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再会と望んでいなかった報告

「それで早速本題に入るけど.......って何かその子からの圧がものすごいんだけど」


レーネは全身に黒いオーラを纏いサラにガンを飛ばしていた。


大方、報酬を貰っているところを邪魔されて拗ねているのだろう。


「ああ、気にすんな」


サラの目には珍しく怯えが見える。


「私、お客様にお茶を持って参ります」


俺は台所へ向かおうとするレーネの手を掴む。


「待て、お茶にヒ素は必要ないだろ。しまって来なさい」


「............承知しました」


「あんたとこのメイド、怖いわね.......」


「猫にマタタビを渋り続けるとどうなるか知ってるか?」


「し、知らないわよ」


「だろうな」


答えは主人をゴミを見るような目でみる、でした。


俺はそれでねだるレーネがついつい見いていたくてマタタビをお預けしていたら、そんな目で見られたことがあった。


「まあ、いいわ。単刀直入に言うわよ?」


「おう」


「軍は学園側に協力要請したわ」


「は!?」


「待って。もう少し詳しく説明するから」


「何をだ」


「前あった事件の全容よ」


そう言ってサラは軍服のポケットから四角く折り畳まれた地図のようなものをテーブルに広げた。


「いい?ここが学園でこの中央の大きな円が街。それでここを見て」


サラは俺から見て一番右上を指さした。


「これがどうかしたのか?」


「アリーナが襲われた日、同時にここも襲われたの」


「!?」


俺は思はず、身を乗り出す。


「ここには軍が押収したものから管理している魔道具まで全部置いてあって...」


そこでサラは一息置く。


「そこのものが全て奪われたのよ」


「じゃああいつが言っていた半分って....」


「多分これの事だと思う」


つまりあれは囮だったのか......。


しかし、もしそうなら囮であの戦力があるのかよ....。


あの日、俺とサラはあいつに手も足も出なかった。


それほどのものがただの囮に使われたっていうのか?


「警備は?」


「もちろん、こっちだって警戒してなかったわけじゃない。だから、軍の総戦力のうちの四割は警備に付けた」


「それで.....?」


「全滅よ....。一人残らずやられたわ」


「・・・。」


サラの眉間にしわがよっているのが目に映る。


まあ仲間がそれだけ死ねば、分からなくもない。


「それで学園側に協力を求めた、と」


「そう。まあ協力と言うよりは強制ね。流石に戦場に駆り出したりはしないわよ?」


「流石にか....」


「ただ、あんたのところは違う」


「へ.....?」


「軍は学園側にあんたとギル=フリークに次の作戦に参加するよう命令してるはずよ。」


「どうしてギルと俺が!?」


「あの教師、私はいけ好かないけど、この国有数のエリート魔術師なんでしょ」


「そうだったのかよ....」


全然知らなかった。そんなこと一言も聞いてないぞ.....。


「それにあんたはあのクソジジ.....上官殿の推薦だしね」


今一瞬、クソジジイって言いかけたぞこいつ....。


それに超めんどくさいことになってるし。


「まあ、安心しなさいよ。戦場って言っても未然に防げれば、何も無いから。まあ最悪の場合ってやつね」


そうは言ってもだな.....。


「そもそも、奴らの正体はなんだったんだ?」


師匠には断片的にしか聞けなかったしな。


「こっちの世界って男尊女卑がすごいでしょ?」


「ああ、まあな」


「それを変えようとしている団体と呪詛学会が手を組んだ組織ってとこかしら」


「それを変えようとしている団体なんてあるのか?」


呪詛学会はともかく、そんな団体は聞いたことがない。


「あるわよ。出来たのはここ最近らしいけどね」


「目的は?」


そんな組織を結成するくらいだ。なにか目的があるはず。


「フェミニズムが元となってるんだけど今はだんだん変わってきてるわね。まあ言うなれば、二つの団体の共通の目的は【魔女の始祖】を復活ってとこらしいけど」


「魔女の始祖.....?それってもう数百年も前に処刑されたっていう魔女の神話じゃないのか.....?」


俺もその話はおとぎ話の括りで知ってはいたが。


「私たちの世界ではそうなってるけど、実際は違うらしいのよ」


「まさか、こっちの世界に本当に存在していたのか.....!?」


「そこまでは分からないわ。単に奴らが狂信的に崇拝しているだけで本当は信者を取りまとめるためのただの偶像なのかもしれない。真相を知る術はないしね。とにかく、作戦については学園から近々何らかの通達が来ると思うわ」


俺はここで気になったことがあった。


「奴らは魔道具をかき集めて最終的に何をするつもりなんだ?」


「さあね。魔女の始祖の話、軍の奴らは皆鼻で笑ってたけど案外今回の事件と無関係じゃない気がするのよね。じゃなきゃ学園を....ってこれは軍事機密だったはね....。まあ仕事のことは一旦置いておきましょ」


「そうだな」


最後に言いかけたのが気になるが今はぐっと抑える。


「それで...なんであんたはここにいるの?それに性別のこともそれに抱き合ってた女のことも....とにかく聞きたいことが多すぎるのよ!!」


「ああ、そうだったな」


まだこいつには説明してないんだっけ.....。というか最後に余計なものがあった気がするが....。


俺は今までのことを全てサラに話した。




「........つまりまとめるとあの女は恋人ではなく、ただの一生徒だと」


「......ってどこまとめてんだよォ!?!?」


こいつの頭は二進法で出来てんのか!?


「んで元の性別に戻れるのは体内の魔力を遮断した時だけ、か。ていうかそれってその師匠さんに解いてもらえばよくない?」


「それは俺も頼んだけど.......なんか魔法が複雑化してて解くのが難しいらしい........」


それに俺はそこで驚愕の事実を知ってしまったし.....。


「なら、あんたの弱体化も師匠さんがやったの?」


そう、そのことだ。


「それが『それは知らない』の一点張りでな....」


「はぁ!?じゃあそっちもどうにもなんないわけ!?」


「ああ......」


原因不明ってのが一番困るんだよな.....。


呪いとは関係ないだろうし.....。


「それより、俺も聞きたいことがあるんだが」


「なによ」


「どうやって出所したんだ?」


確かサラは終身刑だったはず。


「あー。それはあんたと同じよ。あのクソ上官殿に拾われたの。おかげで私は散々こき使われて大変なんだから!」


色々混ざってるぞ、それ...。


「んで、どうなんだ。こっちの世界は」


「どうって言われても......まあ向こうの世界と同じくらいクソみたいな差別があるからあんまし変わんないんじゃない?」


サラは仕事以外の話をする時は基本口調は乱暴らしい。まあその方がサラらしくていいが。


「クソみたいな差別、ね。」


恐らくはこの世界の男女での圧倒的な優劣の差を指しているのだろう。


「向こうでは魔法使いを狩ってこっちでは魔法使い自身の性別で優劣を決めるなんて.....なんでもっと賢くなれないのかしらね....本当反吐が出るわ。人にも魔法使いにもね」


「まだ革命を起こすつもりはあるのか?」


「まさか。私じゃ無理ってもう分かっちゃったし......」


「そうか」


サラは否定したが俺には彼女がまだ革命家であるように思えた。


その証拠にその口調とは裏腹に彼女の目にはまだ昔と変わらぬ光があった。


どこまでも真っ直ぐで、それでいてルビーの如く強い光を放つ瞳。


俺は思はず、それに魅入ってしまう。


「?」


「お前も変わらないな」


「は、はぁ!?な、何よ急に!?」


サラは途端に真っ赤に顔を染めた。


「でもまさかこんな所でまた会えるなんて思わなかったわよ」


「俺もだよ。てっきりまだあいつと一緒に塀の中にいるのかと」


「本当だったらね。........あんた急にいなくなっちゃうし.......」


サラは少し遠くを見るような目をした。


「俺もまさか、俺を釈放させる物好きがいるとは思わなかったよ」


「それもそうね。あんたみたいな暴れ馬をよく使役出来たわね。その師匠さんも」


「使役って言い方はやめろ」


「はいはい。ていうかそろそろ私戻るわ。まだ仕事残ってるし」


「おう」


「それじゃあね」


サラが席を立ち玄関に向かおうとした時、俺はポケットに手を突っ込む。


すると微かに金属の擦れる音がする。


「サラ、次からこれ使え」


俺は部屋の合鍵をさらに手渡す。


「鍵?いらないわよ。鍵なんて己の拳で十分だし」


「全然十分じゃねぇよォ!!毎回あんなのやってたら収拾つかないっての」


毎回扉壊して入ってくるなんて、迷惑極まりない話だ。


「そ、それに合鍵なんて貰ってたら、まるで恋びt...」


「は?」


「って何勘違いしたんのよォォ!!!!」


直後、強烈な蹴りが溝落ち目掛けて飛んでくる。


「グ...フォォ...!!」


自然と口から痛いという言葉にすらならなかった嗚咽が漏れる。


というかなんで俺は今.....蹴られてんだ.....?


「でもその....あ、合鍵だけは貰っておいてあげるわ!!」


サラはそのまますごい勢いで飛び出して行った。


俺はやっとの事で立ち上がり椅子に座り直す。


くそ、誰だよ。人間に溝落ちとかいう玉の次に厄介な弱点作ったやつ.....。


すると目の前に温かいお茶が置かれる。


しかしそれとは対照的にレーネの目は氷のように冷たく、刃物のように鋭かった。


そして目の前のお茶。疑わずに入られない。


「何を入れた?」


「ヒ素などは入っておりませんが」


さっきから鼻を掠める覚えのある匂い。


「ほのかにアーモンド臭がするぞ」


「..........。」


今度は青酸カリを入れやがったな....。


レーネはぷいっとそっぽ向き微かに頬を膨らませた。


この様子じゃ相当ご立腹らしい。


「誰なんですか?あの女は。随分親しげにしているようでしたが」


「古い友人だよ。」


「私より......ですか」


「トータルで見たら、まあお前の方が長いかな」


「そうですか......ふふ。失礼しました。それより何かお忘れではないですか?」


「.......はあ。報酬の続きだったな」


「.........本来、私の怒りと悲しみはそんなものでは収まるものではありませんが」


そう言いつつもレーネは俺の体に自らの身体を擦り寄せてくる。


サラも変わっていなかったがレーネも変わらんな.....。


その日はそれで一日が潰れたのだった。

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