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アキラぐーるぐる

 アイドル系の女の子はそれからも度々コンビニに現れた。今日もバイト上がりの時間近くに現れ、やはり勘違いではなく確かにアキラを窺き見てくるのだった。

目が合うたびにドキリとするアキラはその度に商品を落としそうになり、なんとか女の子から意識を逸らそうと頑張った。


アキラはバイトが終わると帰宅を急いだ。もしかしたら、アイドル系女子が待ち伏せしていないだろうかと、嬉しい期待に胸ふくらませコンビニを出たが、そんな気配は無かったので少々気落ちして仕事休みの奈美が待っているアパートに急いだ。


今日はまじないの仕事が入っていて、正午には『わかば』に客が来るのだ。

奈美からは客は大学生と聞いていたが、自分と同年代かも知れない男が一万五千円も出してモテたいなんて贅沢だと乗り気ではなかった。



奈美とアキラは喫茶『わかば』に五分前に着いた。


「おや、お二人さん今日はまじないだったね、昼ご飯食先に食べちゃうかい?」


 静江に聞かれ、奈美はカウンターに座りながら言った。


「ううん、まじないが終わってからにする。もうすぐ客が来るだろうしね、コーヒーだけもらえる?」


「はいよ、アキラちゃん。ボーっとしてないで座りなよ」


「あ、は、はい」


 アキラが座り忘れたのには訳があった。

一番奥ののテーブル席に背中を向け座っている客がいる。

後ろ姿でも分かるファッションとヘアースタイルは間違いなく、あのアイドル系の女の子だったのだ。

アキラの心中は慌てふためいていた。

これから、まじないなのに、自分に告白劇が繰り広げられたら大変な事になってしまうと、奈美と女の子の修羅場の予感にコーヒーカップは受け皿の上でカタカタ揺れた。


まじないの客は約束の時間を十分過ぎても来ない。


「変だわね? 来ないわね」


 奈美が呟いたその時だった。

カタリっと音がして、女の子が立ち上がりこっちに向かって歩いて来た。

アキラの手の中のコーヒーは荒れた海のように波立ちカップの防波堤を乗り越えた。


「あのう」


 ヤバイ!アキラは目をつぶった。


「おまじない……わたくしにやって欲しいんですの」


「え!?」


 奈美、アキラ、静江は声をあげ、女の子を見つめた。


人選責任者の静江が一番慌てていた。


「ちょっと待っとくれ、ハートのメモに書いていったのは、暗い男の子だったじゃないか?」


「ああ、奥田聡ですね。彼は大学のサークルの後輩なんですの。彼に頼んで『わかば』で申込みをしていただいだんです。だって、噂によると男をモテさせるのでしょう? 女では断られると思いまして……ごめんなさい……わたくし、女にモテたいんですの……」


「…………」


 暫く『わかば』に沈黙が流れた。


「申し遅れました。わたくし正根寺緑子(しょうこんちみどりこ)と言います。恋愛対象が女性ですの。殿方は嫌いですの……特に濃い体毛とか信じられませんわ、女性は滑らかで、柔らかくて好みなんです」


 アキラは意外な展開に呆気にとられ、思考が止まっていた。


困り果てた奈美が、仕方なく重い口を開いた。


「あのね、まじないを女の子にした事が無いのよ。男だったら確実なんだけど……まじないをやった所で貴女が女にモテるかどうか解らないのよ……」


「え? 解らないのですか? お調べしたところ、お姉さまとそちらの方は恋人同士じゃありませんの? 一緒に住んでいらしゃるんでしょ……調べによると、おまじないはそちらの方が抱きつく妙なものだと……お姉様なら効果がわかるんじゃありません?


 え…………あ、御免なさい、そういう事でしたのね、まだお済でらっしゃらないのですね」


 正根寺緑子の的を得た指摘に、アキラは顔を赤くし俯き上目遣いに奈美と緑子のやり取りを見守るしかなかった。


奈美は冷静だった。


「さっきお調べしましたって、言いましたけど。緑子さんは女にモテたい、だけ、ではないのでは?」


「流石、お姉さまですわ! 思った通りです。詳しくお話しますね」


 正根寺緑子は大学二年でオカルトサークルに所属している。緑子が現在興味を持って調べているテーマがあり、それが都市伝説なのだ。

都市伝説はネットや口コミなどの噂から急激に広がり、実しやかに囁かれ続ける。それを噂の段階でキャッチし、都市伝説になる様を実証し学園祭での発表を目標にしているのだと言う。

そして、ネットサーフィンをしながら見つけたのが「モテない男をモテさせるまじないの噂」だった。


「普通の都市伝説ですと、妖怪の類とか霊的なものが多いでしょう? それがこの噂は内容が現実的で、しかも金額まで掲示してありました。眉唾物が多い中で、これは本物ではないかしらと、わたくしピンときましたのよ」


「そんなに、噂は広がっているのかしら?」


「お姉さまそれはもう、都市伝説になるのは時間の問題ですわよ! お願いです。女性で試した事が無いのなら、わたくしを使って実験してみて下さいませんか? 勿論、お代は支払いますので

……それに……女性が好きなのは本当なんです。」


 奈美は迷ったが、アキラの特異体質の能力の範囲は商売をやる以上把握しておかなければならないと考えた。


「わかったわ、緑子さん。やりましょう!」


「ありがとうございます、お姉さま。わたくしお姉さま達のこのお仕事にも協力させて頂きますので、よろしくお願いします」


「いいのかい? 奈美? アキラちゃんが緑子ちゃんに抱きつくんだろ?」


 静江の言葉にアキラはひっくり返りそうになった。

僕が、アイドル緑子に抱きつくのか? しかも、上半身を脱いで? え? 嘘だろ? 奈美ちゃんの前でだぞ、困る……絶対困る……でも、嬉しい……いやいやヤバイ、嬉しい……困る……。

もう、頭の中はパニックのロンドだった。


「緑子さん、こちらにどうぞ」


 奈美は緑子をまじない部屋に誘導した。


大混乱中のアキラに静江は言った。


「奈美がいいって言うんだから、アキラちゃん頑張りな。いやあ、商売ってのは厳しいねー」


 わかばの魔女の言葉にもなかなか足が前に出ないアキラだった。

グズグズしているアキラに痺れを切らして、奈美がまじない部屋から首を出した。


「アキラ! 何やってるのよ! 緑子さん準備できてるわよ!」


アキラは油の切れたロボットのような足取りで、まじない部屋に入って行った。








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