手帳4-4
刑務官
私は母の言う通り、一切の抵抗もせず、袋叩きにされて、全治二週間の重症を負った。
私は病院のベッドの天井を見ていた。
一体母は何を考えて私に「殴られて来い」などと言ったのだろうかと考えていた。
その答えは恐喝だった。
母と父は私に一方的に重症を負わせた事をネタに、加害者となった彼と彼の親に、警察沙汰にしないからカネを出せと、恐喝していたのは後に分かった事だった。
両親がニコニコとした顔で、「大丈夫かい?」と見舞いに来ていた。
私は両親が、何がそんなに楽しいのか、全く分からなかった。
「痛い。目が回って気持ち悪い。」
そう言うと睡魔と吐き気が襲ってきた。
「そう。これでジュースでも買いなさい。」
両親は私の着替えと少々のお金を置いて、病室を出て行った。
何かが引っかかっていたが、当時はそれが何なのか分からなかった。
今ならわかる。
何故入院出来たのか、そして普段は小遣いも出さない母が、気前良くお金を置いて行ったのかが、引っかかっていた疑問だったのだ。
次の日、少し回復していたようなので、貰った小遣いで、病院のロビーの自販機で、飲み物を買っていた。
その時にロビーに居た50歳ぐらいの男性に声を掛けられた。
「その傷は普通じゃないね。学校でやられたのかい?」
目つきが普通ではない男性に声を掛けられた。
「あなたは?」
私はその男性をスジモノだと思ったのだ。
「おっと、これは失礼。私はこういう者だ。」
スーツ姿の目つきの鋭い男性は、私に名刺をくれた。
私はロビーの長椅子に座る男性の横に座って、名刺をくれた男性の話を聞く事にした。
「君を傷つけたような連中に罰を与えたいと思わないかい?」
男性がそう言うと、「それにしてもひどい有様だ。最近の子供はここまでやるのか」などと言って私を見ていた。
私は只ならぬ男性の纏う雰囲気に恐怖を感じ、目を逸らせて俯いてしまった。
「そうです。6人にフクロにされました。」
私は正直に、だが的外れな言葉を、男性に答えた。
「君ならきっと良い仕事をしてくれると私は思う。」
そう言われ、私は顔を上げて男性の顔を見た。
男性は確信に満ちた顔をしていたのを良く覚えている。
「気が向いたら連絡してくれたまえ」
もらった名刺を見ていて、進路について考えていた。
「刑務官…か。」
私は目が回って、気持ち悪くて、思考があまり回らなかった。
「大介、来たぞ。…何だこれは」
見舞いに来た父が、私から名刺を取り上げて、わなわなと震えていた。
「どこのどいつだ!こんなもの!」
父は名刺を破いて捨てた。
父は刑務官に何の恨みがあるのだろうかと、私は当時は分からなかった。
だが、今なら分かる。
父は直接刑務官と関わった事があり、そしてひどい目に合わされた事があったのだろう。
それは数日後に分かる話だった。
私が刑務官になっていたら、果たしてどんな人生になっていたのだろうか。
この世界には、どうしようもならない、法律を靴の裏程度にしか考えない人間が、雑草のようにゴロゴロ存在している。
ただ言えるのは、父が私の未来の一つを、破り捨てたと言う事だけだった。
私は退院してから1週間程休む事になった。
2017.7.28 金曜日 平成29年




