一「胎動の惑星」
地球よりももっと〝別〟の惑星……。
今回の惑星探査では早々に見舞われた非常事態で目的地から数百キロメートルも吹き飛ばされてしまっていた。電力の計器を指で弾いてもこれは相変わらず小刻みに震えていて安定する兆しはない。私は十秒に一回はこの計器を覗いてはつっついていた。それも操作盤はバチバチと音を立てて高度計に気圧計、コンソールパネルまでもデタラメな数値を叩きだしているせいだ。操縦桿は少しでも力を抜けばすぐに飛んでいってしまいそうに悶えている。ふと後ろを振り向いてみればヘリの機内は激しい揺れでもう目も当てられないほどにぐちゃぐちゃになっていた。縛っていたはずのネットやケーブルは垂れてヨーヨーのように跳ねていて、足元に置いていたはずのリュックサックは所かしこに中身を吐きながら床を好き勝手滑って、今は下部ハッチの折り畳み梯子に挟まっておとなしくしているようだ。電力が安定すればこの悲惨な現状が少しはマシになるはず……。こうなってしまったのはこの惑星の――その時、眩い閃光が目の前を走り抜け機内を真白に染め上げた! 体の反射反応に抗うよう目を勝っ開き操縦桿を押し倒すとヘリは頭をぐうんと横に倒しその稲妻を避けた。
轟音はまだ頭の中で繰り返し響き目の焦点が合わない。宇宙服の内部は蒸して汗は粘り気を持ち始めていた。ヘルメットを叩いて何とか正気を取り戻して、鳴り響く警報の解除ボタンを力強く押して警報を止めた。これも数十回目だ。もう小一時間はこの調子で、稲妻の異常電波で機器がお釈迦になってしまい現在地すらも分からない。側部ガラス窓にはあらかじめ落としておいた地図が映しだされているけど緑一色の等高線がノイズ交じりにぎこちなく飛び動くだけ。西に……一直線にであれば目的地はもうすぐのはず。まさかあんな綺麗な色の雲の下に地獄のような世界があるとは思いもよらなかった。〝オリヅル〟も私のように嵐と稲妻で吹き飛ばされたのだろうか……――。
人類が宇宙へ放った無数の探査機は新天地や新資源の発見のためだったが多くは地球まで惑星情報を送信出来ずに未踏の大地で眠っている。この惑星のどこかに眠る無人探査機オリヅルの回収。それが彼女の任務だ。
惑星探査を生業にする彼女にとって非常事態などこなれた出来事だった。探査用のヘリは航宙産業の意匠を極限まで削った無骨で弾丸のようなジェットヘリで、母船からの無線電力供給を元手に飛行が可能となる。つまり、電力こそが命綱だった。
「ラム! 聞こえてる?」
通信機からは雑音交じりの返答が聞こえる。
「――……どうかな――るか?」
「こっちの声は聞こえてるの?」
「――かも……ない。もう少し調――」
途切れ途切れの通信の後、宇宙服の左腕の端末にメッセージが届いた。
【音声はもう回復しない。だからレターを送ってみるよ。声は聞こえてるからこれが届いてたら返事してね】
「届いてるけど、でもラブレターより電力が欲しい!」
【電気なら有り余るほど降ってるじゃないか。まあ厳密には摩擦で生まれたプラズマだけどさ】
「そんなことよりもうすぐ目的地に着くはず。座標だけでも送れない?」
【なんとかしてみるよ。少し待ってて】
母船で待機する相棒は知識は豊富だがどこか危機感を感じない。しかしこの感情の掴めない〝性質〟が幾度となく私を窮地から救い出してくれた。何個か前の惑星のこと。その惑星は穴だらけのスカスカな地表に覆われていて巨大な地下空間に何種類もの猛毒ガスが溜まっていた。ガスは暗い苔のような色から陽射しを浴びてあずき色や黄土色に不気味に変色していて、何度も視界の端を何かが横切ったのを覚えている。それがただの気のせいなのか、生き物なのかは分からないが、その時はラムも私も変色するガスが産みだした影だろうと結論付けた。目標の探査機が近くなってきたころ、天井からゆっくりと落ちてくるレースカーテンのようなガスを眺めていた私は完全に気を抜いていて、ヘルメットのバイザーで点滅する二酸化炭素上昇の通知を見逃していた。
宇宙服の背面には、内部で回収した二酸化炭素を外へ逃がすための排気弁があるが逆流を防ぐフィルターと弁は、猛毒ガスや微粒子が固着してしまい放っておくと詰まってしまう。
ラムからは定期的に掃除し、必要なら交換しろと言われていた。それを私は、景色に見惚れて忘れていたのだ。息を飲むほど美しい。だなんて思いに浸っていた間抜けな私が本当に息が苦しくなってきていると、ラムからはただ一言。
「詰まらせたな。このままじゃ死ぬ」
私が必死に溶けた通気口を交換しようと焦っているとまた一言。
「ナイフで腰の四番チューブを切るんだ」
「そんなことしたら!」
「一応息止めて。切ったら新品を排出方向とは逆に差し込んでシリコンジェルでいっぱいに固めて」
「それで本当に――」
「早く。四番。切る。早く」
後から聞くと、この状態は車の排気口が詰まって排気ガスが逆流してるようなものだったそうで、私は自分の吐いた息で死にかけていた。それに対しラムは再利用の装置に空気を送る大元を断ち切って二酸化炭素を完全排出し、装置を停止させれば酸素タンクからは通常より多くの酸素が供給される機能を利用したのだった。分かりやすく言えば換気をしたのだ。酸素効率は落ちるが、「死ぬよりマシだろ?」とのこと。落ち着いて深呼吸しろぐらいのことを言ってくれてもいいものだが……。
そんな昔のことを考えているとラムからメッセージが届いた。
【血圧と心拍数が高いね。十八パーセントも上昇してる】
ともかく今回の惑星でも彼の性質に救われるはずだ。
「はいはい……」
再び目の前に閃光が走った。私はまたヘリを横に倒した。すると回避行動の動作で天井のダッシュボードが勢いよく開いて機内食のゴミや詰め込んでいた物がどさっと頭に落ちてきた。
「痛っ!」
その中に一際大きい何かが入っていて、鈍痛に頭を抑えると、その何かが間抜けな機械音を鳴らしながら作動する。
《完全収録。ゾウリムシでもわかる惑星ピュレネフのマル秘特集》
それは掌ほどの大きさの立体記録装置だった。恐らくラムが私のために忍ばせておいたものだろうがこれをゆっくり見ている暇はない!
【その前に万が一ってこともあるからさ。探索用のグッズはあるよね。ヘリから降りる前に確認――メッセージを読み終わる前に前を向いて、装置を地図が映っているガラス窓とは反対側に置いて、垂れ流しておくことにした。轟音と金属音はもう聞き飽きた。これで少しは気晴らしになるはずだ。
《……私達が住まう母なる地球は、気の遠くなるほどの大宇宙を背に青く輝いています。
さて、今回私達が旅する場所はこの地球から遥か五千光年離れた惑星、ピュレネフ。天の川銀河の端でひっそりと輝くこの惑星は宇宙大航海時代の傍らで科学者たちを唸らせました。その謎と宇宙の神秘の旅へ出かけましょう。さあシートベルトの確認はお済ですか? 光の速度を越え向かいましょう。出発進行――!》
子供向け番組のようなナレーションと地球から遠ざかる映像が流れている。
宇宙を知らなければどこか夢物語のような景色だった。小さくなる地球と増え続ける無数の星々。そして暗闇。美しくも儚く、そこに孤独があった。地球が小さいのではない。自分がちっぽけなのではない。ただ、どこまでもどこまでも――――広い。
私は操縦席から身を乗り出して外を見下ろした。稲妻の嵐の下で広がる荒々しく削りだされた漆黒の大地が見える。まるで真夜中の大海原をそのまま固めてしまったように奇妙な渦、山のような起伏、大穴。二度と同じ姿を見せない地形が次々と後ろへ過ぎてゆく。この大地はピュレネフの厳しい環境下で生まれた壮大なガラスの彫刻でもある。数千万年、数億年に及ぶ大規模な放電現象が地表を焼け爛れさせ黒曜石のようなガラス質の黒く輝く岩盤を形成していった。
上空では重たい雲がゆったりと流れ、黄金の輝きが端々から漏れていた。そこから何の前触れもなく再び稲妻が落ちた。何かに引き寄せられるように、それでいて逃げ惑うようにも空気を這って黒曜の大地に衝突する。ガラスの大地は稲妻を乱反射し、地平線まで閃光を伸ばした。私は思わず息を飲んだ。この美しくも恐ろしい自然現象は単純な言葉や何かに形容出来ない。宇宙へと駆り出され未踏の惑星に降り立つ私にしか見れない光景。だからこそ私は、それに見入ってしまうのだ。もちろんそこに、耐えがたい死が同居していようとも――。
【座標だけど今送ったよ。少し進路がずれてるから修正しよう。気を付けて。いつ雷が直撃してもおかしくないからね】
「ラム……あれなに。光ってる。光の玉が浮いてる……?」
【避けろ。絶対近付くな避けろ】
降り注ぐ稲妻と暴風の中に不自然に浮かぶ、心臓のように鼓動する光が見えた。ヘリはそれに吸い寄せられるように、もう目と鼻の先で……――
【おい。避けろ。それは球電だ】
《ほとばしる稲妻と焼け焦げた漆黒のガラスの大地。まるで地獄のようなピュレネフではもう一つ気を付けなければならない自然現象が発生しています。それが球電現象です。ボールライトニング現象とも呼ばれるそれは、地球上でも稀に発生する自然現象で、雷雨の際に空中に浮遊する発光体で死亡事故や爆発が歴史上で確認されています。その発生メカニズムは完全には解明されていないものの、プラズマやマイクロ波などの仮説が有力です。
ピュレネフの地表や空中にはこの現象が多発している可能性があり、地球よりも遥かに発生頻度が高いと考えられます》
「……――避けろっ!」
雑音とノイズに混じったその声が鼓膜に響いた。
「ラムっ!」
咄嗟に出た怒号に体中が反応し力が入る。手も同様に、鋼のように強張り操縦桿を横へ倒す。ヘリは球を避けるよう傾き態勢を崩したが、その刹那、稲妻が直撃してしまった。電源が落ち真暗闇に包まれる機内。稲光の明滅が生々しい現状を照らし出した。
気付いた時にはもう世界全体が無音のアナログ映画のように白と黒だけの陰影で染まっていた。
まずい――!
その言葉は発せられたのか、胸の内に浮かんだだけか本人すらも分からない。
主電源を殴りつけ、操縦桿を引き抜かんとするほどに荒々しく回すが制御不能のヘリは落下が始まる。そして偶然か必然か。次の稲妻が球電を貫いた。はち切れた球電は大爆発を起こす。その真横でヘリは紙のようにふわりと浮かび上がり、数コンマ遅れて衝撃波が押し寄せた。体が太い綱で引かれたように真横へ飛び、腰回りと肩から股へ掛かるシートベルトに体の側面が食い込んだ。その圧迫で、無意識に止めていた息がさらに詰まり、過呼吸に近い状態に陥った。
口っ。喉――。じゃない鼻っ。苦しい……――。
ヘリは空気を押し潰すように歯痒い低音を軋ませ、速度を増しながら落下してゆく。非常灯が回転し、白銀の閃光と暗闇が目まぐるしく切り替わる視界に赤い筋が通り過ぎた。
無機質な警告音は無常に響く。外では空気を震わす轟音がつんざく。
稲妻は空を裂き、しなり、うねり、鋭く大地に突き刺さる。黒曜の地表はその閃光を照り返し、世界の果てまで白一色に染め上げ天と地の境界をぼやかす。刻々と創り上げられる大自然の呼吸、その中にみるみる内に飲み込まれてゆく。
次の瞬間、操作盤が一挙に点灯し電源が入った。操縦桿を目一杯引き、激しい重力圧に体が潰れてしまいそうになった。それは砂山を上から徐々に踏み込むようで脆さと心地の悪い圧迫を感じる。
ヘリはまだ風に煽られ上手く前を向かない。細かく操縦しながら態勢を取り戻し、まるで激流に流されやっとのことで顔を水面に上げたように息を必死に吸い込んだ。その時、電源が入った操作盤は一瞬だけ自動運転を作動させ機首を跳ね上げさせた。高度計の針はぐるぐると回転し、コンソールパネルがギリギリと音を立てる。
「もっと上昇させろ。ダメだ落ちる」
ラムの通信が鮮明に聞こえた。彼女はその声に従い高度計に目をやった。
「嘘……もうこんな低く――!」しかし安心は束の間、またもや機械たちは気勢をそがれてしまった。操作盤はチカチカと点滅して徐々に光りを失う。地表はもう、すぐ下。手が届くほどの距離に。
「まだ保って! もう少し!」
操作盤を両手で殴りつけると再び電源が安定して機首が上がった。しかし! 不運にもヘリの尻が地表の盛り上がりを叩いてしまった。鈍重な爆音と体の芯を震わす振動が彼女を襲う。安定性を失ったヘリは前のめりにひっくり返り前方のガラス窓に黒曜の地表が間近で流れてゆく。
もう、だめ……――!
目を瞑って諦めかけたその時――地表が消えた。いや、消えたのではない。崖の縁へと飛び出た。彼女がゆっくりと目を開けると、粗いコマ割りのような情景が目の前で流れる。
黒曜の細かい破片が外で飛び交い、ヘルメットに何かの部品がぶつかったと思うと体がふわりと浮かび上がった。
そして、一気に下へ叩きつけられた!
ヘリは腹を斜面に押し当て小刻みに跳ね、ジェットコースターのように滑り、速度を増してゆく。
「あああ――! クソっ!」
霧がかるその先にまた崖が見えた。止まる術がない彼女は息を切らしながら叫んだ。外装の金属が擦れ火花が飛び散り、焦げた匂いが機内に充満しだした。
そして爆速のコースターはレール、地面をなくし弧を描きながら崖を飛んだ……――。
数時間前。
冷凍睡眠から醒めた後はどうしても体が重くて無意味な情報を頭に入れたくなるものだ。それにすぐ腹も減らない。だから私はこうしてベッドから起き上がって無理に歩かずに芋虫のようにソファに移動してから映画を見ることにしてる。これは何度経験しても慣れることはない。言い訳とか怠け者なのではなく、醒めてから瞬時に現状把握が出来ない。寝ていた間の遠い記憶をゆっくり接続する時間が必要なのだ。この作業を無理矢理にだったり、雑にやろうとすると戻ってこれなくなる。面白い事に人類は太陽系を飛び越えて旅に出かける科学力を持ち合わせながらも脳の仕組みを完全に解明し切れていない。記憶というものは容易く言ってしまえばぐちゃぐちゃに丸めた糸くずのようなもので、一直線で繋がる道ではなくて複雑に絡み合い途中で切れていたりいきなりくっ付いてしまったりする。この糸くずを広げたり押し込んだりして記憶を保管するのが海馬やシナプス結合だったりと……つまり人の脳というものはまだまだ人智を越えた技術で成り立っていて、現代で更新され続ける遺物なのだ。記憶に関する作業を、例えば瞬間学習ユニットや強制フラッシュバック装置などという馬鹿げた未来装置を使って力任せにやると、正気と人格が別の宇宙にかっ飛ばされて文字通り戻ってこれなくなる。この研究は今も進められているらしいけど私のおすすめはホットココアに黒胡椒をまぶしたペッパーココアを飲みながら映画を見ること。冒険ものでも恋愛ものでも、ホラーものでもいい。特に言語を変えて見るのがいい。私はいつも冒険ものを見る。彼が先住民に追いかけ回される様子を眺めながら、ペッパーココアの甘辛い刺激で脳を起こしていく内に記憶の糸くずが自然に解けて緩やかに記憶が戻ってくる……。
そうだ。私は惑星探査の仕事に向けて新しい惑星に来ていた。次の惑星でオリヅル……彼を回収するんだ。
「起きてきたか。こっちにおいで。ピュレネフが見えるよ」
ラム……人型の機械で私の仕事をサポートしてくれる人工知能。彼は重たい動きで銀色の右腕で手招いてくる。もっと人間に寄せることも出来たけどこのアナログチックな見た目が好きだ。左右で少し大きさが違う瞳を小刻みに動かしながら焦点を探している。
私も横で一緒に覗いた。
地球から遥か五千光年。銀河の辺境に青く輝く惑星がある。宇宙船から見える地球のようなこの惑星の青は水分ではない。美しい神秘の惑星を覆う粘り気のある雲、というより高密度の重ガス。その中で何かが疼いている。それはところどころで彩りを変えてまるで脈打つように輝いている。
「綺麗……」
「電気が脈打つ惑星。炎の雲海ピュレネフ……資料は頭に入ってる?」ラムに表情なんてものはないが長年付き合っていれば分かる。間違いなく私を疑っている。「あれは青冠層と言って恒星の光りとプラズマが衝突して雲の表層だけ青く発光する現象だ。内部は赤紫色で――」
このおせっかいロボットめ! まだ突入まで時間はある。もう一本だけ映画を……――。
遠くで大鐘が鳴っているような音が聞こえる。その唸る低音は惑星全土を包み込み、終末の日を告げているようだった。
――見えない、何も。
黄色く色褪せる白い靄は流れ、戻り、その場で渦を巻く。意思も無くその場で揺蕩っている。それはまるで終わらない幻想に囚われてしまったようで、無性に孤独を感じる。すると酸素圧低下を示す表示にやかましく瞳孔を刺激された。ヘルメットにこびり付く泥を払い、立ち上がった。思考が安定してきたと同時に全身がずきずきと痛むことに気付いた。と言うより、思い出した。
――そうか。落ちたんだった。
稲妻が直撃して墜落したことを思い出してようやっと思考が回り始めた。まず、酸素圧を確保しなければならない。私は宇宙服に開いた穴を探した。しかし灰色の外装布地は所かしこに白い裂傷が出来ていたが穴は空いていない。そこで生命維持装置から伸びる酸素チューブを確認することにした。胸元のバックルを外して、装置を少しずらすとチューブの接合部が歪んで隙間が空いてしまっている。そこを粘着ジェルテープで付け焼き刃に補強した。すると、酸素圧低下の表示は止まり、息もしやすくなった後、左腕の端末に手を置いた。しかし画面は割れてしまっている。
「ねえ、聞こえる?」
「――。――――」返答が無い。「……――……」
通信機からの不定期なノイズに鼓動が速まる。
私を包み込んでいるのは酸性の霧で、この場所では流れが悪く溜まってしまっているようだ。通信状態が悪いのもそのせいだろう。冷静に分析して現状を把握しても孤独感は拭われず、強い不安が頭を支配する。それでも彼女は霧の中を恐る恐る進んでゆく。すると霧は徐々に晴れて来、この惑星の新しい顔を露わにした。
立ち並ぶ樹木や生い茂る草の青々しい匂い。どこからか聞こえる水しぶき。伸びる蔦をかき分け、濡れた土に足を滑らせる。そんな息を飲むような深緑の楽園はこの惑星には存在しない……。宇宙服の空気浄化装置を跳ね除け届く、腐った卵のような硫黄の匂いに喉を乾かせる鉄の匂いが混ざり、鼻を突く。不安を煽る薄暗い黄色の空気に、地中から立ち込める重いガスが揺らぐ。黒い樹皮を持つ鋼鉄の樹は、虹色に反射する樹液を垂らし細い煙をあげている。赤錆びた葉はシャラシャラと音をたて、なびく。目の前に広がる世界は、地球のそれとは似ても似つかない別世界だった――。
「ラム……私とんでもない世界に来ちゃったみたい……」




