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三「神不在の神殿」

 黒曜の大地に、太古の昔に刻まれた傷跡がある。そこに挑む者がいる。彼女の名はユーラシア。大きすぎる名を負う背中はこの惑星の前ではあまりにも小さすぎた。しかし彼女は歩みを止めない。朽ちたロマンを拾い集め、まだ見ぬ夢を求めて――。

 金属樹の樹皮を採取しようとしていた私は大声でラムに話しかけた。

「何これ! 虹色の樹液!」

「ガリウムの低融点合金にヴァナジウム、ニッケル、鉄……微量のビスマスの結晶……虹色に見えるのはこのビスマスの結晶だね。多分だけど君がいる場所の森は大分老いてるよ。もし若い樹の樹皮を削ったらその樹液が飛び出して宇宙服を溶かしてたかも」

私は疑問に思った。

「酸なの? だとしたらこの宇宙服なら大丈夫じゃない?」

「液体金属だよ。酸より(たち)が悪い」

 ピュレネフ仕様の宇宙服は酸性霧、硫黄酸化物、微粒子には耐性がある。しかし液体金属による侵蝕は想定外だ。つまりこの森では、稲妻などの目に見える危険ではなく徐々に姿を現す異常が着実に死をもたらすのだ。

「少しでも付着したらすぐに拭き取るんだ。数秒だったら問題ないはず」

虹色の樹液は樹皮に油膜のように広がりながら重く、粘り落ちてゆく。私はそれをよく観察し、ラムがまた解析する。

「お。あったあった。未知の金属塩物質が混ざってるっぽい。実物を分析器にかければもっとよく分かるはずだよ」

「了解」

私は樹液を宇宙服につかないようにそっとサンプル容器に流し入れた。そして分厚い樹皮のかけらも別の容器に入れ、樹皮の裏側を持ち運び用の簡易顕微鏡で覗いてみた。銀色の断面が虹色の薄膜に変わり、すぐに鈍色へ沈むように変色してゆく。

「酸化膜みたい。傷口を塞いで……自己防衛機能かな」

そう言うとラムはすぐに、

「だから、生きてないよ。すぐに結論付けちゃだめだ。忘れたのか? 大分前の惑星で君が早々に古代宇宙船の残骸だって決め付けて会社を慌ただしくさせたこと」

「いやあれは絶対に宇宙船だったよ。たまたま岩石が窓みたいな四角い跡を綺麗に並べないでしょ!」

「それがたまたまだったってことがあとで分かったろ? 

 『古代宇宙船ノ廃棄場ヲ発見セリ』

 あの電報で地球がどうなってたことやら。僕は電脳基盤が焼き切れる寸前までこっぴどく叱られたんだ」

「知らないよ。数千光年も離れた人達が怒ってたってさ」

私は目線を下に落として足元に広がる電導泥をつま先で撫でた。

「まったく……その泥も採取してくれ。厳密には導電性のある半固体の電解質泥なのかな?」

私は屈み、泥を手で掬って密閉袋に入れた。

「じゃあ導電泥の方がいい?」

それを持ち上げると袋の中で、泥の微粒子が片方へ寄っている。

「名前は現場で好きに付ければいいさ。僕の仕事は……」同時に、ラムがそれに驚いたように、

「外部の磁気に反応してるのかな。ちょっと振ってみたり移動してみてくれないか」

私は泥が入った袋をシャカシャカと振ってから適当に歩き回ってみた。

「やっぱり何か引き寄せられてるっぽい」

黒い泥から細い筋が浮かび、砂鉄のような粒子が片側に流れるように寄っていく。袋をどんなに回しても同じ方向に向き直る。私は泥が行きたがっている方向へ進むことにした。

 ラムと共に仮説を立てながら歩いていると、面白い景色を発見した。森の一部がそこだけ吹き飛んだように金属の樹々が倒れ込んでいた。一際目を引く、倒れた大きな樹に向かって、私は赤錆びの葉を巻き込みながら折り重なる鉄の枝を跨ぎ、そこへ近付こうとした。途中、枝の中で絡まっている私の顔ほどの岩を間違えて蹴ると、それは拍子抜けするほど軽く転がっていった。小石をロープの先に括った時の違和感は正しかったようだ。これは見た目の金属感の割に似合わぬ張りぼてなのだ。すると――! 宇宙服の警告音がせわしなく鳴り始めた。バイザーには視界を遮るように、重ガス検知の文字が点滅する。

「爆発かな」

私が言った。

「ガスもあるし金属も豊富。稲妻も落ちる。多分そうだね。測地杭(そくちこう)でその地形調べられるか?」

私は腰にぶら下げていた六本の測地連動杭を取り出そうとした。すると、これがまた面白いことに杭が何かに引き寄せられている。

「磁力が強いみたい」

「磁力……変だな……とにかく気を付けるんだ。また爆発が起きるかもしれない」

私はラムの警告を胸に細心の注意を払って爆発跡の周りに杭を差し込んでいった。杭を打つ軽い金属音が異様に響く。

 カーン。カーン……。

音は森に吸い込まれているはず。だがなぜか空に跳ね返っているような気がした。私は少し不安を感じながら見上げた。濃い酸性霧が重なり合い、空に影を作っている。意思などないはずなのに、その影だけが私を見下ろすように揺蕩っていた。

 カーンカーン。カーン……。

私は押し潰されそうなこの空気を取っ払うように力強く杭を叩いた。そして急ぎ打ち込み終え、起動させた。僅か一分ほど。調査結果は……。

「ほぼ空洞だ。多孔質で密度が異常に低い。この森はこんなにも不安定な場所に形成されているのか……でも……」

その時ラムが叫んだ。

「止まれ!」

私は片足を上げたまま硬直し、目線を倒れた大きな樹から足元に下げた。すると小さな亀裂があることに気が付いた。それは約三十センチメートルの幅で深さは分からない。泥や樹々の枝に隠れた罠は注意深く下を見ていなければ絶対に見つけられなかったはずだ。

「言っただろ? 気を付けるんだ」

私はここで危機管理を少し怠っていることを実感した。ラムの声も幾分か低い気がする。

「ごめん」

私は恐る恐る体重を後ろに移し下がろうとした。すると足元の泥がごりっと音を立て下に沈み、私は内臓が浮くような感覚に襲われ恐怖に任せて後ろへ飛び跳ねた。その音を立てた場所が丸々崩れてゆく。最悪の情景が頭の中を駆け、肝を冷やした私だったが、その崩壊から目を離せなかった。それは落ちていく様子があまりにも変だったからだ。森の法則から――外れている。

 崩れた足場は亀裂に吸われるように落ちてゆく。とてもゆっくりと落ちてゆく。壁面に触れ、弾かれ左右に振られながら暗闇に消えていった……。落下というより〝沈降〟。水に落ちてゆく小石のように、静かに沈んでいったのだった。

 「周辺の岩石を年代測定出来るか?」

「ラム。今の見た?」

私がそう言うとラムは私から送信されている静止画を見返して、

「重ガス……? の影響か。それか磁力の反発かだな」

ラムが言うが、

「いやだとしてもおかしいよ。重ガスがとんでもない勢いで噴出してるとかだったら分かるけど……磁力にしても私は地面にくっ付いて動けないでしょ」

「確かに。結論はまだ出せないな」

大気分析器や成分探査器の類があればより調べられたが残念なことにそれらはヘリ墜落時にどこかへ行ってしまって、ヘリをもう一度探すか、亀裂内部に降りて宇宙服の感知機能を利用することも検討した。しかしラムの許可が下りなかった。それはこの時、もうピュレネフの夜までの時間が一時間を切っていたからだった。私はピュレネフの夜に備えて野営準備を進めなければならなかった。

 私はこの爆発跡の場所を地図に書き込み、数か所から鋼鉄岩のかけらを持ってその場を離れた。やがて、霧が僅かに晴れたような気がする。しかし周囲は明らかに暗く染まって黒い樹々が影に馴染んでゆく。歩く度に世界が狭まって天然の檻に閉じ込められてしまったようで強い孤独がまた胸の奥に戻ってきた。

「ラム――?」

私は不安気に、助けを求めるように彼に喋りかけた。

「どうした? 安らぎの場所は作れたか?」

よかった。普通に聞こえる。

「いや何でもないよ。ここを根城にしようかと思う」

「了解。そこを第一休息地点として記録する」

私は開けた場所や、大きな岩のそばを見つけようと思っていたが不安と焦燥感に駆られ、この数本の樹が合着(がっちゃく)――植物同士が癒着する現象――する場所で休息することに決めた。

 金属樹は一見全て同じに見えるがよく観察してみれば樹皮や枝、葉に違いが確認出来た。この合着は植物においては器官同士の結合や受精が主で、異なる種でも起きる。つまり金属樹は成長や繁殖を行っているのかもしれない。しかしそれが鉱物にも起きるのだろうか。金属が樹を成す。森を成す。だからと言ってその仮説の上で植物の常識を当てはめ仮説を積み上げるのは化学的な視座では罪とも言える。でも私はそうとしか思えなかった。ラムにはまた怒られてしまうだろうが私の目の前で広がる世界が生命の活動圏であると結論付ける他なかったのだ。

 そして私は孤独感を抑えるために樹に登り、ヘリの中から持ってきた、荷物を押さえておくためのネットを上手いこと枝に張ってハンモックのようにこさえた。これから何があるかは分からない。しかし樹の影で膝を抱えて体を丸めているのは損だ。何事も楽しむ。これが冒険の醍醐味なのだ。一段落して私はハンモックに寝転がり、酸素生成の筒を回しながら採取した鋼鉄岩のかけらを年代測定器にかけた。母船にある年代測定器ならすぐ結果は出るが私が今持ち合わせている簡素なものでは数時間かかる。その間私は、もしこの森を会社に報告すれば……なんてことを考えていた。

 五千光年という途方もない距離。採算の合わない宇宙事業。それでも人、いや文明はこのピュレネフという銀河の鉱脈に大枚をはたいてやってくるかもしれない。宇宙の一面を趣味の悪い船団が埋め尽くすのは絶対に見たくない。そんなことより文明が来てしまえば森の謎や奇妙なことなど一日で解明されるだろう。クレーターの底で広がる金属の森。鉱物の樹々。赤錆びた葉は光合成の代わりに何を作っているのか。電気を帯びる泥はどう作られ、何の役割を果たしているのか。樹液に混じる未知の金属塩はどこから湧き上がっているのか……そして軽すぎる鋼鉄の岩。ちっぽけな今の私ではまだ何も解明出来ていない。それでもこの森の危険性に怯えながらも着実にピュレネフの本当の姿に向かっているはず。森は、ピュレネフはまだ私を迎え入れてはくれない。それでも私は……。

 年代測定器はまだ結果を出さない。酸素生成の作業が終わり、ぼーっと上を見上げた時、周りの葉がほのかに青白く発光していることに気が付いた。

 発光してるのは手帳にも記していた、重膜葉。一枚を手に取り顕微鏡で覗くと、流れている鉄の結晶が電荷を帯びて重なる金属の薄膜の間でゆっくりと整列と再配置を繰り返している。その動きによって葉脈に似た線を青白く発光させていた。それから周りを見渡した瞬間、私はまた息を飲んだ。葉だけではなかった。森全体が、色付いていたのだ。昼間の無機質な黒や鈍色、茶色に褪せていた樹々が、暗闇の底。青白い光に、怪しい蛍光緑、そして明るい紫色を帯びている。まるで森そのものが命を燃やしているようだった。私がそれに見惚れているとハンモックにしていたネットの網目から酸素の筒を落としてしまった。すると面白いことに筒が落ちた衝撃や音に反応するように周囲の森の発光が強まり、激しい光に包まれた。私はこの美しい現象に胸を高鳴らせながら樹から下り、筒を拾い上げた。周辺の樹々は私の動きに呼応するように光を帯びた。ゆっくりと右足を前へ滑らせると、天井で生い茂る葉がシャラシャラと音を立てた。次に軽く手を叩いてみた。するとまた全体が光を帯びた。

 私は不思議とこの光景に恐怖を抱かなかった。それはおそらく今まで牙を剥き、侵入者を拒む森が、今この時だけは、私を包むように輝き、鳴る音が鈴の音のようで歌い声や、笑い声にも聞こえたからだった。

 私はまた一歩踏み出しシャラシャラと鳴る葉の下で樹に近付き少し強く叩いてみた。するとバチバチと音を立て青白く、激しく光った。その時バイザーに映る文字の配列がノイズ交じりに左右に震え、同時に宇宙服のセンサーが異常を検知した。一歩下がり、ラムに喋りかけようとした折、足元の泥も発光しているのが見えた。ふと後ろを振り返ってみると私が歩いた足跡が淡く光っている。青白い跡は数秒かけて滲み、徐々に薄れてゆく。それがまるで私の軌跡を森が記憶しているように見えた。

 私はこの幻想的な空間に一瞬にして心を奪われてしまったのだった。

「ねえ、見えてる? 一体何が起きてるっていうの……」

「――……電気の……生成して――森全体が――」

通信はまた雑音とノイズが混じる。しかし電気、生成……ラムはおそらく森全体が電池の役割を果たしていると推測しているのかもしれない。放電や光が通信を阻害している。そう思った私は開けた場所を探すことにした。

 昼間の時は明るいのに色味のない景色に重たい酸性霧で色々なものを見逃していた。今は光輝く森の輪郭がはっきりと視界に入ってくる――全てが均等に見えた金属樹は青白い輪郭を輝かせながら時折うねり、枝の生え際や割れた樹皮の隅には怪しげな蛍光緑の球状器官が確認できる。そしてその上には奇妙にしなる、まるで巨大な蛇の胴体のような太い樹が何本も絡み合い半円状に伸びている。絶壁の岩場には赤橙色の液状物体がこびり付き、シダ植物に似た器官を生やしている。足元には泥や落葉にまぎれて小さな触手が生えていて、その先に黄色く艶のあるつぼみが見えた。私はこれらの金属の森の本当の姿を観察し、サンプルを採取して進み続けた。その中でも一番驚いたのが硬質化した樹皮のオブジェだった。私の背を優に越す樹皮の壁には新しい樹や枝と蔦が絡み付き、内部に出来た空洞の中にも植物のようなものが生えていた。おそらくもともと漏れ出ていた樹液が酸化膜を形成し、樹の側だけを残したのだろう。私は思わずこの樹皮に触れた。すると活動を続ける樹のような青白い発光ではなく滲むように、明るい銅色に発光した。赤錆びに黄色が混じった神々しい光が私の存在に呼応しているようだった。巨大な金属樹の死骸が悠久の時を経て新しい場所へと移り変わってゆく。私はこれらの姿が最初に樹皮に触れた時の温かみや哀愁の正体なのかもしれないと思い、夢中で手帳を広げ書き込んだ。崩れゆくこの記録に残さなければならないと、ペンを走らせた。手帳の革は腐り、紙は焦げる。スケッチも文字も何かを拒むように溶けて紙の上を滑ってしまう。私はほぼ殴り書きのように急いで記してすぐに手帳を閉じた。

 その後、開けた場所を探している私は誰が見ても分かるほどあからさまに足取りが軽かった。孤独も不安も、恐怖さえも置き忘れていた。通信が回復するのを朝まで待ってもいい。その間ずっと光輝く森のイルミネーションを見ていたい。そんなことさえ思っていた。その時だった。樹々の隙間から見える空が光っているのが見えた。

 ――オーロラだ!

 私は空を見上げながら走った。七色の光は森の光を陰らせるほどに強く、激しく輝いている。後々になって考えてみればこのとき枝や泥に足を取られて転ばなかったのは奇跡だ。徐々に森が暗くなってゆく。それは発光が弱まってるのではなく、樹々の密集地帯から離れたからだった。つまり、私の足取りと同時に、空が、オーロラの天井が頭上を覆った。私はそれを見て立ち止まると、足の力が一気に抜けて膝から崩れ落ちた。

 吸い込まれるような宵闇に、煌めく星々を背に天から降りてなびく神秘のベール、オーロラ。しかしそれは地球でのもの。今私の目の前に広がるものは――空ではない。分厚い雲の底が内側から焼けるように輝いている。オーロラにしては低く、雷にしては広すぎる。それがピュレネフのオーロラだ。

 青白い滲みの中に緑色の幕が垂れ下がり、時折血管のような赤紫の筋が走った。遠くから聞こえる稲妻の轟音は、空気を孕んで唸り、不気味な重低音を響かせる。私はそれが、母の(はら)の中で眠る赤子の寝息のように聞こえてしまった。なにより、私自身がその赤子で、外の世界を夢見て見上げているような気になった。私は広がる光を追って顔を上げ続け、ついには手を広げて後ろに倒れた。ちょうど背負っている生命維持装置とリュックサックが背もたれのようになって、この大自然を特等席で満喫した。

 するとラムの声が聞こえた。

「ユーラシア。無事か? 聞こえてるか?」

「うん。見えてるよ」

「見え……? オーロラ……のような放電か。酸性霧と金属蒸気が励起れいきしてるんだ。森の発光現象と相まって通信が乱れたんだな。きっとこれも森の〝電気化学循環〟に繋がってる」

それからラムは今までの観測情報や探査結果を分析した結果を話し出した。それは森全体が電池の役割を果たす巨大電気化学循環圏なのではないか、というものだった。

 葉は電荷を運ぶコンデンサー。泥は森全体を繋ぐ回路。樹は液体金属の樹液を地表に露出させ、森全体の酸化反応を活性化させる導体。つまり、この森では酸化という錆びの運動そのものが循環の一部になっている。オーロラも森、雲、電磁嵐、金属粒子、重ガス。全てが一体化して発生する惑星規模の発光現象なのだと――「ちゃんと聞いてるか?」

「え? うん。聞いてるよ。綺麗……本当に奇跡の惑星だね」

「綺麗かどうかは、今は重要じゃない。君は何でもかんでも意味を見つける」

「意味? まあでも……どう? この森。やっぱ生きてる?」

ラムの見解を聞いた私はもはや確信めいたものを持って、あえて質問した。しかしラムの返答はあまりにも心無いものだった。

「だから、各器官の発色の差異は酸化膜の厚さだ。未知の金属塩も関係してるはずだよ。ランプの塗料みたいなもの。綺麗だけど、詰まる所そういうことさ」

私はその返答に酷い寂しさを感じた。まるで命の全てを否定するような、そんな言い草だった。

「どうしてそんなに森を否定するの?」

私は溜息交じりにそう言った。

「森に意味も、目的もない。ただの反応と作用だ……たとえばだけど、いきなり僕が、

 僕は人間だ。君と同じように生きてるんだ。親と思ってくれていいし、友達でもいいよ。とにかく僕は人間だ。

 って言い始めたらどう思う?」

「何? 私がいつラムを物扱いしたの?」

私はラムが当てつけのようにそう言っているのかと思って声を荒げた。

「違う。僕は君が、僕をそう見ないじゃないかなんて言ってるつもりはない。僕も、命とは違う。何もかもが違うんだ。どうして〝これら〟は命の真似をしてるんだ……分からないよ……」

ラムは自分自身が機械であることを戒めるように、自分で自分に呪いをかけるように言った。

 始めはこの未知に興奮していたラム。しかし()()()()()()()()()に踏み込む度に彼の中に眠る何か別のものを見つめ始めているようだった。森を肯定することが、どこかで自分自身を肯定してしまうことに繋がるのだとしたら――ラムは、それを恐れているのかもしれない。

「続けるよ。仕事はまだ終わってない」

私はそんなラムに対して慰めや、激励や、勇気でもなく、回収任務という枷をかけた。これが私達ふたりをどこまでも繋ぐ。たとえ、この先に答えなどなくて、ただ暗くて深い意識の渦に放り込まれているだけだとしても。

 少の沈黙の後、ラムはまた、淡々と喋る。

「ああ。もちろんだ。今言った僕の仮説だが、一点だけどうしても見逃せない点がある。君が防衛機能と言った、酸化膜だ。もし本当に循環と蓄電が森の主機能なら、酸化を阻害する機能が組み込まれてるのはおかしい」

「じゃあ、ピュレネフの環境が森を邪魔してるってこと?」

「その認識でいい。だから今から僕たちは森単体を器官として見ることで仮説を立証すれば……森が外部から来た。もしくは、ピュレネフの異物、人工的な機構で――」

「人工的?」

私は通信を遮って聞いた。

「あくまで可能性の話だ。少なくとも森はピュレネフと綺麗には嚙み合ってない」

「……そう……何が欲しい?」

「鋼鉄岩のサンプルがもっと欲しい。夜が明けたら、また爆発跡で調査しよう」

「了解」

 私は今、ラムの声しか聞こえない。それなのに、窓の外から宇宙を睨む彼の背中が見えた気がした。彼を縛るもの……。私はピュレネフのオーロラを見上げながら、リュックサックを背から下ろして横に倒して枕のようにして、そのまま泥の上に寝転んだ。

 ラムは否定するために、私は見出すために、命を探す。その答えがこの惑星にあると信じて。

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