第二十九話 戦後
「……うぅ、さぶっ」
――凍えるような風が吹く、夜の森林。
俺とナタリーとカオルは、少し開けた場所で焚き火をしながら夜を明かしていた。
「いやぁー、ちゃんと出られてよかったわね」
「……こっちも死ぬ寸前だったけどな」
あの後、文字通りカオルが全て焼き尽くしたあと、俺達は、いつの間にか畑に囲まれた夜道に立っていた。
恐らく、カオルが焼き尽くした中に魔法陣もあったのだろう。
「…………」
モゾモゾ、と、視界の端で白い物体が動いた。
……ナタリーだ。
寒いからと言って厚着の返信を重ねた結果、モコモコになった物体から顔だけを出している。
「……それ、俺もやりたいな〜ナタリーちゃん?」
「無理なのです。この服は、私の身体から離れると消えてしまうのです」
ふにゃー、と眠そうな顔で言うナタリー。
ち、畜生……、一人だけゆうゆうと寝る気かっ!?
「カオルもなんか言ってやれよ。ナタリーだけズルいって」
「無理。ホテル壊れたの私のせいだし、何も言えないわよ」
「……あのう、御二方、何だか仲良くなられました?」
ナタリーが、目をキラキラさせて言った。
……まあ、仲良くなったっちゃあなったかも。
ちらっとカオルの方を向くと、照れたように目を逸らした。
いや、だからそういう反応されると……。
ナタリーがニヤニヤとした。
「それになんだか名前で呼びあってますし……、これはまさかまさかなのです?」
「も、もうっ!! ナタリーちゃ……」
「あ、私の事もナタリーとお呼びください! カオル様っ!!」
間髪入れずに言うナタリー。カオルはこくこくこくと頷いた。
……まあ何にせよ助かった。
カオルが居なかったら、今頃俺とナタリーはホテルの床の中に居るだろう。
……そう言えばネギーバだっけ?
あいつは生きているのだろうか。カオルが全て吹っ飛ばしてしまってから、声すら聞えなかったが。
――まあ、死んでいたらよし。
死んでなかったらもう一度殺すべしだ。
「……って、何してんだ?」
いつの間にか静かになっていた二人の方を見ると……、服の塊の中から出ている顔が、二つになっていた。
「ふへぇ……あったかい……」
「カオル様とこんなに密着……ナタリーは幸せ者なのです……」
「……」
……なんとも美しく、微笑ましい光景であろうか。
しかし、そんなの干渉する隙もないほど、俺の身体はヒエッヒエである。
しかし、入れて〜なんて言いながらこの神聖な領域に踏み込んでいいのか?
汚れた男が、この百合領域に……。
――そんなこんなで俺が二人に熱い視線を送っていると、それに気づいたナタリーが、小悪魔じみた微笑みを浮かべた。
「……勇者様も、来るのです?」
――――いきまァァァァァァァァァす!!!!
◆◆
『キキキ、キキキキキキキ』
暗い、暗い、夜の道。
闇に隠れるように、黒いフードの者がヨタヨタと、産まれたての小鹿のように歩いていた。
『きききぇ、きききききききききききき』
『しくじったな、ネギーバ』
ネギーバは、ハッと正面を向いた。
誰も居なかったはずのそこには――金色の髪をした少女が立っていた。
少女は燃えるような赤い瞳を輝かせ、見下すような視線をネギーバへ向ける。
『四天王の一角とあろうものが、情けない。所詮、イグナもお前もその程度だったということか』
『アルベラ……、わた、ワタシは、まだ失敗したわけではない……』
『いや、もういい。お前には何一つ期待していないが、ここで無駄死にされても魔王様のなんの得にもならない。次はゼノンがでるから、お前は大人しくしていろ』
アルベラ、と呼ばれた少女はそう言い捨てて、悪魔らしいコウモリのような翼を広げて、空へ飛び立って行った。
◇◇
「……あ、やっと電車きたよ」
ガタン、ゴトン、と今日一番の電車がやってきた。
停車した電車に、我先にと俺達は乗り込む。
ふぅーーーー、あったかいぜ。
久々に文明の力に触れた気がした。
「にしても、迷惑な四天王だったのです! 私たちのお泊まり会に水を差すなんて!」
「……お泊まり会だっけ?」
「え、違ったのですか?」
ナタリーが首を傾げた。
ほ、本来の目的を忘れてしまっている……。
カオルがクスリと笑った。
「お泊まり会かぁ。私もやってみたいかも」
「ぬぬっ!? それは聞き捨てならないのですカオル様っ!! 勇者様、今日やりましょうすぐやりましょうっ!!」
「うっ……お前なんでそんなに元気なんだ?」
「エルフは異世界では基本木の上とかで寝るので、別になんともないのです」
そうか……俺はめちゃくちゃ体痛いけどな!
カオルも肩を自分で揉みながら、仕切りに伸びたりしていた。
……そうだよなぁ、その胸じゃあすぐ凝りそうだよなぁ。
そんな邪念が届いてしまったらしく、カオルがサッと前を隠して、ジロっと見てきた。
俺は口笛を拭きながら目を逸らして、ナタリーの方を向いた。
ナタリーも伸びをしていたが……、こっちは随分……平た――。
べしっ、とナタリーに頭を叩かれる。
「今しつれーな事思われた気がしたのです」
「私も〜」
「……憶測で判断するのは良くないぞ」
――そんなこんなで、俺達は元の街へ戻った。
きっと二度とあの駅で降りることは無いだろう。




