表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/119

謹慎明けの学園と教え子

あれから謹慎期間がようやく解け、俺は数日ぶりに学園へと出勤していた。


契約も更新したし、これからいよいよ教師として学園でやっていく訳だが.......。


俺は教室ではなく、図書館に向かっていた。


ギルの呆れたような顔が頭をちらつく。


どーせ、ギルは授業をさせてくれないだろうし、ニアには後で顔を出しておくか....。


古びた木の扉。


それを手で押し、館内に入ると古書特有のなんとも言えない心地のいい香りが鼻を抜ける。


館内はどのクラスも授業をやっているので誰もいない。


しかしこれじゃ、俺が謹慎明けに授業もせずにサボっているように見えるなぁ。


教室へ行っても基本座ってるか寝てるかのどちらかであまり変わらないんだけどな。


俺はいくつかの文献を探していた。


それはこの世界の神話などを取り扱ったものだ。


このくらいの規模の学園ならありそうなものだが......。


しかし、辺りを見回してもそれらしき分類はない。


仕方がない。一個一個探してくか...。



しばらくして、ようやくそれらしきものを見つける。


「魔法史、か.........」


まあ神話とは少し違うだろうが、これになら何か載っているかもしれない。


大分、風化して茶色く変色した本。


俺は魔法史と大きく書かれた厚ぼったい表紙に手をかける。


俺が本の1ページ目を開いた瞬間、目の前が不意に真っ暗になる。


「!?」


「だーれだ?」


いだすらっぽい子供のような無邪気な声。


どうやら手で目を覆い隠されたらしく、温度が目に直に伝わってくるので何だかくすぐったい。


そして俺は瞬時に声の主を悟る。


「ニーナだろ。何してんだよ」


俺が手をどけて、振り向くとケラケラと笑うニーナの姿。


相変わらず、綺麗な銀髪が体の動きに合わせて揺れている。


「当たりです~。先生、謹慎解けたんですね」


「まあな。........ってお前授業どうしたんだよ?この時間は確かギルの授業が入っていただろ」


「サボりました」


「はぁ!?」


「そういう先生こそサボりじゃないですかー。それに教師がサボるなんて私よりタチ悪いですよ?」


「俺はサボりじゃねーよ。」


数日ぶりにあったニーナは溌剌とした笑顔を向けてくる。


「そんなことより、先生は何をしてるですか?」


「ああ、これは.....」


「あ!ひょっとして画集の裸婦画でも探してるんですか?」


「んなわけねぇだろ!!」


小さい時たまにやってたけども....。


「ん?魔法....史?」


「ちょっとその手の資料探しててな」


「へー。それで何か書いてありました?」


俺はパラパラと本を捲ってみる。


中には新たな魔法を創り出すことに成功した偉人など名前が書かれているだけで俺が欲しい情報は何一つなさそうだった。


それにこの中の偉人もみんなきっちり全て男性魔法師で統一されていた。


本当に抜かりがない。


「これは違うな。次のを探すか.....」


俺はその本を元の位置に戻し、また新たなものを探す。


「なら、私も手伝いますよ。エロ本探し」


「だから違うって言ってんだろぉ!!」


さっきより直球になってんじゃねえか。


「はいはい。冗談ですよ~」


そう言ってニーナはキョロキョロと周りを見渡す。


やがて、何かを見つけたらしく背伸びをして古びて誇りをかぶった本を取り出す。


「これなんかどうですか?」


表紙には【魔法伝来とその後】と書かれていた。


これなら何かわかるかもしれない。


俺はそれを手に取ろうと本を触った。


すると、俺の指先がニーナの指と当たる。


「ひゃッ!.........!」


その瞬間、ニーナは小さな悲鳴とともに本から手を離す。


俺はそれを辛うじて手でキャッチする。


「す、すみません。急に手を離してしまって....」


「それは大丈夫だが......どうした急に」


ニーナの耳は真っ赤になっており、今にも湯気が立ちそうだった。


動揺してる........?あのニーナが?


「なんで動揺して....」


「してません。お母様に減給を訴えますよ?」


「マジサーセンした」


俺は反射的に謝っていた。わ


減給はまずいですよ!


どうやら、ニーナ様はこのことに触れて欲しくないらしい。


俺は気を取り直し、その本を開く。


そこには魔法がいつどのようにして伝来したかが書かれていたがそこにはやはり、女の登場人物は一切おらず、淡々と男の英雄譚のようなものが書かれているだけだった。


しかし、一つ気がかりだったのは伝来したとされる年と俺のいた世界の神話の魔女が処刑された年が一致していたことだった。


もし、サラの言っていたことが本当なら......。


俺の背中を汗が流れる。


本当に魔女は生きているのだろうか.....。


いや、根拠がなさすぎる。


こんな男の権威をあげるために書かれたような本を信用するわけには行かない。


もっと信憑性のある書物がなければ...。


しかし、改めてこの世界と俺のいた世界では魔法に対する扱いが違いすぎるな。


俺のいた世界では魔法は国を揺るがしかねない力で悪魔の象徴的武器だと決めつけられ、まさに『負』そのものだった。


魔女狩りなんてのはその象徴で密告者には国から多額の謝礼金が与えらていた。


そのため、金に困った貧困層が身内をどんどんと切り捨て国に魔女認定をさせ、それで生計を立てている、なんてのはザラだった。


そうして何人もの大人子供が焼かれてできた黒煙を塀の中から見る度、サラはあいつらこそが悪魔だと常々言っていのを思い出す。


その点、この世界は男女差別があるにしても魔法に対してある程度の権威があるのは本当に羨ましい。


もしもこっちの世界に生まれていたらどれだけの人が助かったのだろう....と時々考えてしまうくらいだ。


俺がどこを見るでもなくボッーとしているとニーナが俺の目を覗き込んでいるのに気づいた。


「先生?聞いてます?」


「お、おう、なんだ?」


「もうすぐ、授業が終わって一般の人とかきますよ?」


「ああ、そうか」


もうそんなに時間が経っていたのか。


俺は急いで本を元の場所へ戻す。


「あ、そうそう。先生、これお母様からです」


「?」


ニーナから手渡されたものは手紙だった。


学園長が俺に.....?


開くとそこには放課後学園長室に来るようにという内容が書かれていた。


「なんの手紙だったんですか?」


不思議そうな顔をするニーナ。


「ただの業務連絡だよ」


「そうですか.......」


大体なんの用事か検討はついていたが今は伏せておいた。


「ほら、お前は授業に戻れ」


「じゃあ先生も一緒に行きましょうよ~」


ニーナはせがむように俺のワイシャツの袖を引っ張る。


「まあ.......そうだな。せっかく出勤してるし俺も行くか」


するとニーナはぱあっと笑顔になる。


「それじゃあ、行きましょうか」


ニーナはぐいぐいと背中を押してくる。


「押すな押すな」


「早く~」


何だかニーナは前よりもずっと楽しそうな顔をするようになっている気がした。


あの日からニーナの中で何かが変わったのかもしれない。


ま、その変化は悪いことじゃないし別にいいが。


俺はそのままニーナと共に教室へと向かった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ