すように叫び、前に進む。


魔力で強化してる分、体はまだ動く。


それにまだ魔力もある。


私は脳内で魔法を練る。


そして地を蹴り、走る。


狙うのは首の動脈だ。


そこさえ掻き切ってしまえば、あとは自然と出血多量で死ぬはず。


ただそもそもこちらの狙いがバレてしまえば、相手は私を間合いに入れず、遠距離魔法で対応してくるだろう。


そのためこちらの狙いは悟られてはいけない。


「突っ込んでくるとはかなりの自殺行為だなぁ!?」


男は私の行動を見るやいなやこちらに手をかざす。


すると男の周りには無数の魔法陣が現れた。


恐らく先程とおなじ魔法弾を放ってくるのだろう。


ただそれは決まった方向にしか打てない。


魔法は突然方向変えたりすることが出来ないのだ。


向きや威力といった情報はあらかじめ魔法に命令する上で魔法陣に組み込まなければならないためだ。


そのため、魔法陣として目に見える形で現れた時点で魔法を放つ方向は決まっているということになる。


その点で脳内構築魔法は有利を取れる。


直前まで魔法陣を晒すことがないからだ。


私は頭で練った魔法陣を私のすぐ目の前と男の真横に出現させる。


「は?」


私が創ったのはワープ魔法だ。


本来、ワープ系の魔法は魔力をかなり消費するため非効率だとして戦闘では使われない。


しかし今の膨大な魔力がある私ならそんなものは関係ない。


私はその魔法陣に突っ込む。


当然、ワープ先は男の隣に創り出した魔法陣。


この一瞬で相手が反応することは不可能だ。


案の定、男はワープした先でもこちらを見ることはなく前だけを見て愕然としていた。


私はそのまま男の首筋にナイフを刺した。


しかし、私の足も同時に魔法に耐えられなくなりもつれた。


そのためナイフの入りは浅い。


ただ致命傷は与えた。


男の首からは血液が吹き出し、軍服を赤く染めた。


私もその返り血を浴び、視界が真っ赤になった。


「仇は.........取りましたよ、ご主人様」


私はその場に膝をつく。全身が硬直し、石のようになった。


魔法で無理をさせたツケが回ってきたのだろう。


でも今はもうなんでもよかった。


達成感と喪失感が同時に襲ってくる。


しかし達成感よりも家族を失った喪失感の方が何十倍も重く、私の心を強く圧迫した。


「ご主人様ぁぁ......ッ!!!」


独りよがりのようにその場で叫ぶ。


その叫び声を別の声が遮った。


私はまだ動く顔を声の方に向ける。


「ははは。何を.......言っている。私の勝ちだよ」


絶対に立てるはずのない男が目の前で立っているのだ。


あの出血量ではもう脳に血液が回らなくなって喋ることも出来ないはず......。


「どういう、ことですか........?」


そこで私の首に痛みがあることに気づいた。


見ると首元に注射器が刺さっているのだ。


中には黒い液体が入っており、だんだんと量が減っているのがわかった。


つまり私の体の中にその液体が流し込まれているのだ。


「く........なんですか、これは」


抜こうとしても体が動かず、どうにも出来ない。


私は地面にそのまま倒れ込んだ。


まずい.........。


「イリス様ぁぁ!!!私はやりましたよ。これで晴れて昇格出来る!!!」


男も狂ったように叫びながら、よろめき壁にぶつかりそのまま座り込んだ。


「は..........ははは」


「一体...........何を.......?」


体中が熱い。


魔力が抑えらない.........。痛い......。苦しい.....。


「ここもまもなく戦場に変わる。君は街を焼き付くし、やがてはこの国をも滅ぼす脅威へと変わる」


男はそれを言い終え、ぐったりとした。


私は唯一動く口だけを必死に動かし愛する人を呼んだ。


「ご...主人......様.......」

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