第58話
最初はただの悪戯のつもりだった。
それこそいつも雫先輩にやっているように
ちょっと脅かすつもりで始めた事だった。
いつもなら、いつもの自分なら
思いもよらない行動だった。
まだ知り合って日も浅い、
しかも相手は自分よりも年上で
他校ではあるが先輩。
なのにこれくらいの悪ふざけなら
笑って許してくれる、
彼を見かけた時に感じた
同じ境遇と気持ちから
五月は自然と体が動いていた。
心地良く響く足音を人混みに隠し、
ゆっくりと確実に彼の背後に回る。
駅前のざわめきをすり抜けながら
徐々に近づく背中、
彼が時折首を左右に振る際には
体を沈ませ、視線に入らない様にしながら
作戦実行エリアへと入っていく。
一歩、後一歩と近づく。
どうやら気付かれずにいけそうだ、
そう確信しながら五月は小さく息をのみ
射程距離に捕らえた瞬間、ダイブする。
「だーれだ♪」
「なっ!うわっ!」
彼の体に飛びつきながら
手をまわし目隠しをする。
一瞬にして視界を奪われた事で
驚きと焦りが彼を襲う。
それは彼の悲鳴からも分かり
五月は内心ほくそ笑む。
ドッキリ大成功、
とここまでは良かった。
「えっ?」
グラリッ、何が起こったのか、
一瞬五月の理解が追いつかなくなる。
気付いた時には体は予想外の方向に傾いていた。
どうしてそうなったのか、
あまりの驚きに彼、進は後方に重心が傾き、
そのまま倒れ込みそうになった。
当然、後方から抱きつくように体を密着させていた五月は
一緒に背中から地面へと投げ出される形になり、
「わわっ!」
頭の中でそれが整理された瞬間には
既に五月の体は宙に浮いていた。
このままではコンクリートに激突する。
五月は痛みを覚悟し、目をつぶる。
しかし、それは進によって阻止される。
「ちょっ!っと!」
声を荒げながら顔から五月の手が離れた刹那、
体を一気に回転させ、
勢いそのままに五月の背へと手を回し抱きかかえる。
「へっ?えっ?えっ?」
ドサッと柔らかく受け止められ、
感じるはずの痛みが無い事に驚きながら目を見開く五月。
何が起きたのか、五月が目を白黒させながら
眼前にあった進の顔を見つめる。
焦りと必死さが滲んだ表情、
だけど五月を助けられた事に安堵した瞳に
段々と心が吸い込まれていき、
同時に鼓動が高鳴る。
まるで胸に耳を当てた時のように
凄まじい勢いと音を奏でているのが
自分でも分かる。
どうにか冷静になりたい、
だけどどうにも出来ない状況に
五月が答えを出すより先に
進の口が動く。
「五月さん……好き、です」
その言葉に五月は絶句し、
結果逆ドッキリ状態に陥るのだった。
こんばんわ、作者です。
お陰様(?)でだいぶ咳は良くなってきました。
ただ、まだ完全では無いので
しっかりと完治まで薬をちゃんと飲むのです、ハイ(笑)
皆様も治りかけには十分ご注意を
ここまでお読み頂きありがとうございます。




