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私たちは人が妖精と呼ぶような生き物。
私たちには人の気持ちが見える。
気持ちはやわらかく繊細な糸のような形で、感情によって色や味が違う。
偏食で「おくりのもの精」なんて名乗っている変な子もいるけど、私はどの感情も好き。
悲しみも怒りも喜びもどれも特別な味で、食べると物語のようにその時の気持ちが伝わってくる。
私はお腹がすくと本を読むように食事をする。
その日の気分にあった色の糸を探して一口食べる。
気に入ればその糸を食べ、ちょっと違うなと思えばまたほかの糸を食べる。
たぶんそれは人が本屋や図書館で、ぱらぱらと立ち読みしながらほしい本を探すのと似ている。
その日私は悲しい色の繭のようになっている子どもを見つけた。
「うわー!やだやだ!あんなに悲しい奴!」
偏食偏見の同族が横で声を上げる。
「あの悲しみを食べるかどうかなんてまだ決めていないし、どちらにしろあなたを食事に誘ったおぼえはないわ」
私は肩をすくめこたえる。
「えー・・・だってあんたおせっかいだしぃ
『あんな悲しい気持ちでいたらよくないわ。私が悲しみを少しでも食べてあげよう』
とかいいそうじゃーん。
そんであんなにたくさん固まってたら、一人じゃどうにもなんないからアタシにも食べろっていうつもりでしょ?」
とっさに否定したものの、この子の言うことはだいたいあっている・・・
「まぁ・・・そう、ね。そんな風に思ったりもしたわ」
「ほらね!アタシはやだよ!あんなの食べたら体が重―くなって動けなくなっちゃうもん」
「そうはいってもあんなに小さな子どもが、あんなに悲しいのは良くないと思うの」
「ほらね!ほらね!おせっかい!」
ぷぅとむくれて偏食が言う。
でもまぁ、この感じだと手伝ってくれそうだ。
私は子どもの周りにある悲しみを一口かじる。
伝わってくるのは身近な人・・・母親の死
こまったな。
こんな深い悲しみは私達が食べたくらいじゃ無くならない。
「よし!やめよう!」
偏食が言う。
「うーん・・・この子のうちまでついて行ってみない?」
どうしても気になっちゃうんだよね。
この子のこと。
嫌がる偏食を連れて子どもの家までついて行く。
家の中には悲しい気持ちがたくさん転がっている。
でもそれよりも私たちの目を引くものがあった。
もう暖かいのに、家の中はクリスマスの飾りでいっぱいだったのだ。
「見て。古い気持ちがくっついてる」
偏食が言う。
飾り付けられた部屋のあちこちに、古い優しい暖かい気持ちがところどころ残っている。
偏食がそれを食べる。
「部屋をクリスマスにした人の気持ちが残ってるみたい」
きっと亡くなった母親だろう。私もそれを食べる。
病による痛みをおして部屋を飾る。
これから訪れる自分の死で、子どもがクリスマスを嫌いにならないように。
クリスマスを悲しい思い出にしないように、もう少し頑張って生きよう。
できれば楽しいイベントのないころにこの世と別れたい。
クリスマスやお正月、バレンタイン、お花見
そんな楽しい世の中を見て母親の死を思い出すような人生をおくってほしくないから。
ああ、これは私だ。
近くにある悲しみを口に入れる。
クリスマスの飾りを片付けなければいけないと分かっていてできない、私の夫だった人の気持ち。
私の体が、繊細な糸に変わっていく。
部屋にある母親の残したのと同じ色の糸だ。
偏食が私の手をとってにっこりと笑う。
「ね。この気持ちってあんたの人生最後のおくりものだね。
アタシがちゃんと届けてあげるよ」
涙があふれる。
涙も体もどんどん糸になっていく。
偏食に答えたくても、声が出ない。
さようなら、私の家族。
はやく二人がおだやかに過ごせますように・・・
ごめんね・・・
「あーあ。いなくなっちゃったぁ。」
アタシはつぶやく。
手には優しくてきれいな気持ちがある。
アタシはそれをちょっと食べる。
そしてこの家の住人が二人そろうのを待つ。
この「おくりもの」ちゃんと届けなきゃね。
なんたってアタシはおくりものの精なんだから。




