手帳4-3
制裁の始まり
「おいお前、テストの答案を見せろ」
テスト時間の半分を過ぎた頃、隣の目つきの悪い男子生徒に小声で声を掛けられた。
「なぜ?」
私は嫌悪感を露わにして、そう返した。
テストというものは個人の学力を評価するものであって、それを他人から教えて貰うものではなく、そして不正は私の中では悪だった。
「いいから見せろ。時間がない」
イライラとしているのがわかった。
この悪の塊みたいな男に不正の手伝いをさせるのが、とても不快だった。
「嫌だ。」
私はきっぱりと答えて答案を伏せた。
「そこ。何を話している!テスト中だぞ」
教員が私と隣の男子生徒に激を飛ばした。
「覚えていろよてめえ」
そう彼は言うとガリガリと音を立てて必死に答案に書き込んでいた。
テストが終わり、答案が回収されてから教員が教室を去った後、隣の男子生徒が立ち上がった。
「おうテメエ、ちょっとツラ貸せや」
明らかに怒っている。
私は付き合う義理も義務も無いと思い、無視をした。
すると4人程教室の席から立ち上がり私を囲んだ。
「お前に拒否権なんてねーんだわ。立て。」
私は服を掴まれて、学校の玄関前に連れて行かれた。
職員室から見えない場所だった。
「俺の言う事聞かない野郎は初めてだよ。ああん?」
首を上下に振りながら威嚇してくる。
本当にこの学校は、頭が悪い奴らでいっぱいだと、私はうんざりしていた。
「聞いてんのかよコラあ!」
彼は私の胸倉を掴んだ。
その瞬間、私は反射的に彼の手首を捻り上げ、関節を極めて倒してしまった。
ギリギリと歯軋りを立てて立ち上がる彼。
おい大丈夫か、こいつふざけやがって、などと周りの4人が彼を支えた。
「上等だタイマンだよ」
彼は私を指差し、そう言い放った。
「来週の土曜日放課後!決着つけてやる!それまでに無駄な体力作りでもしてるんだな!クソが!」
そう言うと私が捻りあげた右手を押さえながら去って行った。
「あいつはつえーぞ…」
取り巻きの1人が私の耳元で囁いて去って行った。
さてどうしたものやら。
私は教員に相談してみた。
「うーん、誰も見ていなかったし、まだ何も起こっていない事には対処できないなあ。」
職員室で雑な対応を担任教員から受けた。
この学校は本当にクソだなと当時も今も思う。
帰宅した後に相談したのは母だった。
「そうなの?わかった。」
初めて母が頼りになると思ったが、次の言葉は信じられないような言葉が続いた。
「殴らせるだけいいに殴らせてあげなさい。後は私がやるから。」
驚いた。
母は自分の身を守るために「怪我をさせない程度に相手をしなさい」とか、「その彼の親に抗議してやる」とか、そういう類の的確な対応ではなく、彼のサンドバッグになれというのだ。
「良い?絶対に反撃したらダメよ?」
母は念を押して私に命令した。
何か考えがあっての事だろうと、私は了解したのだった。
今考えてみたら、母は「私からの暴力の復讐」をしたかったのだと思う。
私は人の気持ちを考えられない、愚かで、お金が稼げない無力な人間だった。
2017.7.28 金曜日 平成29年




