1
アタシはおくりものの精。
おくりものの精なんて聞いたことないって?
そうだろうね。
「おくりものの精」ってのはアタシが勝手に言ってるだけだもん。
アタシには人間の気持ちが見える。
見えるって言っても「何を考えているかわかる」とかじゃない。
アタシに見える人間の気持ちは、ワタアメで作った糸みたい。
いろんな色でいろんな味の糸。
アタシはそれを食べて生きてる。
アタシが一番好きなのは、おくりものにくっついてる気持ち。
おくりものを選ぶとき気持ちが、色々な糸になっておくりものを包んでいる。
アタシはそのふわふわした糸が大好き。
あ、勘違いしないでよ!
ちょっとくらい食べたって、そういう優しい気持ちは減らないんだから!
アタシが散歩していると、女の子向けの雑貨屋におじさんが入っていくのが見えた。
おじさんはいろいろ悩んでいたけど、何かを手にするとレジに向う。
お姉さんがそれを丁寧に包む。
かわいいラッピング。
おじさんはお姉さんから受け取ったメッセージカードと送り状を書いている。
お姉さんがカードとおくりものを箱に入れる。
アタシも一緒に箱に入る。
中は段ボールの匂いがして、少し暖かくて、外の音がこもって聞こえる。
これからアタシはおくりものと一緒に少しだけ旅をするのだ。
箱の中は落ち着く。
おくりものとそれを包む気持ちとアタシ。
暗くってコトコトゆれたり、たまに大きくゆれたりする。
アタシはおくりものと一緒に旅をするのが好き。
静かで暗い箱の中。
気持ちはぼんやり光って見える。
不安と照れのまじった気持ち。
アタシはそれを見て、色々考える。
送り主のおじさんのこと。
受け取り主のこと。
アタシはそんなことを考えているうちに眠ってしまった。
箱を開ける音でアタシは目を覚す。
開けたのはやっぱり女の子。
女の子は箱を開けたまま、おくりものを手にも取らずにじっとみている。
うーん・・・なんでだろう?
女の子を包むのはうれしい色だけじゃない。
不安?拒否?とまどい?
でもうれしい色もたくさん。
仕方ないなぁ・・・
アタシは女の子の周りにある嫌な気持ちを食べる。
おじさんと女の子の関係は分からない。
でもね、おくりものを開けるときにはうれしい気持ちでいっぱいになってほしいんだ。
覗き込んだメッセージカードには「おめでとう パパより」しか書いてない。
これじゃあ何がおめでたいのかわかんない。
すっごく悩んで時間かけてたのに、これしか書いてなかったなんてびっくり。
人間ってたまによくわからない時間の使い方するよね?
アタシが頑張って嫌な気持ちを食べたおかげで、
ようやく女の子はうれしい気持ちでいっぱいになった。
そしておくりものに手を伸ばす。
口直しにうれしい気持ちを食べると、アタシは女の子の家をあとにした。